第5話 脱出厳しいって



「……なに? ここから脱出する方法、だと?」



「ああそうだ。オレは勇者でもなんでもない、普通のガキだ。アンタと戦う力も権利もない」



「……事情を聞こうか」



 オレは炎神龍クルースニクに、このダンジョンへ来てしまった経緯を前世の事も含め洗いざらい全て話した。

少しでも嘘があったり、隠し事をしたら信じて貰えないと思って、誠意をもって全てを伝えた。



「……そうか、お前は異世界からこの場に転生してきたということか」



「し、信じてもらえねえかもしれないが、全部本当なんだ。それにオレの今の身体は10才の子供だけど、心は15才で……いや、15才でもアンタにとっては子供だと思うけど」



「……なるほどな」



 クルースニクはオレが説明をしている間、茶化すことも怒ることもなく、静かに話を聞いていた。



「それで、オレは本当は『カマド』っていう街に転生する予定だったんだ。だからここから脱出して、そのカマドっていう街を探しに行きたいんだが……」



「灼熱の街カマドだな。我が統べるこのヴォルケイム火山地帯の麓にあるはずだ。我が眠っている間に滅びていなければの話だが」



「そ、そうか……」



 どうやら実際に街があるのは確かのようだ。

あとはここから脱出して、その街のギルド会館でカードを作ってもらって……



「この場所からの脱出方法も教えてやろう。だがしかしホムラよ、今の貴様では脱出は難しいだろう」



「えっ……?」



「貴様が今いるのは、ヴォルケイム火山地帯の地下ダンジョン、炎神龍の岩窟。それも最深部……地下256階層の『炎神龍の間』だ」



「ち、地下256階!?」



 それじゃあここから地上に出るには、256階分のフロアを攻略しながら上がっていかないといけないってことか?

さすがにそれは無理ゲーすぎるだろ……1年、いや2年はかかるかもしれない。

というかその前に確実に死ぬ自信がある。



「ちなみに貴様が言っていた、『ダンジョンの主を倒したら転移装置がうんぬん』に関しては知らん。だって我、今生きてるからな」



「そりゃそうだ」



 レベルやスキルがある世界なので前世のゲーム知識で色々と考えてしまうが、ここは現実に存在する異世界だ。

どうにかしてクルースニクを倒したとしても地上に出れる転移装置的なのが現れるとは限らない。

というか、まずこのドラゴンを倒せる気がしない。



「ホムラよ、貴様は我の灼熱の息吹を全身に浴びても無傷であったな。炎や熱に対する耐性がかなり高いはずだ。おそらくその身に着けている装備、またはホムラ自身がスキルとして持っているのだろう」



「あ、ああ……」



 そういえば、ポルテトの手紙にも『灼熱耐性+』というスキルが書いてあった気がする。

身に着けている装備もかなり頑丈だから、自分が思っているよりも火炎系のダメージには強いのかもしれない。



「そうか、熱に強いなら、マグマの川も泳いで渡って、他の魔物の攻撃も耐えて……」



「……ホムラよ、この岩窟には火炎系以外の攻撃手段を持つ魔物も生息しておる。それに、マグマの沼に棲む大型の魔物などは、ホムラほどの子供なら丸呑みにしてしまうぞ。勿論、我だってそれくらい今すぐにでも出来る」



「…………」



 そりゃそうか、そんな上手い事いかないよなー……

はあ、こんなことなら女神にチートスキルでも貰っとくんだった。

転移魔法とか、一定時間無敵状態とか、赤甲羅とか、キラーロケットとか……



「そりゃマリカだっつーの」



「なにか言ったか?」



「いやなんでも……」



 はあ……やっぱオレの人生、ここで終わっちまうのかな……最後に美味いもんでも食って死にたかったぜ……回らない寿司屋とか行ってみたかったな……



「……ふむ、ホムラよ。貴様はこのダンジョンから脱出したいのだな?」



「ああ……でもあんたの話を聞いた感じだと、今のオレにはどうやったって無理そうだぜ……」



「それなら、貴様が力を付けてこのダンジョンから脱出できるようになるまで我が鍛えてやろう」



「ああ、オレを鍛えて……え?」



 ……クルースニクが、オレを鍛える?



「不運な転生者、ホムラよ。貴様は今日から我……灼熱の炎神龍、クルースニクの弟子になるのだ」

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