第43話 しつこい勇者とハーレムクラン
「ったく、なんなんだアイツ……」
「本当にしつこいにゃ」
ギルド会館で勇者ギルドのクラン『女神の聖火』のリーダー、アスベルに決闘を挑まれた日から数日が経った。
決闘を挑んできたのが『洗脳しているクロムを解放しろ』とかいう意味不明な理由だったし、そんな事実はまったくもってないのでオレは無視して決闘を受けずにその場を去ったのだが……
「街を歩いてたら毎日毎日決闘を挑んできやがって……」
「クロも毎日のようにクランに勧誘されるにゃ。ストーカーで通報したい気分にゃ」
一応、医療ギルドが経営する医者の所で本当にクロムが洗脳状態になってないか、精神鑑定系の魔道具を使って検査してもらったがなにも異常はなかった。
その鑑定証明をアスベルに見せたりもしたんだが、全然引き下がってくれず……
今は四万屋の自室でクロムたちと作戦会議中だ。
事情を知ったアムラの親がアスベルを出禁にしてくれているおかげで、宿の中までは入って来れないのでありがたい。
「ナクラーマもブルベリも止めてくれないしなあ」
「勇者ギルドはそういう人、多いのよ」
アムラの話によると、勇者ギルドに所属している人は実力はあるが性格的に尖っているというか、どこか一癖ある連中が多いらしい。
魔物に親を殺されて魔王絶対殺すマンになっていたり、正義に酔っていたり、とにかく活躍してチヤホヤされたかったり、金の亡者だったり……
ギルドリーダーのドマジメさんもなんか話し通じなさそうな感じだったし、苦手だなあ……勇者ギルド。
「まあ、そんな感じで普通とは違う人たちだから熱狂的なファンが付いちゃったりするのかもしれないけどね」
「本当に余計なお世話にゃ。ホムラのことを悪く言うとかロクな女を集めてないにゃ」
「あの女達か……」
アスベルは無類の女好きで、今回のクロムのように気に入った女冒険者を勧誘して毎夜毎夜、まあ色々とお楽しみというわけらしい。
勇者ギルドに所属するには冒険者ギルドのギルドランクがA以上ないといけないので、彼自身は勇者ギルドに所属しているが、勧誘した女冒険者はランクが足りないので冒険者ギルドに『女神の聖火』の下部組織用クランを作ってそこに囲っているのだとか。
ナクラーマは最初、オレをその冒険者ギルドのクランに誘ってくれたけど、今のところはアスベルが集めた女冒険者しかいないとのことだった。
いやそんなアスベル専用ハーレムクランにオレだけ入れられても困るんだが。
「クロは同担拒否だからハーレムクランとか意味不明にゃ」
「同担拒否て」
どうやらそこのクランに所属する女冒険者たちがクロムに対して『目を覚ましなさい』とか『あんなFランク冒険者のガキとは別れた方が良い』とか好き勝手言ってくるらしい。
クロムじゃないが、オレも『好きな人には自分だけを見て欲しい』とかそういう感じじゃないのかなと思った。
目を覚ました方が良いのは多分そっちだぞ。
「ハリボッテの時と違って、冒険者同士の決闘じゃなくて『勇者』が格下の『冒険者』に決闘を吹っ掛けてる構図だから断っても仕方ないって思われてるけど、いい加減うっとうしいよな」
「ホムラ、もういっそのこと決闘を受けてあのキッショい勘違いスケコマシをぼっこぼこにしてほしいにゃ」
「でもクロムを賭けた決闘とか嫌だろ。お前を所有物みたいに扱うのは違うっつーかさ」
「ホ、ホムラ~!」
「おわっ!?」
感極まった(?)クロムが飛び込んでくる。
……なんとなくアムラがめっちゃ冷たい目でこっちを見てる気がする。
「アスベルってか、『女神の聖火』って強いのか?」
「まあ、この街の中ではね。勇者ギルドに所属してる人自体が少ないから」
「でもホムラなら勝てると思うにゃ。あのアスベルとかいう男、そんなに強そうに見えなかったにゃ」
「たしかにな」
オレはダンジョンでの修行の成果もあって、なんとなく他人が纏う魔力のオーラみたいなものを感じ取ることが出来る。
クランのリーダーをやっているアスベルだが、正直肩書と実力が乖離していそうな気がした。
むしろ、本当に強いのは……
コンコン。
「ホムラくん、例の『女神の聖火』が訪ねて来たんだけど、出禁にしてるアスベルさんじゃない人なんだ。どうする? 追い返すかい?」
一階にいたアムラのお母さんから連絡を貰う。
アスベル以外のクランメンバーが四万屋まで訪ねてきたのは初めてだ。
ナクラーマが説得にでも来たのかな。
「えっと、なんていう人ですか?」
「チユっていう、ハーフエルフの女の子だよ」
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