第58話 部下の仇



「こっちだにゃ!」



 クロムの案内で魔物と冒険者が戦っている街道付近までやってくる。

キャラバン内にいたときオレには何も聞こえなかったが、耳の良いクロムには戦闘の音が聞こえてきたらしい。



「さすがネコネコ族だな……チユには聞こえてたか?」



「……なんも」



 人間族よりも長い耳を持つエルフだが、聴覚に関してはオレと大差ないらしい。



「って、なんだこいつら……オオカミか?」



 オレたちが立ち寄っている街道キャラバン付近の街道に野犬というかオオカミというか、とにかくそんな感じの魔物が集団で辺りを徘徊していた。

大きさ自体は中型犬くらいなのでそこまでインパクトはないがとにかく数が多い。

倒しても倒しても数が減らないという感じで、オレたちより先に現場に到着して応戦している冒険者も苦戦しているようだった。



「おい大丈夫か!」



「はあ、はあ……助っ人か! ありがたい……」



「このワンちゃんはなんなのにゃ?」



「こいつらは『荒地ハイエナ』だ。この辺りのダンジョンには生息していないし、そもそも街道に魔物は出現しないはずなんだが……」



「……あいつの、せい」



 チユが荒地ハイエナの群れの後ろを指差す。

そこには、前に戦ったトラトラ族のハンシンに似た大柄な獣人が腕を組んでふんぞり返っていた。

ハンシンと違う所は頭にライオンのような立派なたてがみを持っているところ……



「もしかして、ハンシンが言ってた幹部のタテガミってアイツのことか……?」



 新しく来たオレたちに気付いたライオン男が何か指示を出すと、数匹の荒地ハイエナがこちらに向かって襲いかかってくる。



「二人とも、下がってろ」



「……わかった」



「こいつらくらいならクロも倒せるにゃ」



「じゃあクロムはチユを狙ってくるやつを倒してくれ」



「了解にゃ」



 オレに向かってくるのは正面から2匹、左右から1匹ずつか……バラけてくるのは面倒だな。



「ガルルルルル!!」



「ガルルルッ!!」



「ふんっ!!」



 ボギィッ!!



「「キャンッ!?」」



 とりあえず正面の2匹をまとめて殴って吹っ飛ばすと左右から来ていた2匹は怖気づいたのか、指示を出したライオン男の下へ逃げ帰っていった。



「なんじゃおまえら!! 戻ってくんなや、はよいけぇ!!」



「おいお前、もしかして魔王軍のタテガミってやつか?」



 オレは逃げ帰る荒地ハイエナたちを追いかけ、指示を出していたライオン男の近くまでやってきた。



「ああ? なんでオレ様の名前を知っとるんじゃ」



「ハンシンとかいうヤツが言ってたんだよ」



「……なんでお前が、ハンシンのことを知っとるんじゃ」



「ヴォルケイム火山で襲いかかってきたんだよ。正確にはあっちにいるネコネコ族の子に対してだがな……まあ、返り討ちにしてやったが」



 オレの返答を聞いた男の顔がクシャリと歪み、彼の身体から滲み出た魔力がまるで怒りのオーラの様に立ち上る。



「そうか、お前か……お前がオレ様の大事な部下を殺ったんだな……?」



「ああ、灰燼に帰してやってぜ」



「そうか……」



 ライオン男が街道に出没している荒地ハイエナたちを全て呼び寄せ、オレの周りを取り囲むように命令を下す。



「ホムラっ!!」



「こっちは大丈夫だ!」



 クロムたちに近づくなと声をかけ、正面に向き直ると、ちょうどライオン男が荒地ハイエナたちにオレを襲うように指示を出すところだった。



「おい人間族のガキ! 殺す前に誰に楯突いたか教えといてやる……オレ様は魔王軍の神魔将が一人、ライライ族のタテガミ! ハンシンの仇、ここでキッチリ討たせてもらうぜえ!!」



 …………。



「蕁麻疹?」



「神魔将だ!!」

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