第74話 人魚新地と迷惑客
「さてと、荷物の届け先はこの奥なんだが……どうすっかなあ」
マーメイド居住区の入り口付近に広がる観光客向けのエリアを抜けて、少し雑多な街並みが広がる一角にやってきた。
そこには『ようこそ人魚新地へ』と書かれたアーチ状の看板が設置され、昔ながらの商店街……とはまたちょっと雰囲気が違う感じのお店が並んでいた。
「ここが人魚新地か……」
「欲望渦巻く男の隠れ家にゃ」
「……秘密基地、たのしそう」
マーメイド居住区に突如現れた謎のエリア、人魚新地。
冒険者ギルドのお姉さんもピーター船長も説明するときにだいぶ言葉を選んでいたというか、全体的にふわっと話してくれただけだったけど、まあなんとなく理解は出来た。
要するに、マーメイド族の女の子たちとちょっとしたお話しからえっちなことまで色々と遊べる歓楽街ってとこだろう。
いや分かんないけどね……オレ高一で死んだからそういう店に行った事ないし。漫画とかドラマの知識だけだから。
「ホムラは今13だったよな。さすがに教育に悪いか……?」
「気にしなくて良いよ。普通の冒険者と同じように扱ってくれ」
「ホムラにはクロがいるから大丈夫にゃ。妖しいお誘いは全てシャットアウトにゃ」
「……どきどき、わくわく」
むしろチユのほうが教育に悪いかもしれない。
ものすごく純粋な目で通りがかる際どい服装の人魚姫たちを眺めていた。
「……ホムラ、ハプニング酒場ってなに?」
「なんだそれ。飯食ってたらハプニングが起こるってことか……? お化け屋敷みたいな感じじゃね?」
「……おばけやしき!」
「ちょっと面白そうだな……なあ船長、ここってお化け屋敷」
「全然違うぞ」
―― ――
「この先の道をまっすぐ行くと、突き当りに病院があるんだ。そこに荷物を届けたらおしまいだ」
「病院宛だったのか」
緊急クエストってことで依頼主が結構急いでる感じだったからな。
お医者さんへの届け物ってことなら納得だ。
「そこのぼく、お姉さんと良いことしな~い?」
「2時間3万エルでどう? あ、もちろんこっちが払うわよ~」
「いや、オレは……」
「シッシッ! ホムラは魚に欲情するような男じゃないにゃ!」
「あら失礼。そっちだって猫じゃない」
人魚新地の通りにいるマーメイドのお姉さん達に声をかけられる度、虫でも追い払うかのように威嚇するクロム。
「……ん? おわぁっ!?」
「はあ、はあ……中々すてきな腹筋してるわね君……」
「ちょっ!? 水中から来るのは勘弁してくれ!」
そんな感じでだらだらと絡んでくるマーメイド女子たちを躱しながら目的地までもう少し、というところだった。
「おい、なんだよ! 〝有精卵〟が食えないってどういうことだよ!!」
「それが楽しみで来てやったのによう!!」
「申し訳ございませんお客様……有精卵の提供は違法となっておりますので……」
「知らねえよ! そんなの無精卵だって言って出せよ! 食っちまったら分かんねえだろ?」
「さすがにそれは……」
人魚新地にあるレストランの前で言い合いになっている人間族の客とマーメイド族の店員を発見する。
有精卵だの無精卵だの、なんか穏やかじゃないというか、少し懐かしい記憶というか……
「おい、あんたらどっから来たんだ? マーメイド族の有精卵食はずいぶん昔に国から禁止にされただろ」
「そんなの分かってんだよ! でもここでなら食えるんだろ!?」
「どこからそんなデマ情報を聞いたのか知らねえが、人魚新地で有精卵の提供をやってるなんて聞いたことねえぞ」
トラブルの匂いを感じ取ったピーター船長が観光客らしき二人組の男性に話しかける。
マーメイド族の有精卵……アヒルのバロット料理みたいなものだろうか。
てかマーメイド族って卵生だったんだ。
「まあ、今回はタチの悪い冗談に騙されたとでも思って大人しく帰るんだな」
「るっせえ!! さっきからごちゃごちゃと……関係ないやつはすっこんでろ!」
船長が乗ってる船に向かってゆっくりと近づいてくる男性客。
なんでゆっくりかというと、腰辺りまで水に浸かってて水圧があるから。
ここはさすがに護衛の出番だろう。
「おい、あんたらいい加減に……」
「ああ!? なん」
バシュッ!!
「グホァッ!?」
手を出してきたらぶっ飛ばしてやろうと思っていたところ、どこかから消防車の給水ホースのような勢いで水鉄砲が飛んできて男性の腹に直撃する。
「なっなんだ!?」
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