第66話 シグレの祠



 ……。



 …………。



「…………Zzz」



「んにゃ……Zzz」



 チュン、チュンチュン。



「……獲物の鳴き声にゃっ」



 ゲシッ!!



「いで!!」



 な、なんだ!? 敵襲か!?



「ん~獲ったにゃ~……褒めてにゃホムラ~……Zzz」



「なんだクロムか……」



 シグレの街へやってきた翌朝、オレはクロムのネコネコパンチで目を覚ました。

ちなみにネコネコパンチというのはネコネコ族のパンチのことで、普通の人に殴られるのと正直あまり変わらない。



「ったく、広いのになんでこんなに詰めて寝てるんだ」



 オレたちが宿泊している宿のクイーンベッドルームは、小柄な子なら5、6人くらいは川の字で寝れそうなくらい広くて、オレたち3人で寝るには十分なスペースがあった。

とりあえずオレは二人に触れないように端で寝ていたんだが、朝起きたら寝ぼけたクロムに一発貰うくらい距離を詰められていた。

オレが真ん中に寝返りを打ったわけではなく、クロムが端に転がってきたようだ。



「ん……あれ? チユが見当たらねえな」



 もしかして先に起きて風呂にでも行っているのだろうか。

オレも目が覚めちまったし、このまま起きて顔でも洗ってくるか……と思ってかけていた毛布をめくってベッドから降りようとしたときだった。



「……すぴー」



「おい」



 チユはオレの毛布に潜って身体を丸めて気持ちよさそうに眠っていた。

いやどっちかというとこっちのほうが猫だよな……



「明日から床で寝ようかな」



 ―― ――



「ふんふんふ~ん♪ ふんにゃっふんにゃ♪」



「ご機嫌だなクロム」



 起床して朝食を食べ終えたオレたちは、腹ごなしも兼ねてシグレの街を軽く散策する。



「この街は新鮮で美味しいお魚料理がたくさんあって最高にゃ!」



「……ちーも、お魚すき」



 どうやら朝食で食べた魚料理が美味しくてご機嫌らしい。

ここシグレの街はハイドラ湖に面した漁業が盛んな港町で、新鮮な魚がいつでも食べられるということで、魚が好きなネコネコ族のクロムにとっては天国のような街だろう。まさにおさかな天国ってわけだ。



「おっ市場があるぞクロム。朝獲れの新鮮な魚がいっぱい売ってるな」



「ほんとだにゃ! さかなさかなさかな~魚~を~食べ~ると~♪」



「あたまあたまあたま~頭~が~良く~なる~♪」



「……二人とも、なんで急に歌った?」



 ついクロムに釣られて前世の曲を歌ってしまった……おさかなだけに。



「あっホムラ、祠があるにゃ!」



「本当だ、エルフのばあちゃんが言ってた通りだ」



「……ちー、おばあちゃん?」



「いやチユのことじゃないぞ」



 カマドの街にある祠で炎神龍クルースニクを信仰していたエルフのばあちゃんから聞いた通り、シグレの街にも似たような祠があるのを発見する。

近づいてみると、そこにはカマドの祠の中にあったクルースニクの石像に似た龍の像が祀られていた。

赤の魔石を使って作られていたクルースニクの石像とは違い、こちらは青色の結晶が含まれる石を使って作られていた。



「……青の魔石、きれい」



「なるほど、これは青の魔石を使ってんのか」



「カマドの神龍像と見た目がちょっと違うにゃ」



 炎の代わりに青の魔石で水しぶきのようなものが表現されているのと、こちらの龍の像は手足の指の間に水かきのようなものが付いていた。

額の上にイッカクのような一本の長いツノが生えていて、羊のような巻角だったクルースニクとは違う龍だということが分かる。



「ほう! あんたら若いのに随分と神龍様に熱心じゃなあ!」



「だ、誰だっ!?」



「びっくりしたにゃ!」



 祠を観察していたオレたちの背後から突然大きな声で話しかけられる。

びっくりして振り向くと、そこには魚を獲るのに使うモリを持った筋肉ムキムキの爺さんが立っていた。



「ワシじゃよ!」



「いや誰だよ」

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