第56話 宿馬車とお手紙屋さん
「いいかチユ、知らない人から何かを貰ったり、勝手に付いていっちゃダメだぞ」
「……わかった」
「街の外はヘンタイが多くて危険にゃ」
チユを誘拐しようとしたオッサンをクランの警備担当に引き渡して、『街道キャラバン』のお店巡りを再開する。
チユのやつ、『女神の聖火』で活動していたからクエストや冒険のことには結構詳しいんだが、どこか抜けてるとこがあるんだよな……きっとクランにいた頃はナクラーマ辺りが面倒を見ていたんだろう。
ブルベリは我関せずって感じだし、アスベルに至っては逆に誘拐犯側に近い行動してそうだし。
「……あ、お手紙屋さんだ」
「え?」
チユが指さした所には、入り口に『便箋販売・バードポスト』と書かれた看板を立てた、こじんまりとした小屋が立っていた。
「お手紙を送れるお店にゃ?」
「……そう。鳥さんが、届けてくれる」
「伝書鳩みたいなもんか」
そういえばハリボッテの件をカマドの街に報告しておこうと思ってたところだった。
ちょっと頼んでみよう。
「すいません、手紙を一通送りたいんですけど……」
「はいよ。現物はあるかい? まだならウチで便箋を買って、ここで書いていくと良いよ」
「あ、じゃあ便箋ください」
カマドの冒険者ギルド宛に、ケミカロイドポーションを使用してバケモノのようになってしまったハリボッテについて、襲われた時の状況を記載する。
「うーん、ハリボッテの絵もあったほうがいいかな……」
「お絵描きならクロにお任せにゃ!」
オレが書いた状況説明の横に、シンプルだけど分かりやすいハリボッテ(ケミカロイダーのすがた)のイラストを描いてくれるクロム。
「へえ、上手いもんだな」
「観察眼が鋭いんだにゃ」
「……ちーも、描く」
ホムラの絵を真似して便箋の下の方に何かを描いているチユ。
「これは……なんだ? 吐血してんのか?」
「……火を吹いてる、ホムラ」
「二日酔いでゲロってる大学生みたいだにゃ」
―― ――
「はい。お届けもの、たしかにお預かりしました」
「よろしく願いします」
書いた手紙は、店員さんが使い魔にしている鳥型の魔物が届けてくれるらしい。
使い魔にする魔物は人それぞれで、強い魔物かつ届け先の距離が近いほど手紙のお届け成功率がアップするんだとか。
そこは出来れば100%にしてほしいが、運んでる最中に他の魔物に襲われたりするのだろう。
絶対に届けたい手紙や荷物は『ワイバーン便』をやってる店に依頼すると代金は高くつくが確実らしい。
「まあ、カマドなら近いから大丈夫だろう」
それにしても、ケミカロイドポーションね……前世の世界でも、ガソリン成分の混ざった『クロコダイル』っていう薬物をやってゾンビみたいになってる人の画像を見たことがあるが……どこの世界にも危ない薬を使って中毒になっちまうやつはいるんだな。
「ホムラ、宿馬車があるにゃ」
「……お泊り?」
「宿馬車か」
宿馬車は名前の通り、馬が引いて運ぶような貨物型の宿だ。
車輪がついていて、この『街道キャラバン』が移動する際には実際に馬車として活用するのだろう。
まあ、異世界版キャンピングトレーラーって感じだな。
「一台貸し切りで一泊2000エルか」
「三人で借りればお得にゃ!」
「いやでも、お前たちと同じ部屋っていうのは……」
「……ちーは、ホムラと一緒でいい」
「お金は大切にゃ。街の外なんだから文句言わないのにゃ」
「それは……そうだな」
小型の宿馬車を一台借りて、今日はそこで寝ることにする。
かなり広い大型の宿馬車もあったが、そっちは大勢で雑魚寝する感じだったので、まあそれよりは三人だけで使えるこっちの方が良さそうだった。
「うーん、寝れないわけじゃないが、まあまあ狭いな……」
「あ~ん、狭くてホムラに抱き着かないと寝られないにゃ~」
「……ちーは、ホムラの上」
「あっズルいにゃ!」
「そんなに狭くねえよ」
この日、寝ぼけて覆いかぶさってきたクロムとチユのせいで、オレは肉団子と化したハリボッテにのしかかられて潰される夢を見たのだった。
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