第37話 子猫の恩返し
「それじゃあクロム、お前があのとき不審者の男に襲われていた子猫だったっていうのか……?」
「そうにゃ、ホムラが命を賭してクロを守ってくれたんだにゃ!」
改めてクロムの姿を見てみる。
肩にかからないくらいに切り揃えられた黒髪からぴょこんと飛び出した黒い耳。
腰から伸びるしなやかな黒い尻尾、そしてクリッとした黄色い瞳……
「いや7割くらい人間じゃねえか。どうしてこうなった」
たしかにこの耳とか尻尾は猫っぽいけどさ、オレはネコネコ族なんて助けた覚えはないぞ。
「っていうか、この世界にいるってことはお前も死んじまったってことか……?」
「そうだにゃ。でもクロが死んでこの世界に来たのは最近にゃ。ホムラが助けてくれたから、あれからクロは〝3年も〟生きることができたにゃ」
「……そうか」
言葉が出なかった。
たしか、ペットの猫の平均寿命は約15才だが、野良猫は3~5才だと聞いたことがある。
野生下では鳥やヘビなどに狙われたり、病気で死んでしまう子猫が多く、成猫になれるのはごくわずからしい。
「前世で一匹の黒猫として生きていた3年間、クロは命を助けてくれた男の子のことを忘れなかったにゃ。そしたらクロが病気で死んじゃったときに女神様とかいうのが現れて『あなたを助けてくれた桃山焔くんに会わせてあげる』って言われたにゃ」
「なるほどな、そこでオレの名前も知ったと」
「そうだにゃ。故・桃山焔、享年15才・高1男子、身長158cm……」
「いや死亡時のプロフィールまで言ったんかよあの女神」
ちなみに今の身長は多分150cmもない。
あれ、縮んでない? 前世で13才のときこんなもんだったか……?
「というわけで、クロはホムラに助けてくれたお礼を伝えて恩返しをするために、ネコネコ族として生まれ変わったんだにゃ!」
「うわっ!」
再びがばっと抱き着いてくるクロム。
なるほどな、鶴の恩返しならぬ猫の恩返し……
「陽のあたる坂道を自転車で駆けのぼる感じか」
「それはジブリにゃ」
こうしてオレに、元黒猫の前世ネタが通じる知り合いが出来たのであった。
「それはそれとして、ホムラは今までどこに行ってたんだにゃ?」
「えっ?」
「クロがこの街に転生したのは、女神様にホムラに会いたいから同じ街に転生させてってお願いしたのにゃ。でも転生してから今の今までホムラを見かけないし、ホムラの事を知ってる人にも会わなかったにゃ」
まあそりゃそうだよな。
そもそもオレ、この街に転生出来てなかったし。
「ちょっとヴォルケイム火山地帯にこもって修行してたんだよ……ほら、前世みたいに助けに入ったはいいものの、自分が殺されちゃあたまったもんじゃないからな」
「それで火が吹けるようになったにゃ? ホムラすごいにゃ!」
「ま、まあな」
まあ、間違ったことは言ってないよな。
クロムにだったら本当のことを言っても良いのかもしれないけど、どっかで話が漏れて『自称、ヴォルケイム火山地帯の隠しダンジョンでドラゴンと暮らしてた少年』とかいう噂が流れても嫌だしな……この世界の人は絶対信じてくれないだろうし。
「というわけでホムラ、クロはあなたに恩返しがしたいのにゃ」
「恩返しって言ってもなあ……」
「猫の国の王子様と結婚させられそうになってたりしないかにゃ?」
「いやそれジブリだしオレ男だから」
巨大マタタビゼリーは食ってみたいかもしれない。
ゼリーで溺死は勘弁だがな。
「分かったにゃ、まずはお互いのことを良く知ることが必要にゃ」
「まあ、それはそうかもな」
オレ達が前世で関わったのは、あの動物虐待不審者から子猫を助けたっていう一瞬の出来事だけだ。
今の彼女をオレはほとんど知らないし、向こうもそうだろう。
「それじゃあ、まずは……」
「一緒にお風呂に入るにゃ!」
「そうだな、一緒に風呂に……」
…………。
「ん? 風呂?」
「仲良くなるには裸の付き合いが一番にゃ!」
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