第72話 最終兵器クロム
ハイドラ島へ向かうオレたちの前にいきなり出現したのは、まるで古代の首長竜のような男のロマン溢れる見た目の魔物だった。
「ギャオオオオオオオオオオオオオン!!」
「せ、船長! この魔物は一体なんなんだ!?」
「こいつはドラロドンだ! 長い首を使って飛んでる鳥も食っちまう危険な魔物だぞ!」
ピーター船長がドラロドンと呼んだ魔物は、水中から首を伸ばして船の頭上まで顔を近づけてこちらを捕食しようとしていた。
「さて、どうやって倒すか……」
イグニッションフレイムは炎が船に燃え移ったら危険だしなあ。
襲いかかってきた所を思いっきりぶん殴って吹っ飛ばす……いや、これだけでかいと船の近くで水しぶきが大きくなって転覆の可能性が……
「口を開けたところを目がけてイグニッションフレイムで中から燃やすとか?」
……なんか爆発とかしたら嫌だなあ。
「うーむ……」
「ホムラ、ここはクロにお任せにゃ!」
「ん?」
今にもこちらへ襲いかかって来そうなドラロドンの前に立ち、戦闘の構えをとるクロム。
どうやらなにか秘策があるらしい。
「たまにはクロにも活躍させてほしいのにゃ!」
「クロム、いけるのか?」
「バッチコイにゃ! チユ~!!」
「……あいあいさー」
オレの後ろでチユがなにか呪文を唱えだす。
その間、クロムがドラロドンの注意を引き付けて攻撃を引き受ける。
……よし、今回は二人を信じて任せよう。
「ギャオオオオオオオン!!」
「ほ~ら、こっちだにゃ~!」
「さすがネコの嬢ちゃん、随分と身軽だなあ」
「瞬発力は人間族より全然上だな。オレもあそこまで俊敏な動きは出来ないと思う」
「小石ひとつ投げるだけで飛んでるヒトクイサギを撃ち殺せるホムラに瞬発力はいらんだろ」
オレの事をライフル銃かなにかだと思っているピーター船長。
まったく失礼しちゃうぜ……オレはどっちかっていうと火炎放射器だ。
「……クロム、魔法いくよ」
「待ってましたにゃっ!」
「……〝エネルガ〟」
チユがバフ魔法らしきものをチユに発動する。
すると、クロムの両手が『ギシギシ、ギシ』と音を立てて形を変えていき、最終的に死神の大鎌もびっくりな鋭いカギ爪を持った巨大な猫の手に変化した。
「な、なんだありゃあ……!?」
「……ちーが唱えたのは、活性化の魔法」
「活性化?」
「……ネコネコ族の、封印されしちから」
なんだそれ……めちゃめちゃかっけえ……
「ギャオオオオオオオオオオオオン!!」
「さあ、こっちに来るにゃ!」
両手に計10本もの刃を付けたクロムが首を伸ばして襲いかかってきたドラロドンの頭上に飛び上がり、両手のかぎ爪で首元に狙いを定める。
「ギャオッ!?」
「いっくにゃあああああああああああああ!!!!」
クロムはそのまま飛び上がった際の落下の勢いを利用し、ドラロドンの首を目がけて思い切りかぎ爪を振り下ろした。
ザシュゥッッッッッ!!!!
「ギャッ」
ボトボトボトッ!! ゴロゴロゴロゴロ!!
「うわぁっ!?」
クロムは見事ドラロドンの長い首を切断し、輪切りになった首や頭部が船の上に転がり落ちてくる。
そして、首を失ったドラロドンの身体はそのまま静かに湖の底へ沈んでいった。
「ふう……またつまらにゃいモノを切ってしまったにゃ」
「お、おお……すごいなネコの嬢ちゃん……」
「……ドラロドンの首、げっと」
これどうすんだろ。ドラロドンって食えんのかな?
「それにしても、こんな必殺技を持ってたなんてな。めちゃめちゃかっこよかったぞクロム」
「ホムラが褒めてくれたにゃ! ホムラ~!!」
「ちょっ!? その腕のまま抱き着こうとしてくるな! オレが輪切りになっちゃうだろ!?」
チユがクロムにかけた魔法の効果が切れるまで、オレは瞬発力バツグンのカマキリ猫女と追いかけっこをする羽目になった。
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