第13話 仮死状態
「師匠が、眠りにつく……? それってどういう……」
もしかして、また封印状態になるってことか……?
「いや、正確には眠りにつくとは違うな。生命活動に使うエネルギーをほとんどゼロにするという感じだろうか」
「冬眠とか、仮死状態……みたいなことか?」
「まあ、そうだな……仮死状態というのが一番近いかもしれない」
クルースニクに詳しい話を聞くと、どうやらヘビやトカゲなどが行なう『脱皮』のようなものをするために、一時的に肉体の活動を制限するらしい。
炎神龍、まあ一応ドラゴンだしな……爬虫類といえば、爬虫類……なのか?
「我が仮死状態になっている間はお前の面倒をみることができない。だがホムラよ、今のお前であれば大丈夫であろう」
「師匠……」
「次に我が目覚めた時こそ、お前の巣立ちの時。それまでしっかりと鍛錬を積んでおくのだぞ」
こうしてクルースニクは徐々に活動を鈍化させていき、最後には石化したかのように動かなくなってしまった。
……。
…………。
―― ――
クルースニクが仮死状態になってから、おそらく二十日程が経過した……と、思う。
ずっとマグマで明るいし、時計も無いから時間の感覚がちょっとね。
オレは彼女に言われたように、自主的に身体を鍛え、一度倒したインフェルノゴーレムに再び挑み、自分の弱点を見つけ出して鍛え直し、更に再びインフェルノゴーレムと戦い……そんな感じで、毎日鍛錬を欠かさなかった。
最終的に、インフェルノゴーレムを倒してからその先の地下254階層、253階層と進んでいき、250階層まで攻略することに成功した。
魔物は上層へ行くにつれてどんどん弱くなる。
今のオレなら、おそらく一人でこのダンジョンを脱出することが出来るだろう。
「ふう、ちょっと休憩……」
クルースニクがいない間の食事はどうしているかというと、彼女が眠る前に作ってくれた『魔力玉』という、魔力を凝縮した飴玉のようなものを食べている。
一粒食べると、不思議なことに丸一日空腹にならないし、喉も乾かない。
この飴玉に加えて、地下252階層辺りから出現したマグマの中で泳ぐ魚のような魔物を倒して食べたりもした。
地下256階層分のダンジョンを抜けて地上に出るにはかなりの日数がかかるから、一人で食料の調達も出来るようにしていかないといけない。
「飴玉はあと3個……もう少ししたら魚オンリー生活か……」
正直、クルースニクの作った料理が恋しい。
最初は彼女の乳を飲んだり、彼女が産んだ卵や切り離した尻尾の肉を食べるのに抵抗があったが、今ではなんというか、おふくろの味……みたいな感じになってしまった。
いやそりゃあね、この世界に来てからずっとクルースニクの料理で育ってきたし、実際めちゃめちゃ美味いからな。
「この飴玉が無くなるくらい時間が経ったら起きるって言ってたけど……」
オレは『炎神龍の間』で石像の様に眠るクルースニクを見つめる。
本当に大丈夫なのだろうか。このまま眠ったままだったら……
そんなことを考えていた時だった。
ボオオオオアアアアアアアアアアア……!!
「うおっなんだ!? てかあっっっつ!!」
いきなり仮死状態だったクルースニクの身体がものすごい勢いで燃え上がる。
な、なんだ? どうなってるんだこれ……?
「う~ん、スッキリした……おお、ホムラよ。無事であったか」
「し、師匠……? 大丈夫なのか……?」
「ん? ああ、この炎はあれだ。脱皮したウロコを燃やして綺麗にしたというか、生まれ変わったというか……まあそんな感じだ」
「そんな感じって……」
たしかに、綺麗な紅色をしたクルースニクの龍鱗が前よりも鮮やかになっている気がする。
すごい脱皮方法だな。さすがドラゴン……いやドラゴンだとしてもおかしいけど。
「まあまあ、良いではないか。そんなことよりもホムラよ」
「ん、なんだ?」
「おはよう」
…………。
「……おう、おはよう」
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