第5話 蒸気の魔人

「ッチ…!!」

俺は、トコトコと小さい足で歩くそいつに向かって舌打ちをした。


俺はユミー。スチームタウン起眞公共安全課の役員だ。


そして、俺の後ろからついて行くる、この身長の小さい、チビで、餓鬼で、薄汚い服装を纏う少女が、Vという名前の少女だ。


長い髪は床まで伸びており、その黒い髪は、前まで奴隷市場に居たような奴とは思えないほどに小綺麗だった。


俺は、建物のガラスに映る自分の姿を覗き見る。


少しロン毛気味の、ショートヘアーに、尖った目付き。

髪色は、茶色で、目付きと姿勢さえ直せば、女と間違えられるような顔付きのその男は、右腕からは蒸気が湧き出ていた。


鉄によって作られた、とても太い義手。


どうも腕のサイズをしてねぇような、その腕は、武器腕。要するに改造された腕だ。


武器としても使える義手。


俺はそれで、この街の平和を守っている。


猫背で歩く俺の後ろをトコトコと歩くV。

年齢を聞くと大体12歳くらいだと言うが、俺は後ろを歩くその少女を見て、推定9歳あたりを予想する。


まあ、そんな奴に荷物を運ばせている俺だが、警官として最低限の証明書だけはしっかりと持っているし、立派な警官として、俺はしっかりと業務を遂行する。


まあ、一定区間を散策するだけの仕事なんだが…


「おい!!!そこの義手の兄ちゃん!!!!!!」


「あ?」

俺は、そのド太い声に踵を返した。

すると、そこには、俺の1.5倍あたりの身長をした奴が、口から金歯を見せて、俺の目の前に立っていた。


すぐさま、Vは俺の後ろへと隠れる。


ったく。弱気な奴だ。


「なんだ、てめぇ?警察官に話しかけたら公務執行妨害でしばくぞ?」


「なんだなんだ?随分とこの総合格闘技ハバネ様に向かって強気じゃねぇか?それよりも、あんたなんだろ?ここら辺で一番強いって噂されてる、って奴はよぉ…!!!」


男は、包帯を巻いた拳をぶつけ合わせた。


「………しらねぇな。俺じゃねぇ。他を当たんな。」


俺はそういうと、Vに「行くぞ」と睨みつけて、歩を進めた。


「はは!!!チャンピオンを前に良い度胸じゃねぇか!!!!そんなお前にはあの世がお似合いだぜ!!!!!」


「じゅ、巡査!」

すると、走りながら、拳を振り上げてくる男に、Vが俺の服を掴んで隠れた。


はぁ…どいつもこいつも…!!!!


俺は、振り向き、俺の背中に向かって拳を振り上げたそいつに、蒸気を動力源として動く、義手の、重い一撃を喰らわる。


約2tの打撃ダメージがその男に加わり、その巨大な体はぶっ飛ぶと、俺は、踵を返し、ポケットから板チョコを取り出して、齧った。


「行くぞ。」


「は、はい!!」


Vは、その道端に倒れた男を無視して、歩き始める。


「あ、あのままで良いんですか…?」

Vが、弱々しく聞くと、俺は、「めんどくせーなぁ…あのままで良いんだよ。喧嘩売ってきたのはアイツだしな。」


そう言うと、俺は板チョコに齧り付く。


やはり板チョコは麻薬なんかよりもずっと美味い。

全く、あんな粉人間はよく食えるぜ。


俺は、そう思いながら板チョコに齧り付いていると

ブウウウウウウン!!!!!!!!

