第45話 勇者 vs 冒険者



 チユがオレたちの元へ助けを求めてやってきてから数日後。

オレは再びギルド会館の屋上にある決闘場へと足を運んでいた。

自称未来の勇者・ハリボッテと戦ったとき以来だな……そういえばアイツ、あれから見てないけど何やってんだろう。



「やあホムラくん、決闘を受けてくれて嬉しいよ」



「こっちこそ、条件を飲んでくれてありがたいぜ」



 決闘の条件として『クロムの開放を賭けて勝負しろ』と言うアスベルに対して『チユのクラン脱退』を提示したオレ。

てっきり『そんな条件飲めるわけがないだろう』とか渋られるのかと思ったが、案外すんなりと承諾してくれた。



「まさかクロムさんだけでなく、チユまで奪おうとするなんて……でも残念だったね。この勝負を受けてしまった時点でホムラくんに勝ち目は無いよ」



「言いたい放題言ってくれるじゃねえか、妄言も大概にしろクソ詐欺師」



 決闘にはギルド会館の職員たちも立ち会ってくれていて、万が一アスベルが敗北した際にチユのクラン脱退手続きを拒んだ場合、ギルドに提出しているチユのクラン加入契約書が破棄されることになっている。

というか最初から騙して契約したようなもんだから、チユが抜けたいって言ったときに破棄してくれても良い気がするんだが……その辺りはどこの世界もお役所仕事って感じだな。



「レディイイイスエンドジェントルメエエエン!! なんと今回は勇者様の決闘だぜベイベッ!! 盛り上がっていこうぜええええ!!」



「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」



「決闘審判はこのワタクシ、興行ギルド所属のレッフェリーが務めさせていただきまァす!!」



「またこの展開かよ」



 ギルド会館の広い屋上に集まる決闘の見物客たち。

個人のケンカが娯楽になるのはどこの世界でも変わらないようだ。

なんなら公式の興行ギルドがオレ達の勝敗を予想するギャンブルまでやってるしな。



「へいらっしゃい! アツいバトルを見ながら飲む酒は格別だよお!」



「片手でさっと食べられるツイスターチキンサンドはいかがですか~!」



「屋台まで出てんのかよ……」



「はぐはぐ……まったく、けしからんのにゃ」



「全くだわ、もぐもぐ……ホムラくんの真剣勝負なのに」



 クロムとアムラさん、美味しそうなの食べてますね。

良いなあ……オレも後で食べよっと。ツイスターチキンサンド。



「今回の決闘はあああああ? 勇者ギルド所属のクラン『女神の聖火』のリーダー、アスベル! 対するはあのハリボッテを倒した実績のある謎のFランク冒険者、ホムラの戦いだああああ!!」



「これはさすがにアスベルが勝つだろう」



「ハリボッテは見掛け倒しだったな!」



「勇者ギルドが冒険者ギルドの駆け出しに負けるとかあるわけねえもんな!」



 どうやら今回も格下のオレではなくてアスベルの勝利に賭けている人がほとんどみたいだ。

前回のハリボッテ戦のワンパン勝利があったからもっとオレに賭けてくれる人が増えたりしそうだなって思ってたんだが、さすがに勇者と冒険者じゃ実力が違い過ぎるってことかな。



「今回の決闘は変則ルール! ガードのアスベル選手が一定時間ホムラ選手の攻撃を防ぎ、戦闘不能にならなければアスベル選手の勝利! 耐えきれず戦闘不能、または降参の意思を表明した場合はホムラ選手の勝利です!」



「ホムラ~! がんばってにゃ! あのキッショいストーカーをぼこぼこにしてほしいにゃ」



「私は今回もホムラくんに賭けたから! 終わったらパーッと祝勝会やろうね!」



「おう」



 クロムとアムラからアツい声援(?)をもらいながら決闘リングに上がる。



「せ~の……」



「「「アスベル様~! がんばって~!」」」



「ああ、みんなありがとう!」



「…………」



 なるほど、あの子たちがアスベルの集めてる冒険者ギルドのハーレムクランか……



「お前……なんというか、スレンダーな子が好きなんだな」



「はっはっは! そうやって精神的ダメージを与える作戦には屈しないよ!」



 図星じゃねえか。



「ちなみに今回、アスベル選手には通常の戦闘時と同じ能力が発揮できるよう、事前に同じクランに所属しているヒーラーのバフ魔法を受けることが許可されています!」



 …………。



「……は?」

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