第6話 師匠と弟子
「クルースニクが、オレの師匠に……?」
「そうだ。貴様一人でもこのダンジョンを自由に歩き回れるくらい強くなれるように、我が鍛え育ててやろう」
ヴォルケイム火山地帯、炎神龍の岩窟の主は、いきなりオレを育てて強くしてくれるなどと言い出した。
正気か? それとも油断したところをパクッと……いや、そんなことをしなくてもコイツはいつでもオレを殺れそうだしなあ。
「で、でもオレは人間で……クルースニクのような魔物とは敵対してるんじゃ……」
「まあ、このようなダンジョンに来る人間は我を討伐しに来る気概のある輩が多いだろうな。だがホムラよ、貴様は自らの意思でこんな所へ来たわけではないだろう?」
「そう言われると、確かにそうだが……」
もし普通に街に転生出来てたとしても、オレは勇者や成り上がりたい冒険者みたいに魔王討伐とか隠しダンジョン攻略とかは目指さないだろうな、とは思う。
だって死ぬかもしれんし。近場のダンジョンで素材採取とかやってのんびり暮らしたい。
「貴様が前世で命を落とし、女神とやらの計らいによりこの世界へ転生した理由も、自らの命を投げうってでも幼い命を助けたからであろう。そんな心根の優しい少年に、我も少し興味が湧いてきた」
「そ、そうか……なんか照れ臭いな」
「あとシンプルに暇すぎてな。眠りから目覚めたのは良いが、ここでホムラを殺したらこれから先、何年、いや何十年も一人で過ごす羽目になるであろう」
「なるほどな」
それが一番の理由か。
たしかに、オレが炎神龍の間の封印を解除してしまったからクルースニクは目覚めたわけで。
どうやらオレが死んだらまた眠りにつく、とかでは無いらしい。
「人間の一生など我にとっては瞬き程度の時間よ。たまには人の弟子をとってみるのも面白いかもしれぬな」
「面白いでオレの第二の人生を左右しないでほしいんだが……」
とはいえ、気まぐれでもオレを育ててくれるというならその話に乗るしかないだろう。
だってそうしないと死んじゃうし。
「……分かった。クルースニクの提案を受け入れるよ」
「そうか、それでは今日から貴様は我の弟子であり、息子だ。独り立ちできるようにしっかり鍛え上げてみせるからな」
「ああ。これからよろしくな、師匠! ……息子?」
こうしてオレは、最強の裏ボス、炎神龍クルースニクの弟子になるという前代未聞の提案を受け入れたのだった。
「ホムラよ。貴様腹が減っているのではないか? 転生してから飯などを食っていないだろう」
「あ、ああ。そういえば腹が減ったな」
クルースニクに言われて初めて気が付いたけど、転生してから飲まず食わずで階層内を歩き回って喉もカラカラだしお腹もペコペコだった。
あのポンコツ女神、異世界スタートセットというか、非常食セット的なやつくらい転生したときに持たせてくれよ。
「よし、それではまずは飯にしよう。とはいえ、人間の子には何を与えれば良いのだろうか……」
クルースニクがオレに食わせる飯について考え込んでいる。
というか、オレが食えるものってこのダンジョン内に存在するのか?
「うむ、分かったぞ! 乳だな! 少し待っておれ!」
「……は? 今なんて」
パアアアアアアアアアアアア……!
「えっ? な、なんだ……!?」
いきなりクルースニクの姿が謎の光に包まれる。
しばらくすると発光が治まり、光の中から出てきたのは……赤髪の女性だった。
ただ、女性には巨大な巻き角と美しい龍鱗の尻尾が生えていた。
「ふむ、中々人間らしくなったのではないか? どうだホムラ、我の姿は」
「えっあっいや、ってか服は!?」
「服? ああ、そういえばそんなものもあったな……まあそれは良い、今は必要ないだろう」
「いつでも必要だよ!?」
人間のような見た目に変化したクルースニクは全裸だった。
しかもめちゃめちゃでかい。身長も、それ以外も。
「ほれホムラよ、こっちへ来い。我が乳を飲ませてやるから」
「えっ!? い、いや、ちょっと待って」
「我は神龍。本来は乳など出ないのだが、人間の姿に変化し、体内の魔力を乳として変換して貴様の食事として提供してやろうと言っておるのだ」
そんなこと出来るのかよ……さすが(?)神龍……
「というわけでほれ、遠慮はいらんからたんまり飲むのだぞ」
「いや、さすがにそれはちょっと待っむぐぅ!?」
…………なんか、今まで飲んだことないくらい美味かったんだが。
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