第49話 神龍道



「炎神龍、クルースニク……」



「そうよぉ。ヴォルケイム火山の奥深くに棲むと言われている、カマドの街の守り神様さあ」



 エルフのおばあさんに促されて祠の中を確認すると、炎を纏ったようなデザインをした龍の石像が置かれていた。



「この赤い炎の部分は魔石を使ってるのか……でもあれだな、頭のツノと瞳の形が、ちょっと違うかな」



「なんか言ったかねえ?」



「いや、なんでもないです」



 祠のクルースニク像に手を合わせて、『炎神龍の岩窟』を出てからの事を師匠に報告する。

魔物からアムラを助けて、勇者候補(笑)のハリボッテと戦って、魔王軍の手下からクロムを助けて、勇者(笑)のアスベルと戦って……



「めちゃめちゃ人間と戦ってるなオレ」



 なんでだよ、この世界って人類みんなで協力して打倒魔王! なんじゃないのかよ。



「この神龍様は、ポルちゃん……じゃにゃかった、ポルテト教の女神様とは違うんだにゃ?」



「そうねえ……女神ポルテト様は『この世界とは別の所から私たちを見守ってくれている』と教会では伝えられているわねえ。それに対して神龍様は、みんなこの世界に棲んでいて、それぞれが司る自然の力を私たちに恵んでくださってるのよぉ」



 神龍様からの恵みに感謝して、自らも他人に与えられるよう、善い行いを心がけることを『神龍道』というらしい。

なるほど、日本でいう神道みたいなものか……まあ肝心のクルースニクが善っていうか、むしろダンジョンの裏ボスって感じなんだがな。



「世界を見守る女神信仰と、自然崇拝から生まれた神龍信仰か……」



 ……ん? 神龍様は〝みんな〟この世界に棲んでいて、〝それぞれが〟司る自然の力……?



「あの、もしかして神龍様っていうのはクルースニク……様、だけではないんですか?」



「ええそうよお。地域によって信仰されている神龍様は異なるわあ。たとえば、この先にある『ハイドラ湖』という大きな湖……そこの湖畔に『シグレ』という街があるのだけれど、そこでは水神龍様を祀っているのよお」



「水神龍……」



「ニギハヤミコハクヌシにゃ」



 それジ〇リだから。



「お前の名前、クロムじゃなくて黒(コク)にされるぞ」



「よきかにゃ~」



「よくないよ」



 ―― ――



 エルフのおばあさんと別れて、改めて祠を観察してみる。

女神ポルテトを祀っている教会とは違ってずいぶんと古い祠だけど、手入れはしっかりされているように感じる。

きっと、さっきのおばあさんみたいに昔から神龍様を信仰し続けている人が一定数いるのだろう。



「あまり盛り上げようとするとポルテト教に潰されちまうかもしれないから、これくらいの方が良いのかもな」



 オレ達が今暮らしているこのシェンドラ王国では、ポルテト教が国教……第一宗教として定められている。

ポルテト教が現れるよりも昔から地域で信仰されてきた神龍様の存在を忘れさせて、ポルテト教を広めたいってのはまあ、何か都合があるんだろう。

それにしても、クルースニク以外の神龍様か……師匠が実在していたことを踏まえると多分、いや……確実に他の神龍も存在しているだろうな。



「水神龍、か……」



「ホムラ、興味あるのにゃ?」



「そうだな……ほら、男って龍とか伝説とか好きだからさ」



「ホムラはまだまだ子供でかわいいにゃ」



 クロムに頭を撫でられながら、オレは神龍信仰について考える。

世界各地に広がる神龍信仰を追っていけば、再びクルースニクに会える日が来るかもしれない。



「ハイドラ湖……行ってみるか」

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