第62話 ヒトクイサギ



「なるほど、それじゃあ船に乗るにはそのヒトクイサギっていう魔物をどうにかしないといけないのか……」



 ハイドラ湖にある『ハイドラ・スイムバス』という船の船着き場にやってきたオレたち。

船に乗せてもらってシグレの街まで行こうとしたんだけど、この辺りに『ヒトクイサギ』という魔物がやってきているということで、そいつが襲ってきても対処できるような冒険者が護衛として同乗しないと船を出せないということだった。



「チユはヒトクイサギ知ってるにゃ?」



「……見たことない」



「人食いっていうくらいだからかなりでかそうだな」



「そりゃあな。大型の個体だったら2、3人まとめてパクッと食われちまうかもしれねえよ」



「それはかなり大きいな……」



 ヒトクイサギは知能が高く、地上にいる人間には襲いかかってこないらしい。

船着き場を出発して湖の上で逃げ場がなくなった船を狙ってくるということだった。



「オイラも本当は女房と娘が待ってるシグレの街に帰りたいとこなんだがなあ。船を置いていくわけにはいかねえし」



「それじゃあクロたちを乗せてってほしいにゃ」



「……魔物、たおすよ」



「嬢ちゃんたちがか? ヒトクイサギは冒険者ランクB相当の実力がねえと厳しいぞ」



「それなら大丈夫です。オレ……とクロムはEランクだけど、この子はAランクなんで」



 船長さんにオレたちの冒険者ギルドカードを見せる。

実際の戦闘力はどうあれ、オレたちのEランクのカードよりも元勇者ギルド所属のチユの高ランクカードのほうが説得力があるだろう。



「こっちのエルフの嬢ちゃんがAランク……」



「チユはか弱い女の子に見えてめちゃめちゃ強いんだにゃ」



「魔物をバッサバッサと切り捨てていくんだぜ」



「……ばっさばっさ」



 ちなみに嘘である。この子ヒーラーだからね。



「頼むにゃ船長さん。クロたちをシグレまで連れてってほしいにゃ」



「……よし、オイラも男だ。そこまで言うならあんたらを信じて船を出そうじゃないか」



「「「やった~!!」」」



 こうしてオレたちはヒトクイサギが獲物を狙うハイドラ湖へと過酷な船旅に出るのであった。



 ―― ――



「どうだ? クロム」



「いたにゃ。まだ距離は遠いけど、少し先の上空を飛んでるにゃ」



「ネコの嬢ちゃんは目が良いんだなあ」



 船を出してしばらく湖を進んでいくと、偵察担当のクロムがヒトクイサギの出現を確認する。

ネコネコ族のクロムは種族の特性なのか、オレたち人間族よりも視覚や聴覚が鋭く、こういった状況ではかなりありがたい。



「……よし。ホムラのパワーアップ、完了」



「ありがとな、チユ」



 チユのバフ魔法でオレのパワーを上げてもらう。

さすが高ランクヒーラー、普段よりもかなり力が出せそうだ。



「あとはヒトクイサギが近づいてきたらこれをぶん投げるだけだな」



「ホムラの投擲でヒトクイサギも一撃にゃ」



「そんな簡単にはいかんと思うがなあ」



 両手で抱えられるくらいのでかさの石をいくつか拾って船に乗り込んだオレは、ヒトクイサギの接近に備えて大きめの石をひとつ抱えておく。



 バサッバサッバサッ……



「っ!! ホムラ、ヒトクイサギに見つかったにゃ! こっちに飛んできてるにゃ!」



「了解!」



 クロムが指さす方を注視すると、巨大な真っ白の鳥がこちらに向かって滑空してきている姿が見えた。



「でかいな……まるでグライダーみたいだぜ」



「ほ、本当に大丈夫なんだよな?」



「大丈夫にゃ」



「……うちのホムラは、めちゃつよい」



「あれ!? 強いのってエルフの嬢ちゃんじゃなかったっけか!?」



 完全にこちらをロックオンした巨大なヒトクイサギがクチバシを開けて猛スピードで上空から滑空してくる。

たしかに、こんだけ大きければ小さい船くらいなら丸呑みできちまうかもしれねえな……



「グワアアアアアアアアア!!」



「まあ、でかいってことは当たり判定も大きいってことだけど……なっ!!」



 オレは接近してきたヒトクイサギに向かって思い切り石を投げつける。



「グワアアアアボヴァッ!?」



「ナイスゴールにゃ」



 オレが投げた石はヒトクイサギの大きく開けたクチバシの中に吸い込まれていき、そのまま勢いを落とすことなく脳天をぶち抜けて魔物の頭を破壊した。



「オレたちの代わりにそれでも食っときな」

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