第61話 ハイドラ湖



 カマドの街を出発し、ハイドラ湖にある『シグレ』という街を目指して旅を続けているオレたちは、最初に寄った街道キャラバンからさらに数日街道を歩き続け、数か所の街道キャラバンに立ち寄りながら遂に目的地へとたどり着いた。



「ここがハイドラ湖か……」



「見渡す限りの大海原にゃ」



「湖だけどな」



「じゃあ大湖原にゃ」



「……おおみずうなばら」



「聞いたことないわそんな表現」



 とはいえ、クロムの言いたいこともよく分かる。

オレたちの目の前に広がるのはまるで海かと見間違うほどの広大な湖だ。

向こう岸などもまったく見えず、ひたすらに水面と砂利が堆積した浜が続いている。



「琵琶湖とかこんな感じだったんかな……」



「……びわこ?」



「オレのいた世界……じゃなかった、故郷にあった大きな湖だ」



「アメリカオオナマズがいっぱいいるとこにゃ」



「それは霞ヶ浦な」



 このハイドラ湖にもでっかい魚がいるかもしれないな。

もしかしたらネッシーみたいなのもいたりして。

良いよなあネッシー……水棲の首長竜だっけ、ああいうの男のロマンって感じだよな。



「で、街はどこにあるんだ?」



「ずっと湖と浜が続いてて全然見当たらないにゃ」



 途中の街道キャラバンで聞いたときは、ハイドラ湖の湖畔に街が広がっていると聞いたんだが……

 


「……ホムラ、看板がある」



「なになに……『泡沫の街シグレ:この先北西方面へ徒歩で約2日』……マジかよ」



「まだまだ遠いにゃ~」



 どうやら本当の目的地であるシグレの街へはここから更に湖沿いを歩いていかなければならないらしい。



「んにゃ~……にゃ? ホムラ、チユ! あそこに船着き場があるにゃ!」



「なに? 船着き場?」



 クロムに言われて少し北に行った辺りの湖畔を確認すると、そこには大きな桟橋のようなものが設置されていて、近くには船がいくつも停泊しているのが見える。



「あれで街まで行けるかもしれないにゃ!」



「……おふね、乗ってみたい」



「よし、行ってみるか」



 船に乗って街まで行くことに期待を寄せたオレたちは、ハイドラ湖にある船着き場を目指して歩みを進めた。



 ―― ――



「桟橋着いたにゃ~」



「結構でかい船もあるな」



「……100人乗っても、だいじょうぶ」



「ちゅ~るにゃ」



「そっちのいなばじゃねえよ」



 オレたちがたどり着いたのは、『ハイドラ・スイムバス』という看板を掲げた大きな船着き場だった。

桟橋には大小さまざまな船が横付けされていて、遊覧船のような大きなものから、一人乗りのボートのようなものまでさまざまな船が揃っていた。



「でも、人がほとんどいないにゃ」



「これだけ大きな船着き場なら、もっと賑わっててもよさそうなもんだが」



 船着き場の周りには、釣りをしている人や、船の上で寝コケている人、桟橋でちびちびと酒を飲む人たちが数人。

しばらく見ていても新しく船が出航することはもなく、桟橋は閑散としていた。



「すんませーん、ここの船で『シグレ』って街まで乗せて行ってもらう事って出来ないですか?」



「ん~? シグレ?」



 数人乗りの船の上で釣りをしていた船長っぽい人に話しかけてみる。

めちゃめちゃ暇を持て余してそうだな……異世界の船着き場だしこんなもんなのかな。



「あんたらシグレの街まで行きたいのか。まあ、乗せていけないこともないが……」



「何か問題があるのかにゃ?」



「ああ、実は今朝『ヒトクイサギ』がこの辺りに飛んできててな、いなくなるまではそれなりの腕利きの護衛を乗せてないと危なすぎて船が出せねえんだ」



「なるほどな、ヒトクイサギ……」



 …………。



「えっなにそれこわ」

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