第70話 ハイドラ島への届け物
「やっぱハイドラ島でのクエスト依頼が多いな……」
「行く人が少ないからかもにゃ」
ウシロと別れたオレたちは、とりあえず生活資金を稼ぐためにギルド会館へやってきていた。
会館内の冒険者ギルドのブースにあるクエスト掲示板に貼られた依頼書を眺めていると、やはり危険なダンジョンであるハイドラ島での薬草採取であったり、魔結晶が手に入る魔核を持つ魔物の討伐依頼が多かったりする。
「あ、これはダンジョンに行かなくていいから安全かもにゃ」
「ん? なになに……」
『ケミカロイドプロテインを使用した筋肉増強試験の参加者募集! 最大効率で筋肉ムキムキ! 理想の身体へレッツマッスル!』
「絶対安全じゃねえだろ」
「……れっつまっする」
こんなの通報もんだろ、普通に掲示板に貼っとくなよ。
「君たち、もしかしてなにかクエストをお探しかな?」
「一応まあ、そうですね」
クエスト掲示板と睨めっこしていたところ、冒険者ギルドの受付にいたお姉さんが話しかけてくる。
今はオレたちしかいないし、きっと暇だったんだろう。
「実は緊急でひとつ受けて欲しいクエストがあるんだよね~」
そう言ってお姉さんからクエスト依頼書を1枚渡される。
右下に赤い文字で『緊急!』と書かれたスタンプが押されている。
なるほど、ちょうどこれを貼るところだったのか……暇とか思ってすいません。
『ハイドラ島への輸送業務の護衛:受注可能ランクD以上』
「Dかあ……オレはランクが足らないや」
「クロもにゃ」
「……ちーは、受けられる。でも、ちーだけは厳しい」
護衛ってことは、魔物の襲撃が想定されるってことだからな。
冒険者ランクAとはいえ、ヒーラーのチユだけでこの依頼を受けるのは危険だろう。
「そういえば昨日、商業ギルドのお兄さんが『Dランクの昇格試験受けてきたら?』って言ってたな」
「あのチャラいお兄さんにゃ?」
「……むきむきぱっしょんの人」
さっき祠で会ったデンゲンさんに、昨日の商業ギルドのお兄さん、筋肉増強試験の参加クエスト……なんかマッスル系の人とか物が多いなこの街。
「なるほど、あなた達はEランクが二人とAランクが一人の三人組の冒険者クランってわけね?」
「いや、クランは組んでないですね」
「クロとホムラはクランなんかよりも固い絆で結ばれてるのにゃ!」
「結ばれてないよ」
まあでもそうか、冒険者三人で行動してたらクランにも見えるか。
「それなら良い案があるよ! このクエストをランク昇格試験の代わりとして受けてくれないかな?」
「そんなことができるんですか?」
「EランクからDランクへの昇格試験の内容は、Dランク以上の冒険者に試験監督も兼ねて同行してもらって、Dランクのクエストをひとつ実施することなんだ。いつもなら同行する冒険者はギルドで手配するんだけど、君たちの仲間に既にAランクの子がいるなら問題ないからね! 同じクランじゃないから公平性も保てるし!」
「……ちー、しけんかんとく」
なんか、若干グレーな方法の気もするが……それでギルド側としては緊急のクエストを処理できて、オレたちはギルドランクも上げられるってことなら、まあお互い損はないのか。
「輸送の護衛ってことは、ハイドラ島に行く船に乗って、その間に魔物とかが襲ってきたら対処するって感じですか?」
「基本はその認識で大丈夫だよ。魔力濃度の関係で島に近づくほど魔物の出現が多くなるので、そこは注意かな」
島と島の周囲の水域は魔力の濃度が高くて、魔物が生息している可能性が高いと船長さんも言ってたな……ヒトクイサギみたいな鳥型のやつより、魚型の魔物に水中から襲われる方が危険かもしれない。
「あとは、そうだね……荷物の届け先が『人魚新地』なんだ。そっちの女の子二人は大丈夫だと思うけど、君はちょ~っと気を付けた方がいいかもね」
「え? 人魚新地?」
「可愛いマーメイド族がいっぱいの、大人の遊び場だよ」
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