第42話 自分勝手な勧誘



「クロムを、勇者ギルドに勧誘?」



「なんの話にゃ?」



 チユと話していてこっちの状況を分かっていなかったクロムが頭にハテナマークを浮かべている。

いやオレもよく分かってないんだけどな。

ドマジメさんやナクラーマから、魔王軍の手下であるハンシンを倒したオレに『将来勇者ギルドへ入って欲しい』ってことを言われてたんだが、そこに乗ってきたように見せかけたアスベルがいきなりクロムを勧誘しだしたのだ。



「クロムさん、君のような可憐なネコネコ族は初めて見たよ。チユとも相性が良いみたいだし、ぜひうちのクランに入ってくれないか?」



「入らないにゃ」



「大丈夫! ランクが上がるまでは冒険者ギルドにある下部組織のクランに所属となるが、僕たちと一緒に行動することはできるからね!」



「こいつ全然クロの話聞いてないにゃ」



「……リーダー、いつも、こんな」



「人の話聞かねえんだよな……」



 チユとナクラーマが呆れたように溜め息をつく。

どうやら普段からこんな感じらしい。



「あらアスベルちゃん。またお気に入りの娘をお迎えしようとしてるのねえ」



「また?」



「こいつ、女好きなんだよ……気に入った冒険者がいたら口説いて下部組織に所属させてんだ……」



「止めさせた方が良いだろそんなん」



 『だからこそ俺はちゃんとした実力者としてホムラを勧誘したんだがな……』とナクラーマが呟く。



「大丈夫! ちゃんと毎月クラン所属料は支払うからさ!」



「不健全にゃ」



「良いんですかギルドの皆さん、勇者クランがこんなことやってて」



「はっはっは! 勇者たるもの、何事にも強い意志を持って取り組むことが大切ですからね!」



「冒険者ギルド的には損害を被っているわけではありませんし、無理やり所属させているわけではないので……個人的には反吐が出ますが」



 なるほど、勇者ギルド的には気にしてない、冒険者ギルドも悪い事してなきゃご自由に……って感じか。

ミクティさんは嫌そうだけど。



「さあ子猫ちゃん! 僕のクランに入って一緒に華々しく活動しようじゃないか!」



「お断りにゃ」



「ああ連れないね子猫ちゃん。一体何が不満なんだい?」



 アスベルは大げさな身振り手振りでクロムに振り向いてもらおうと勧誘を続けている。

なんかあれだな、文化祭の演劇みたい。



「女好きとか普通にキッショイにゃ。金積んでグイグイ押せばいけるとか思ってそうなのもキッツイにゃ。見た目とかも全然好みじゃないし、ホムラの方が何億倍もカッコいいにゃ。っていうか、そもそもクロはもうホムラのものだから無理なのにゃ~」



「クロムさん言い過ぎ言い過ぎ……くくっ」



「笑っちゃダメだろミクティ……はっはっは!」



「ドマイドさんのほうが笑ってますよ」



 ついさっきまで笑顔を絶やさずクロムに言い寄っていたアスベルの表情が固まる。

まあ、さすがにあそこまでボコボコに言われちゃあなあ……



「……クロムさんは、ホムラくんのもの?」



「そうにゃ。ホムラはクロの運命の人にゃ。ご主人様にゃ」



「そうにゃじゃねえよ。いや、こいつが言ってるのは全部一方通行で」



「……クロムさんは、ホムラくんに洗脳され、囚われている?」



 …………。



「「「は?」」」



「にゃ?」



「おいアスベル、それはさすがに……」



「ナクラーマは黙っていてくれ!」



 謎の解釈をし始めたアスベルが、今度はオレの目の前までやってくる。

な、なんか顔怖いんですけど……



「ホムラくん……いや、ホムラ!! クロムさんを開放しろ!! 僕と決闘だ!!」



「いやまたこの展開かよ」



 勇者アスベルは左手の指ぬきグローブを外してオレの目の前に叩きつけた。

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