俺の横を駆け抜ける車。


蒸気を利用したその車高は3mほどはあるだろうか。

とてつもなく常軌を逸しているその車は、煙の灰を放ちながら公道を過ぎ去って行った。


「ああ?なんだあれ…」


「あれ…もしかして速度違反なんじゃ…」


「良いだろあんなん。めんどくせぇ…あんなの足で追いかけようと思う方が異常…」

と、俺はチョコにかぶりつこうとした時だった。

チョコが無くなっていたのだ。


そして、そのチョコは、床に落ちており、原因は、多分、さっきの車が走るときに放っていた灰のような物。


「っっっっっっっっっ!!!!!!!」

俺は、頭から蒸気が出そうにまで、熱くなる。


「やっぱやめだ…スピード違反はシバかねぇとだなぁ!!!!!!」


「え…?」

俺は、床に膝を突き、目の前に向かって右手を突き出す。


「あ…行ってくるのですね…」


「ああ…!!!板チョコの仮は返させねぇとだからなぁ…!!!!!!」


そして、次の瞬間、右腕の義手の横あたりから一気に蒸気が放たれると共に、ロケットのように、右手が高速で走行する車に向かって放たれた。


そして、その放たれた右手は、走行する車の後ろに突き刺さり、そして、飛んでいった右手に繋がるワイヤーを義手が巻き上げる。


巻き上げる速度によって、俺は、木製の公道の上を、まるでスーパーヒーローのように、地面から少し浮きながら、一気に高速移動する。


そして、右手の刺さった車の位置へと引き上げられると、俺は、車の上に足を置き、後ろのガラスを突き破って、車の中に侵入する。


「おうおうおうおう!!!!!!お前らぁ…!!!!!!」


「は!?え!?だ、誰だあんた!!!?」

俺は、その車を運転するサングラスをかけた奴と、後部座席にいる人間を睨みつけ、「スピード違反だ…!!!」と呟くと、後部座席にいる人間、二人を殴りつけ、車のドアを破って、外に追い出す。


「って!?はぁ!?け、警察!?な、なんで!!!!!」


「俺の板チョコを…!!!!!」

俺は、その板チョコの恨みをぶつけるかの如く、その男の顔面に向かって、右腕で殴り付き、ドアから高速移動する車の外へと追い出した。


「ごはっ!!!!!!!」

車の外からは、男の小さな断末魔。


俺は、車のブレーキを踏み、公道の隅に止めると、先ほどの男たちの転がっている所へと近づいた。


「ったく…お前ら…よくやってくれたじゃねぇか…!!!!!!!」

俺は、義手の右手を回転させながら、倒れている男たちに笑みを浮かべて近付く。


「あ…お、終わった…」

男たちは、その言葉を漏らし、半泣きの顔を浮かべる。


「ただじゃあすまさねぇからな…?」



__________________________________________________


俺は、先程ボコした男たちから巻き上げた金で板チョコに齧り付く。


「うめぇ…板チョコは変わんねぇなぁ。」


「そ、それは良かったです…」


俺はVと一緒に歩く。


「そ、そういえば先の男たちは…どうなされたんですか…?」


「あ?ああ…アイツらか?アイツらは勿論、ボコボコにした後に豚小屋の中に放り込んでやった。現行犯だ。」


「そ、そうなんですね…」


なんだこの女…


まあ、良いか。


俺はそう思いながら、板チョコに齧り付く。


「ああ…そうだ。今の俺は気分が良いんだ。ほら、これやるよ。」

俺は、一つの大きな板を両手でもつVに向かってさっき落とした板チョコを投げた。


すると、Vは、運よく、そのチョコを掴み、「も、もらって良いんですか…?」と目を輝かせた。


「は?落としたチョコだぞ?」


俺が、目を細めて言うと、Vは、「わ、私は…これよりももっと酷いのを食べてきました…それにお菓子なんて…食べられなくて…あ、ありがとうございます!」


そう言うと、付いていた砂を振り払って、板チョコにVは齧り付く。

「うげ〜…お前…よく食えるな…神経どうなってんだよ…」


Vは笑顔になりながら、その落としたチョコを食べた。


「美味しい…!!美味しいです!!!」


まるで何日振りかの食事のように美味しそうな表情で食べるVを見て、俺は少し、つまんねぇな…と思いながら、自分の板チョコにも齧り付いた。

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