2章 泡沫の街シグレ 編

第51話 次の街へ



 翌朝。

四万屋の食堂で美味しい朝食をお腹いっぱい食べて、オレは宿を後にした。

やっぱり最後の最後に朝風呂に入ろうかな……とも思ったけど、次にまたこの街へ寄るときのお楽しみにしておこう。



「ホムラくん、忘れ物はない?」



「ああ、大丈夫だ。アムラ、今まで世話になったな……ありがとう」



「こっちこそ。助けてもらったお礼、全然返せてないくらい」



「そこはほら、昨晩ので帳消しってことで」



「……ホムラ、昨日の夜にアムラとなにかしたんだにゃ?」



 …………。



「いやまあ、ちょっとサービスというか、ラストワン賞というか」



「クロムちゃんには内緒かな~」



「二人だけの秘密ってヤツかにゃ!? クロだけのけ者にゃ! クロがケモノだからのけ者にゃ!?」



 それは飛躍しすぎだろ。背中流してもらっただけだよ。



「これ、お弁当。お母さんが旅の途中で食べてねって」



「おお、これはありがたいな」



「で、こっちがお父さんから」



 アムラから布に包まれた大きなランチボックスと、タマゴのような石がいくつか入った袋を渡される。



「これは……?」



「うーん、なんだろ……温泉の素って言えばいいのかな」



「温泉の素?」



 それって、風呂に入れると泡が出て湯船が緑色とかになる、あの?



「赤の魔石と薬草から抽出したエキスを混ぜて作った魔道具だよ。桶とかに水を溜めて、そこにひとつ入れるだけで水が温かくなって温泉みたいになるの。カマドの街のお土産として人気なんだよ」



「へ~、それは良いな。お父さんにありがとうって伝えといてくれ」



 結局最後までアムラの父親には会えずじまいだったんだよな。

宿の温泉の管理をしてるって聞いてたけど、一体どこで何をやってるんだろう。



「……ホムラ、またね」



「おう。チユも元気でな」



 アスベル達から解放され、エルフ族の住む自分の故郷へと帰るための準備を続けているチユも、いずれはこの街を出ていくのだろう。



「うーん、チユの一人旅は少し心配だな……」



「大丈夫にゃ。その時はクロも一緒に付いていく予定にゃ」



「そうなのか」



 まあ、クロムが付いていれば多少は安心……うーん、安心かなあ……



「それじゃあホムラくん。いってらっしゃい」



「いってらっしゃいにゃ~」



「……らっしゃい」



「おう! 行ってきます!」



 ―― ――



 宿を出たオレは、カマドの街を離れる前にクルースニクが祀られている炎神龍の祠に寄って師匠に挨拶をする。



「師匠、これからカマドの街を出て、水神龍様を信仰するシグレという街へ向かいます。道中、見守っていてください……っと」



 実際に言葉が届いているかは分からないが、まあこういうのは気持ちの問題だからな。

なんだかんだで、このカマドの街を含めたヴォルケイム火山地帯周辺はオレが転生してきた最初の故郷だ。

このエリアから離れるのは、本当の意味でクルースニクから旅立つということになるのかもしれない。



「ついでに女神の教会に行ってポルテトにも挨拶……は、別にいいか」



 あっちの教会は全国どこにでもありそうだしな。



「よし、それじゃあ今度こそ、本当にさよならだ」



 こうしてオレは、カマドの街から新たな目的地、シグレの街があるという『ハイドラ湖』へと出発するのであった。



「おーい、ホムラ~!」



「……こっちこっち」



「ん?」



 ハイドラ湖方面に向かうため、街の南門へと足を運んだオレの前に二人の少女が待ち構えていた。

あれは……頭に猫耳を生やした黒髪の少女、ネコネコ族のクロムと、耳の長い小柄な少女、ハーフエルフのチユだ。

いや、さっき四万屋の前で別れたよな……?



「……ホムラ、おそい」



「さあホムラ、冒険の始まりにゃ!」



「なんでだよ」



「……ちーの故郷、ハイドラ湖経由」



「というわけで、ホムラとご一緒するにゃ!」



「再会はやすぎだろ」



 ……こうしてオレは、何故か仲間を二人ほど増やして『ハイドラ湖』へと出発するのであった。

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