第48話 生き証人



「まったく、この間は大変だったぜ」



「ホムラ大活躍だったにゃ」



 アスベルとの決闘を終えたオレは、久々に平和な日々を過ごしていた。

ここ最近、外に出る度にアスベルからしつこく決闘を挑まれてたからな……クロムもクランへの勧誘を受けてたみたいだし、ああいうのはストーカーとして取り締まってほしいぜ。



「えへへ。ホムラがクロを守ってくれたから、クロもお外で自由にできるにゃ」



「そりゃあ何よりだ。チユはどうだ? 大丈夫そうか?」



「『女神の聖火』にいたときよりも伸び伸びしてるにゃ」



 オレとの決闘に敗北したアスベルは、潔くチユをクランから解放……することはなく、予想通りクラン脱退の書類にサインをすることを拒み続けた。

しかし、勇者ギルドリーダーのドマジメさんがブチ切れてアスベルにサインを書かせ、ついでにチユのクラン加入時の契約書の処分までやってくれたらしい。

さすがバカ真面目なドマジメさん、バカだけど決闘時の約束遵守には厳しいみたいだ。



「ちなみにチユのやつ、たまに朝起きたらオレの部屋で寝てるんだが……部屋の鍵とか魔法で解錠してんのかな」



「なっ!? そんなの聞いてないにゃ!? チユめ~ちゃっかりしてるにゃ!」



 アスベル達のクラン『女神の聖火』を正式に脱退したチユは、クランで借りていた一軒家を出て、オレ達が泊っている『四万屋』でクロムと一緒に暮らしている。

クランで稼いでいた資金はアスベルが集めていたハーレムクランの女冒険者たちに貢いでしまっていたため、チユは個人で出来る範囲のクエストをこなして資金を稼ぎつつ、故郷へ帰るための準備を進めているらしい。



「それでホムラ、今日はどこに行くんだにゃ?」



「ん? ああ、ちょっとな……」



 実は最近、あることが気になって街に出ると寄ってる場所がある。

広場から女神ポルテトを祀る教会に行く途中にある、古びた祠だ。

アムラから『神龍様』だと聞かされてからずっと興味を持っていて、あのとき祠に手を合わせていたおばあさんから話を聞きたいと思っていたのだ。



「今日はいるかな……あっ」



 祠の近くまで行くと、魔女のような大きなトンガリ帽子を被ったおばあさんがちょうど手を合わせてお祈りをしているところだった。

クロムに合図しておばあさんのお祈りが終わるのを待ってから声をかける。



「あの、すいません」



「はいはい、なんでしょう?」



「その、神龍様のことを聞きたくて……」



「あら、若い子が珍しいねえ。今は国教のポルテト教があるから、神龍様に興味を持ってくれるのは嬉しいわあ」



 おばあさんがトンガリ帽子を脱ぐと、真っ白な髪の間から人間族のものとは違う長い耳が見えた。



「もしかして、エルフ族にゃ?」



「ええそうよお。こう見えても昔は結構有名な魔法使いだったんだから」



「へえ……」



「あれはたしか、1400年前……いや、1500年前だったかしらあ? 人間族の勇者様と一緒に魔王軍と戦ってねえ」



「いや昔すぎるにゃ」



「生き神様だろもう」



 やっぱエルフ族って長生きなんだな……もしかしてハーフエルフのチユも実は数百歳とかいってたりするんだろうか。



「えーと、それでなんでしたっけ……ああそうそう、神龍様のお話しだったわねえ」



 おばあさんは祠に向き直り、どこか懐かしそうな表情で語り出した。



「カマドの街に祀られているこのお方は、この世界の炎を司る神龍……炎神龍クルースニク様だよ」

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