第50話 最後のお風呂
「よし、これで準備は整った……と」
クルースニクを祀る祠でエルフのおばあさんから神龍信仰の話を聞いてから、オレは師匠以外の神龍を探しながら旅をすることというのを、この世界で活動する目標の一つに据えた。
先ずはここから一番近いハイドラ湖にある『シグレ』という街で水神龍についての情報を集めてみようと決めたオレは、カマドの街で冒険者としてクエスト依頼を受けながら資金を集め、旅の準備を進めていった。
「それにしても、結局ギルドカードは直らなかったな」
いくつかクエストをこなしたことで、オレの冒険者としてのギルドランクはFからEに昇格していた。
その時にギルドカードの更新を行なったのだが……
【ホムラ】
・13才/男
・冒険者ギルド所属
・ギルドランク:E
・所持金:282000エル
・魔力:Lv.3300
・スキル:灼熱吸収+
・魔遏ウ蛹?:イグニッションフレイム+
・習得ポイント:186600
「うーん、魔力レベルの表記も習得魔法欄の文字化けもそのまんまだ」
魔力レベルに至っては、最初に登録した時から1レベル上がって3300に。
329が330になったのか、本当に3299が3300になったのかはまだ分からないが、これはマジで4ケタレベルある気がしてきたな。
前にアスベルとかいう勇者に絡まれた時もそれなりに余裕で倒せたし。
「習得ポイントもなあ……ほとんど使えないから貯まる一方だ」
ギルドカードの更新時に新しく習得できるスキルや魔法がある場合には、習得ポイントを消費することでそれらを使えるようになる。
しかし、今回の更新では今あるスキルと魔法の強化しか出来ることがなかったので、とりあえず灼熱吸収スキルとイグニッションフレイムを強化した。
新しく習得できるスキルや魔法はどのタイミングで現れるかは不明なので、色々と戦い方を変えたり、様々な種類のクエストをこなしていったほうがよさそうだ。
「ふう……この風呂とも、今日でお別れか」
オレがお世話になっている温泉宿・四万屋。
街を出たらここの温泉に入れなくなるのは正直かなり後ろ髪を引かれる。
今は夜の利用時間ギリギリなので、利用者もオレだけで広い浴槽を独り占め状態だ。
「メシも上手くて、温泉にも入れて……この世界で最初に寄った街がカマドで良かった」
まあ変なのには絡まれたけどな……あれも良い経験か。
「失礼しまーす」
「ん……って、アムラ!? な、なんで入ってきてんだ! 男湯だぞここ!?」
ガラガラガラ~っと浴場の引き戸を開けて入って来たのは他のお客ではなく、四万屋の看板娘アムラだった。
「ま、まだ利用時間内だよな!?」
「お背中流させていただきま~す。入浴ラストワン賞で~す」
「スピードくじか」
初めて聞いたわそんなシステム。
「まあまあ、今日くらい良いじゃない。……最後なんだから」
「……おう」
それを言われてしまうと、まあ無下にできないというか。
アムラには数日前に街を出ることを伝えてある。
引き留められたりはしなくて、少し悲しそうな顔で『ホムラくんは冒険者だもんね』とだけ言われたのを覚えている。
街の宿を利用する旅人はいずれ去ってしまうということを理解しているのだろう。
「力加減大丈夫ですか~」
「ああ、ちょうど良いよ」
「は~い、それじゃあ次は前洗いま~す」
「ああ……ってだめだめ! それはだめ!」
後ろから手を伸ばしてくるアムラを必死になって止める。
てかさっきからめちゃめちゃ柔らかいもんが背中に当たってんだよ……これは非常によろしくない。
「こ、こんなことしてたら店が摘発されんぞ!」
「大丈夫だよ。このサービスは今日が最初で最後だから」
「う……」
背中を流してもらって、一緒に湯船につかる。
な、なんだか落ち着かないな……
「ふう、やっぱうちのお風呂は最高だあ。ねえホムラくん」
「ん……なんだ?」
「うちのお風呂に入りたくなったら、いつでも帰ってきていいからね」
「……おう」
きっと、オレはまたこの街にやってくるだろう。
だってここは、ヴォルケイム火山地帯の麓に広がる、炎神龍クルースニクを信仰する灼熱の街、カマド。
この世界での、オレの故郷なのだから。
―― ――
焔くん、無事に街へたどり着いたようね。
いや~焦った焦った……まさか操作ミスってダンジョンの最深部に転生させちゃうとは。
さすがにこれはヒヤリハットでハットトリック決めた気分だわ。
変な奴らにも色々絡まれて大変そうだったけど、転生したクロちゃんとも出会えたようだしめでたしめでたし!
焔くん、これからも異世界生活を満喫してね!
というわけで、次章【泡沫の街シグレ】おたのしみに!
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