第57話 異世界の勇者事情



「くそ、腕の痺れがなかなか取れないな……」



「ホムラ、どうしたにゃ?」



「……じょうたい、いじょう?」



「お前らが腕に抱き着いたまま寝てたせいで血流が終わってんだよ」



 なんか変な夢を見るわ、朝起きたら両腕がめちゃめちゃ圧迫されてるわで散々だった。

宿馬車で使えそうなハンモックとかキャンプ用の寝袋みたいなの売ってねえかな……



「……ちーが、なおすね。リキュア」



 パアアアアア……



「お、治った」



 チユが手早く魔法を唱えると、腕の痺れが一瞬で消え去った。

さすが元勇者ギルドのヒーラー、地味にありがたいな。



「そういえばチユは冒険者ギルドじゃなくて勇者ギルド所属なんだよな?」



「……勇者ギルドだったけど、もうやめた」



「チユは『女神の聖火』を抜けた後に勇者ギルドも脱退して、今はクロたちと同じ冒険者ギルド所属にゃ」



「そうだったのか……」



 勇者ギルドは魔王軍と戦うことを目的としたギルドで、基本的には魔王軍の襲撃に備えた護衛や討伐関連のクエストがメインだ。

所属しているソロの勇者や勇者クランのメンバーは、活躍すると報酬とは別で商人や武具職人の店などがスポンサーとして支援してくれることがある。



 だからチユはてっきり勇者ギルドに所属したままだと思ってた。

彼女は個人でも人気がありそうだから、勇者ギルドに所属してればすぐにまたスポンサーが付いて何もしなくても故郷へ帰るための資金が稼げそうな気がするんだけどな。



「……ちーは、魔王軍とかべつに、戦いたくないし」



「冒険者の方が気ままにゃ」



「まあ、オレもそう思うわ」



 前に『ヴォルケイム火山地帯』で戦ったハンシンみたいのと毎日やり合うのはちょっと面倒だよなあ。

のんびり薬草採取クエストや魔石採掘とかをやって日銭を稼いだ方が楽しそうだ。



「でも勇者って少ないんだろ?」



「簡単にはなれにゃいからにゃあ」



 冒険者ギルドでランクA以上にならないと勇者ギルドに所属するための試験すら受けられないらしい。

ランクA以上の実力が高い冒険者自体がそんなに多くはいないだろうし、そこからさらに勇者になりたいってやつが絞られるからな……



「……この辺りは、魔王軍がすくない」



「だから勇者も少ないってか」



「王都のアンスーラとか、魔王軍の本拠地……エビルアイランドに近い街にはこの辺りよりも勇者がいっぱい常駐してるらしいにゃ」



「勇者がいっぱい常駐なあ……」



 なんとなく勇者は世界に1人か1パーティーみたいなイメージが強いせいで、この世界の『勇者ギルド』っていうシステムはまだ馴染まないんだよな。



「ということは、最終的に魔王VS勇者100人とかもあり得るのか……?」



「なんかえっちな企画みたいにゃ」



「……勇者は、えっち?」



「んなわけねえだろ。おいクロム、チユに変な事を覚えさすな」



 こいつ、前世は野良猫としてオレと同じ世界にいたから結構下世話なことも知ってんだよな……いや野良猫が下ネタに詳しいのも意味わかんねえけど。

……オレ? オレはほら、思春期真っ盛りの元男子高校生だし。

異世界来た瞬間に擬人化ドラゴン娘と強制授乳プレイさせられてたし。



「まあ、世界を救うのは勇者ギルドの皆様に任せて、オレはのんびり神龍伝説でも調べながら旅を……」



 カンカンカンカン!!



「近くの街道に魔王軍の襲撃あり!! 本キャラバンに勇者不在のため、戦える冒険者は対応お願いします!!」



 …………。



「ホムラ、フラグ立てるのやめてにゃ」



「……ふらぐって、なに?」



「オレが悪いのかよ」

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