第73話 マーメイド居住区
「さあ着いたぞ、ここがハイドラ島だ」
ドラロドンを撃退したオレたちは、その後も度々襲いかかってくる魔物から輸送船を守り続け、遂に目的地のハイドラ島へ到着した。
なんだかんだ言って最初に戦ったドラロドンが一番強かったかもな……まあオレは戦ってないんだけど。
「入航の手続きをしてくるから少し待っててくれ」
停泊所に船を停めたピーター船長が島の入り口にある大きな門の傍に待機していたマーメイド族の女性のところへ。
このハイドラ島は面積のほとんどが『マングローブ』といわれる水面下に根を張る植物で形成されている湿地系のジャングルで、魔物も多く生息しているダンジョン島だ。
しかしその島の一部に『マーメイド族』という上半身が人型、下半身が魚類のような亜人族の居住区があり、そのエリア周辺だけは安全だと言われている。
「おお、あれがマーメイド族……」
「まさに人魚にゃ……」
「クロム、下半身が魚みたいだからって食べようとするんじゃないぞ」
「そんなことしないにゃ」
今回の依頼を受けるにあたって事前に冒険者ギルドのお姉さんからマーメイド族についての情報を聞いていたが、実際にこうやって目の当たりにすると凄くファンタジーみを感じてテンションが上がってしまう。
普通の人間と同じように呼吸をすることができるマーメイド族だが、人の身体と魚の身体の境目辺りにエラのような呼吸器官が付いていて、水中でも問題なく生活できるという。
しかし基本的には地上で生活している人が多く、それでいて下半身は乾燥に弱いため、常に水に浸かるようにマーメイド居住区は半分水没したような造りになっていた。
「……ちー、泳げない」
「クロは泳げるけど尻尾を濡らしたくないにゃ」
「まあ足が届かないほど深い所は地下室とかくらいだろうし、マーメイド族以外の人の為の移動用小型ボートも貸し出してるらしいから大丈夫だろ」
居住区の大通りは大体オレの腰上くらいまで水がきてる感じだから、さすがに服のまま進むのは嫌だな……
「おーい、待たせたな。それじゃあ行こうか」
「船長、こっから先はどうやって進むんだ?」
「荷物もあるし、ボートを1台借りてある。だが……」
「だが?」
「借りたボートが3人乗りなんで、ホムラには水着をレンタルしてやったぞ」
「マジかよ」
ドラ〇も~ん! ス〇夫がいじわるして船に乗せてくれないんだが。
―― ――
「あらかわいいお客さん。ハイドラ島へようこそ」
「お父さんのお仕事の手伝いかしら? 偉いわね~」
「人間族なのに泳ぐのがとっても上手だわ」
「いや、ちょっと、あの……」
「人魚がめっちゃホムラに絡んでくるにゃ!?」
荷物とクロムたちを乗せたボートを後ろから押しながら泳ぐオレに話しかけてくるマーメイド族のお姉さん達。
なんとマーメイド族は種族として女性しかいないらしく、男で、しかも人間族の子供というのはハイドラ島に来ること自体が珍しいのでこうやって興味津々な人が多いのだとか。
「お土産に美味しいお魚の笹漬けはいかがかしら~? そっちの子猫ちゃん、試食どうぞ~」
「クロは別にそんにゃの……はぐ、もぐもぐ……めっちゃ美味いにゃ!」
「是非帰りに寄ってって~」
「絶対寄るにゃ!」
クロムはお土産屋さんから貰った試食を食べてただの観光客になっていた。
このマーメイド居住区はシグレの街が観光事業を始めるずっと前から観光地として栄えているらしく、おおらかな彼女たちの性格と相まって『また行きたい! シェンドラ王国おすすめ観光地スポット』で毎年上位に入っているらしい。
「……ホムラみて、おっきいウロコもらった」
「そうか、良かったな」
…………。
『また行きたい! シェンドラ王国おすすめ観光地スポット』ってなんだよ。
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