第4話 炎神龍クルースニク



「ド、ドラゴンだ……」



 封印されていた扉の先にいたのは、燃えるような紅色のウロコを持つ、巨大なドラゴンだった。

見た目としては、西洋の竜というよりも日本の昔ばなしに出てくるようなアジア系の龍に近いだろうか。

ヘビのような長い胴体に、鋭い爪を持つ強靭な手足。

ガッシリとした顎を持つ大きな頭の横からは、これまた大きくて立派な巻き角が生えている。



「ほう、随分と若い男が一人……よくここまでたどり着いたものだな」



「い、いやまあ、たどり着いたというか、強制的に転移させられたというか……」



 これはダメだ、実際に見ると全く倒せる気がしない。

当たり前だけどゲームのボス戦と現実は違うんだ。



「戦う前に、貴様の名を聞いておこう」



「オ、オレはホムラだ……いや、その、戦うのは」



「ホムラ……良い名だ。我は〝炎神龍クルースニク〟……我の住処である『炎神龍の間』の封印を解放したということは、地上世界の魔物どもを治める魔王が倒されたという事だろう。さあ若き勇者ホムラよ、魔王を倒したその力、我に見せてみよ……!!」



「えっ!? ちょ、ちょっと待って、魔王とか知らないし! オレ戦いとかはっ」



 ゴゴ、ゴゴゴゴゴ……



「あれ? 扉が閉まって……いやちょっと待っ!!」



 ドラゴン……炎神龍クルースニクが口を大きく開けてこちらに標準を合わせる。

入り口の扉はつい先ほど勝手に閉まった。

これはちょっと、やばいヤツだ。



「く、くそぉっ!!」



 自分が今出せる全速力でクルースニクの前から走って逃げる。



「それで我のブレスが避けられるとでも……? ッ!!!!」



 ボォオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアア!!!!



「うわあああああああ!?」



 クルースニクの口から火炎のブレスが放たれ、逃げ惑うオレに向かって襲いかかる。

というか、もはやこの部屋全体を焼き尽くす勢いで灼熱の炎が燃え広がっていく。

これはもう、攻撃を避けながら1ダメージずつ食らわせて倒すとかそういう話ではない。



「ああ、これはもう、ゲームオーバーかな……」



 いっそのこと、これで死んで近くの街の教会とかで復活できたりしないだろうか。

目が覚めてまたあの女神の所だったら文句言ってやろう。



 ……。



 …………。



「…………あ、あれ? 生きてる?」



 クルースニクの火炎ブレスをもろに食らい、消し炭に……なったと思ったんだけど、オレは生き残った。

それどころか見た感じヤケドもしてないし、服が燃えて焦げていたりもない。

火炎のブレスを浴びたときは確かにかなりの熱さを感じたが、まあでも、ちょっと熱い銭湯の湯船に入った時くらいの感じだった気もする。



「ほう……我のブレスを食らって無傷とは。さすがその若き身で魔王を倒した勇者だけはある」



「い、いやオレ、勇者じゃなくて……」



「さあ勇者ホムラよ! 魔王を打ち倒したその絶技、我に食らわせてみるがよい!!」



 ダメだ。ものすごく激アツ展開というか、クライマックスな感じで話を切り出せない……でも、このままではどうにもならないし、あのブレスは普通に熱いのでもう勘弁してほしい。



「……っ! え、炎神龍クルースニクよ! 話がある!!」



「……我に取引を持ち掛けようというのか。面白い、聞かせてみよ」



 よし、話せる流れになってきたぞ。意外とこっちの意見聞いてくれるんだな、隠しダンジョンの裏ボス。



「クルースニク、炎神龍であるアナタに問おう……!!」



 オレはクルースニクの目をまっすぐ見つめ、大きく息を吸って言い放った。



「このダンジョンから脱出する方法を教えてください!!」

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