第75話 マーメイド自警団
「ボボボボボボボボボボボ!?」
「お、おいやめろ! このままじゃ溺れ」
バシュバシュバシュバシュ!!
「ボヴァッ!?」
突如大量の水鉄砲に襲撃されて手足をバタバタさせながら水の中に沈んでいく男性客。
慌てて止めようとするもう一人の男性も水弾を食らい、そのまま二人してマーメイドの街に沈んでいった。
「よし、発砲終了! あのクソどもは回収して連行だ!」
「「はっ!!」」
消火活動を完了させた消防隊員……ではなく、腕や胸元にタトゥーの入った怖そうなマーメイドのお姉さんたちが溺れた男性客を回収して撤収していく。
そしてなんとオレたちが荷物を届ける予定の病院へと入っていった。
「……自給、自足?」
「マッチポンプにゃ」
いや、どちらかと言うと警察&救急隊員って感じだったけどな。
「店の方は荒らされたりはしてないようだね。そっちのボウヤは大丈夫かい?」
「あ、ああ……」
他のマーメイドたちに指示を出していたリーダーっぽいお姉さん。
右目に眼帯、鼻の上に横一線の切り傷、お腹から下半身の鱗にかけて刻まれたドラロドンの骸骨みたいなタトゥー……これはさすがに海賊のキャプテンとかじゃないか?
「って、よく見たらピーターの船じゃないか。街から医療セットを持ってきてくれたのかい?」
「久しぶりだなピッチ。相変わらず自警団もやってるのか」
「最近は減ったけど、ああいうクソ客がたまにいるからね。ここにはシグレと違って腕っぷしの良い冒険者が常駐してるわけじゃないんだ、か弱いマーメイドのアタシらは自衛していかないと」
ピーター船長にピッチと呼ばれたこのマーメイド族の女性はどうやら人魚新地でのトラブルを防ぐための自警団の団長をやっているらしかった。
この人はか弱いマーメイド……ではなさそうだけど。
「おっと、自己紹介が遅れたね。アタシはピッチ。ハイドラ島マーメイド居住区の人魚新地で医者をやっている者だ。以後お見知りおきを」
「あ、ああ。オレは冒険者のホムラだ、こちらこそよろしく……って、え? 医者?」
「マフィアじゃないのかにゃ!?」
「……マフィン?」
久しぶりマフィア焼いてます☆焼き上がりが待ち遠しい~
「はっはっは! そっちは趣味みたいなもんさ。ちなみにマフィアじゃなくて自警団だ。アンタらも風呂屋に沈めてやろうか? そしたらアタシのファミリーだ」
「いや完全にマフィアのセリフじゃねえか」
「ピーター、また嫁と娘に黙って〝生卵〟を食いに来たんだろ?」
「ま、まるでオイラが前にも食ったことがあるみたいな言い方は止めろ。仕事以外で人魚新地に来たことないだろ」
昔からの知り合いなのか、ピーター船長とピッチさんはかなりくだけた感じで会話を楽しんでいた。
さっきから風呂屋がどうとか生卵がどうとか、ちょっと何言ってるのかオレには分からなかったが。
「ピッチはそこの病院の医者兼院長なんだ。つまり今回の仕事の受取人ってことだな」
「いやあ助かったよ。最近は魔物の影響でハイドラ島になかなか物資が届かなくてね。来るのはピチピチの人魚姫と遊びたい命知らずな男どもだけ……まあ、おかげでこの街も稼がせて貰っちゃあいるけどね」
ピーター船長が渡した荷物を開封して中身を確認するピッチさん。
チラッと見えたそれは、ピンク色の液体が入っている小魚の形の瓶が詰まったケースだった。
なんかあれだな、弁当に入ってる醤油入れみたいな感じで可愛い。
「それってなんのお薬にゃ?」
「……売ってるの、見たことない」
「これかい? これはねえ、マーメイドの避妊薬さ」
「避妊薬?」
「これを事前に飲んでおくことで、男と一緒にお風呂に入ってもタマゴが有精卵になることを防げるってわけさ」
「にゃるほどお」
女性しかいないマーメイド族の子作り事情はよく分からんが、まあこの人魚新地という歓楽街には必要不可欠な薬ではあるみたいだ。
「……ちーも、ホムラとお風呂に入ったら子供ができる?」
「できねえよ」
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