第46話 本当に強いのは
「さあチユ、僕に耐久強化と自然回復のサポート魔法をかけてくれたまえ!」
目の前にいるアスベルは『全くもって負ける気がしない』という自信満々な表情でこちらを見ている。
後方の関係者エリアには、あきれ顔のナクラーマと興味無さそうなブルベリ、そして泣きそうな顔のチユ。
なるほどな……これがあったからアスベル的には絶対勝てると踏んで勝負を受けたってわけか。
「なあクロム、あれってズルじゃないのか? オレ聞いてないんだけど」
「個人の決闘でクランメンバーの補助を受けるのは、基本的には認められていないにゃ」
「しかし、一部例外もありまして……」
「ミクティさん」
冒険者ギルドのミクティさんがオレたちの関係者エリアにやって来る。
「例えば今回の場合は『ホムラくんがクランメンバーのチユさんを力ずくで奪おうとしている。これを打ち倒し、チユさんを守るために仲間の力を借りる』という建前で申請を通しています」
「いやめちゃめちゃ屁理屈じゃん……チユ本人の意思はどうなってんだよ」
「正直、冒険者ギルドであれば私が却下しています。しかしアスベルさんが申請したのは、勇者ギルドなので……」
「ドマジメさんか……」
勇者ギルドのギルドリーダー、ドマジメはなんというか、バカ真面目で正義感の強い男だ。
ちなみにこの『バカ真面目』っていうのは『物凄い真面目』って意味じゃなくてバカが真面目ぶってるってことね。
きっとアスベルの屁理屈にも気付かずに許可したのだろう。
「アイツもチユの強さに気付いてたってわけか」
他人の魔力オーラをなんとなく感じることが出来るオレが『女神の聖火』と出会ったときに思っていたこと。
クランメンバーの中で一番大人しそうというか、自信なさげにしていたヒーラーのチユが、リーダーのアスベル、剣士のナクラーマ、魔法使いのブルベリを差し置いて最も良質で豊富な魔力オーラを纏っていた。
恐らく、魔力レベルが1番高いのも彼女なのではないだろうか。
「チユのサポートのおかげで勇者ギルドまで上り詰めたってとこだろうな」
チユと出会ったときのアスベルはまだ勇者ギルドに所属していないただの冒険者だった。
ついさっきまで対峙してても、勇者としての覇気などは全くと言っていいほど感じなかった。
ハリボッテとそこまで変わらないんじゃないだろうか?
しかし、チユにバフ魔法をかけてもらったアスベルはケタ違いに強くなっているのを感じる。
なるほど、チユがクランから脱退したいのを不当な契約で縛っていたのはこれが理由だろうな。
「力がみなぎる……これならどんな攻撃も耐えられるぞ……!」
「……ホムラ、ごめん」
「気にすんなチユ。むしろお前たちの実力が知れて良かったぜ」
ここまでやって格下のオレに負けたら、さすがに立場無いよな、アスベルさんよ。
「それでは両者とも準備が整ったということで、早速決闘を開始してもらいましょおおおお!!」
アスベルに魔法をかけたチユが退避して、審判のレッフェリーさんが観客を盛り上げる。
「ホムラよ、僕は絶対に倒れない! 不屈の心で君の醜悪な暴力に耐えてみせるよ!」
「そうかい……まあ、がんばってな」
「それでは両者構え! スリー、トゥー、ワン……ファイッ!!」
こうしてオレとアスベルの決闘が開始された。
相手が耐久に特化したガードのアスベルなため、今回のオレの勝利条件はアスベルを一定時間内に戦闘不能にするか、降参の言質を取ること。
それが出来なければ、アスベルの勝利だ。
「さあ来い! ホムラ!」
「いや、ここで大丈夫だ」
「……?」
オレが突撃してくるのに備えて巨大な盾を構え、守りの態勢をとるアスベル。
それに対してオレは、その場を動かずにゆっくりと息を吸う。
「まずはこの魔法が効くか試してみるか」
練った魔力を凝縮させつつ、一度心の中で魔法名を唱え、口から放出する業火の息吹をイメージする。
「……っ!! 〝イグニッションフレイム〟!!」
ボォァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
「ア〝ア〝ああああああああああああああ!?」
オレの口から放出された炎の渦がアスベルを火の海に沈み落とす。
「さあ……お前の根性、見せてくれよ」
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