第63話 戦利品
「グワ……ガガ……」
バッシャアアアアアアン!!
「うわっ!!」
「めっちゃ揺れるにゃ~!!」
オレが投げた石で頭を撃ち抜かれて死んだ巨大なヒトクイサギが上空から湖に落下し、船の近くでものすごい水しぶきをあげる。
「こ、こりゃあ即死だろうな……ホムラって言ったか? あんた、本当にEランク冒険者なんかい……?」
「ああ、駆け出しのEランク冒険者だ」
魔力レベル3300だけど。
「……ちーの、魔法でムキムキ」
「そうだな、チユのバフ魔法のおかげで能力が上がってたからな」
「それにしたってあそこまで……まあ良いか。ヒトクイサギを倒してくれたんだ、なんでもいいや」
船長さんは深く考えるのをやめた。
「この魔物の死体はどうするにゃ?」
「ヒトクイサギは強くて危険な分、結構高く売れるんだ。シグレの街まで運んでいこう」
「運んでいくったって、こんなでかいやつどうやって……」
「こうするのさ」
―― ――
「ほれ、うっすらとだが街が見えてきたぞ」
「あ、ああ……」
シグレの街まで徒歩で丸二日ほどかかるところを、船に乗って約3時間半。
目的地のシグレの街まではあともう少しだ。
「それにしても……」
「後ろがちょっと物騒にゃ」
オレたちが乗っている船の後ろにロープで首元を括り付けられて水面を移動するヒトクイサギの死体。
戦利品といえば立派だが、だいぶビジュアルが世紀末よりな気がする。
「市中引き回しの刑みたいだな」
「……シチュー?」
「シチューに入れたら美味そうにゃ」
人食ってる鳥の肉なんて食わない方が良いだろ……
「それにしても、マジで襲ってこなくなったな」
道中、数羽のヒトクイサギがこちらの様子を伺いながら上空を飛んでいたりもしたんだが、船の後ろに仲間の死体が括り付けられているのを見てビビったのか、船を襲うことはなくどこかへと退散していった。
「魔物除けの効果もあってまさに一石二鳥というわけだ」
「ホムラ、ここじゃ一石二鳥は通じないにゃ」
「こっちのことわざなんて知らねえよオレ」
「……二人とも、なんの話?」
「なんでもないにゃ」
ちなみにこの船は人力ではなく、動力として船体の下に魔石を使用した魔道具が取り付けられているらしい。
モーター音とは違うが、『ジャジャジャジャジャ』みたいな感じの謎の駆動音が聞こえてくる。
「それにしても、このヒトクイサギの死体を狙って水中から魔物が襲ってきたりはしないんだな」
「この辺りは魔力濃度が薄いからな、普通の魚しか泳いでねえと思う。ヒトクイサギみたいな鳥型の魔物は少し離れた所にある『ハイドラ島』からたまに飛んでくるがな」
「ハイドラ島?」
「ハイドラ湖の中心にあるダンジョンだ。あの辺りは魔力濃度が高いから、島ん中も水中も魔物だらけだな」
「危険な島にゃ」
なるほど、カマドの街に対するヴォルケイム火山地帯みたいなもんか……シグレの街にしばらく滞在するなら、ハイドラ島に行ってクエスト依頼をこなすこともあるかもな。
「ハイドラ島には巨大な泉があるんだが、水はほとんど枯れていてかなり小さくなっちまっててな。大昔はその泉から魔力と栄養が豊富な湧き水が溢れていて、このハイドラ湖にも今よりたくさんの魚が生息していたらしいが……」
「活性化する前のヴォルケイム火山地帯みたいな状態か」
「そうだな……もしかしたらその内、島が活性化して泉も復活するかもしれん」
ハイドラ島の泉か……なんとなく、そこに水神龍が関係していそうな気がするな。
「ホ、ホムラ~……!」
「ん? どうしたクロム」
「も、もう限界にゃ……おしっこがしたいにゃ!」
「……ちーも、おしっこしたい」
「船長~!! トラブル発生~!!」
「後ろにある板を外したら湖面が見えるから、そこにしてくんな~」
湖がちょっとだけ栄養豊富になった。
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