第71話 ハイドラ島へ
「はっはっは! まさかクエスト依頼を受けてくれたのがアンタたちだったとはな!」
「オレたちもびっくりだよ」
「船長さん、また会ったにゃ!」
ハイドラ島へ向かう輸送船の護衛クエストを受けたオレたちは、依頼主が早急に荷物を届けたいということで、早速次の日の朝に輸送船の船長と合流した。
するとそこにいたのは、オレたちを船でシグレの街まで運んでくれた『ハイドラ・スイムバス』の船長……ウシロの父親だった。
「輸送船の船長を務めるピーターだ。改めてよろしくな!」
「よろしくお願いします!」
船長なのにフックじゃなくてピーターなんだ。
いやまあ全然良いんだけど。
「ピーター船長が依頼主にゃ?」
「いんや、オイラは依頼主の荷物を届けるだけの雇われ船長さ。輸送船を動かすのに『護衛がいるなら仕事を受けるぜ』って言ってたら、昨日の晩になって急に『護衛の都合がついたから出来るだけ早く届けてくれ』ってさ」
輸送料金倍増しでお願いされたらしい。
そんなに急ぎの荷物なのか。
「そういえばホムラ、聞いたぜ。うちの娘とオヤジに会ったんだってな」
「ああ、まさかの身内でびっくりしたよ」
「どうだい? うちの娘、元気があって可愛らしいだろ」
「いや、まあ……あはは」
「「じ~……」」
「な、なんだお前ら」
オレとピーター船長の会話を聞きながら何とも言えない表情をするクロムとチユ。
「べっつに~? クロだって毎日元気いっぱいだけどにゃ~って思って」
「……ちーは、元気ない?」
「チユは独特のマイペースさがあって良いと思うぞ」
癒し枠だからな、チユは。
ジョブもヒーラーだし。
「それじゃあ遅くなってもあれだし、早速出発するか。荷物の届け先はハイドラ島の人魚新地……うーん、人魚新地なんだよなあ……」
「なにか問題があるのか?」
「まあちょっとな」
冒険者ギルドのお姉さんからも気を付けるように言われたけど、マーメイド族ってのはそんなに危険な種族なんだろうか。
「オイラは別に良いんだが、ホムラたちみたいなお子様には少し刺激が強すぎる歓楽街……いや、男の隠れ家ってやつさ」
「大人の遊び場だの、男の隠れ家だの……」
「なーんか、なんとなく色々と察しちゃうにゃ」
「……ひみつきち?」
―― ――
「ほら、見えてきたぞ。あれがハイドラ島だ」
シグレの街を出航して数時間。
まるで太平洋のど真ん中いるかのごとく辺り一面が湖だった視界の一部に陸地が飛び込んでくる。
「ようやく見えてきたにゃ~」
「意外とここまで安全だったな」
前回のようなヒトクイサギに襲われることもなく、たまに魚が飛び跳ねるくらいしか生き物を見かけなかった。
この感じで島に着くようなら護衛もいらなかったんじゃないかと思ってしまうくらい平和だ。
「ハイドラ湖に漂う魔力の大本がハイドラ島だからな。島から遠ければ普通は魔物に襲われるってことはほとんど無いのさ」
「ふーん……ん?」
そんなことを話しながら遠くに見えるハイドラ島を眺めていたら、なんとなく空気中に漂う魔力の雰囲気が感じ取れるようになってくる。
この辺りはまだヴォルケイム火山地帯の入り口と同じくらいか……これが島に近づくにつれて濃くなっていくんだな。
「……ここから先が、危険地帯かも」
「チユにも分かるか」
「なにが分かるんだにゃ?」
「……ちーとホムラの、秘密」
「ズルいにゃ! クロにも分かるように説明してにゃ!」
「はっはっは! 魔物が出てくるかもしんねえってことさ、ネコの嬢ちゃん」
少し速度を落として島に向かう輸送船。
どうやらピーター船長も長年の経験で理解しているらしい。
「さあ、上から来るか? それとも……」
…………。
……ブクブクブク。
「……ん?」
ブクブクブク!! ザッバアアアアアアアアン!!
「ギャオオオオオオオン!!」
「うわぁっ!?」
「下から来たにゃっ!?」
水面が揺れて大きな泡が発生したと思った瞬間、巨大な魔物が水中から飛び出してきた。
ウミガメのような身体に長い首、そしてトカゲのようないかつい頭……
「ネ、ネ、ネ……」
「……ねこ?」
「ネッシーだあああああああああああああ!?」
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