第3話 扉、解放




「だ、だめだ。この階層からの出口が見当たらない……」



 歩ける範囲は大体見て回ったけど、上に続く階段や転送装置みたいなものは発見できなかった。

ついでに体力が回復するセーブポイントもなかった。

さすがにそこまでゲームチックな世界ではないらしい。



「もしかして、このマグマを飛び越えたりしないといけないのか……?」



 ドロドロと流れるマグマの先には、だいぶ遠いけど対岸が見える。

とはいえ今のオレにあそこまで行ける力は無いし、いくら耐性があるっていってもマグマを浴びたら普通に死ぬ気がする。



「あとはもう、この扉を開けてボスを倒すしか……」



 こういうのは大体、ダンジョン最深部のボスを倒したら地上への転送装置みたいなのが現れるもんだしな。

前世でやったことのあるゲームはそうだった。



「うん、ゲームならね。これ現実なんだよね」


 

 ていうかこの扉は普通に開けられるものなのだろうか。

数メートルはある巨大な扉。きっと厚みもあって、腕力だけで開けるのは不可能だ。



「鍵穴みたいなのは無いし、そもそも鍵を持ってないしなあ」



 ぺたぺたと扉を触ってみたけど、扉が動いたり、なにかが発動する様子も感じられない。

扉のいたるところに謎の文字が刻まれているけど、全くもって解読できない。



「うーん……あっそういえば、ポルテトの手紙になにか書いてあった気がするな……」



 先ほどの手紙を取り出して下の方に書いてあるダンジョンに関しての文を読んでみる。



 ―― ――



 この世界には通常は入ることのできない隠しダンジョンがいくつか存在してまして、そのひとつが今ホムラくんがいる場所なんですね。

あ、それでですね、ダンジョンの最深部にある扉の封印を解除するには、扉に刻まれた呪文から正しい文字だけを選択する必要があるんです。

その為には、上の階層で正しい呪文が書かれた石板を集めないといけないんですが。



 ―― ――



「ええ……じゃあ積んでるじゃないか」



 どうやらこのダンジョンの入り口からスタートして必要なアイテムを集めながら最深部まで来る必要があるらしい。

そもそも上に戻れないので今のオレにはどうすることもできない。



「はあ、それじゃあどうやって……いや、まだ何か書いてあるぞ」



 とはいえ、今回はわたしのミスでダンジョンの最深部に飛ばしてしまったので、特別に扉の封印を解除する呪文を教えますね。



 〝ज्व ल न्तं  ज्वा ला〟



 この順番で扉に刻まれている文字に触れてください。



「それではお元気で~。あなたの女神ポルテトより……」



 う、胡散臭え……



「まあでもこれしか情報が無いし、一応やってみるか」



 オレは手紙に書かれた文字を扉に刻まれた呪文の中から見つけ出して、間違えないように順番に文字をなぞっていく。



「……よしっと。これで本当に扉が開くのか?」



 …………。



「うーん、特に変化は……」



 ゴゴ……ゴゴゴゴ……



「……お?」



 ゴゴゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!



「おお~!?」



 さっきまでビクともしなかった巨大な扉がゆっくりと開いていく。

長年動くことの無かった扉なのか、地響きと共に周りの壁が少し崩れて小石が落ちてくる。



「こ、これ大丈夫か? 洞窟自体が崩れたりしないよな?」



 ゴゴゴゴゴ……ズシン……



「……と、止まった」



 扉が左右に半分ほど開いた所で固定されて動かなくなる。



「よし、中に入るか……いや、でもなあ」



 正直、この先にいるであろうボスを倒せる自信は全くない。

耐性スキルがあるとはいえ、魔力レベルはたったの15だ。倒せるはずがない。



「そ、それでもオレは諦めないぜ」



 ひたすら耐えて相手に1ダメージずつでも与え続ければどれだけ強い相手でもいずれ倒せる時が来る。

そういうゲームもやったことがあるからな……まあ、あれはさすがに過酷だったけど。



「徹夜して倒せなくて、セーブも出来ないからゲームの電源付けっぱで学校行って、帰ってきて続きやったりしてな。はは、懐かしいわ」



「ほう、なにが懐かしいのだ?」



「いや、前世でやった、ゲーム……が……」



 開いた扉の先に見える、巨大な紅色の謎の物体。

そこから、洞窟内に響き渡るような重厚な声が聞こえてくる。



「我の眠りを妨げるモノ。貴様は……誰だ?」

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