第4話 羽矢ちゃんのノート

空は曇り。

そして周りには煙突や木々を使い、電気ではなく、蒸気を主流とした機関を使うカラクリのようなものが蔓延る。


「こ、ここは…?」


「スチームパンクの世界だね!」


「い、いや…そういうことじゃなくて…」


目の前には、一本の木でできた大きな塔のようなものがあった。


「ああ。スチームパンクの世界の起眞市だよ!あれ、起眞タワーね!」


「き、起眞タワー!?あれがか!?」


一本の木のように聳え立つ塔。

そして、その木の先は煙突のように煙をもくもくと出している。


俺はそれを車の窓ガラスから眺めていた。


「お客さん、スチームパンクってのは?」


すると、蒸気の車を動かす運転手が、帽子を被りながら話しかけてきた。

「ん?んーっとね!スチームパンクってのは、すごい煙を使うなーってこと!」


スチームパンク…それは、蒸気機関を主流とする世界のことをまとめて呼ぶ言い方…


そうか…この世界の人は、これが普通だと思っているからスチームパンクを知らないのか…


「そんなことよりも…なかなか進まねぇな……」


「え?」


確かに…車の進みが悪い…

殆ど動いているのか分からないほどに見事に渋滞に呑み込まれてしまったようだ…


「どうする?目的地まで、残りそんなないけど…降りる?」


運転手さんが、そういうと、羽矢は、「それじゃあ、お願いします」と答える


「じゃあ、道に迷わないようにな。ここ、ちょっと間違えるとやばい場所に行っちゃうからよ。」


「うん!わかった!!ありがとね〜!」

そういうと、羽矢は見た事のない札のような物を置き、そして外へと出た。



「毎度〜」

そういう運転手を置いて、俺たちは外へと出る。

外は、少し寒くて、確かに上着を着て道を歩く通行人たちには納得できるな。


「さてと…目的地ってなんだったんだ?」


「えっとね〜ホテル?」


「ホテル?そういえば…羽矢は替えの服とか持ってるのか?」


「え?私?いやぁ〜それが持ってきてないんだよね〜」


「え…い、良いのか?替えの服とか?」


「まあ、別に良いかな〜」


「あ、そうか…」


俺たちはそんな会話をしながら通路を歩く…


それにしても…


「おいおい兄ちゃん!!ちょっと金貸してくれよ!!」


「い、嫌ですよ!!!なんで僕が…」


「いやー昨日のクスリ、最高だったわ〜」


「だろ?金はまた今度くれよ〜」


俺は道の隅にいるそいつらに目を向ける…


「その…なんか治安悪いな…」


「え?ああ…確かにねーなんかちょっとアレだよね…なんというか…物騒的な?」


「そうだな…あれ?そういえば、あのタクシーの運転手…なんかちょっと間違えたらやばいとこに繋がるって言ってなかったっけ?」


「え?あー…そういえば…」


俺は唾を飲み込む。


「もしかして…ここって…」


「す、スラム街…とかか?」


た、確かに、よく見てみると、たまに腰に回転式拳銃リボルバーを持っている奴もいるような…


「なぁ…ここちょっとでて…ってあれ?」

先ほどまで羽矢がいた所…な、なぜかそこには誰も居なかった…


「ま…まじか…」


さ、攫われた……だと?


俺は、周囲を見渡す。


誰もいない…って、あ!!!!!


すぐ近くの路地…

そこの中に暴れる羽矢を連れ去る数人の男の姿!!


「ま、まて!!!!」


俺はそう叫びながら、その路地へと入りこむ。


「あいつら!!!!」


俺は腕時計を左手につけると、腕時計の画面をタッチする。


俺の能力その1ィィィィィィ!!!!!!

インターネットにある物を取り出せる能力ぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!


俺は、腕時計に、手の平を当てると、そこから、ナイフ一本が出てくる。


「ま、まてええええええ!!!!!」


俺は、その逃げる男に向かってナイフを投げつけた。

すると、羽矢を抱えている男には当たらなかったが、その前にいる、男の心臓に突き刺さる。


「は!?こ、殺すのかよ!!!!!」


「殺されたくなけりゃあ置いてけ!!!!!」


「んー!!!んー!!!!!」

俺は倒れた男の心臓からナイフを抜き出すと、俺はナイフを構えた。


「次はやるぞ!!!!!」


「っつ〜!!!!!!やらなきゃ殺されるんだ!!!!!どっちみちな!!!!!」


そう言うと、男は、いきなり止まって、羽矢の首にナイフを突き立てた。


「こ、これでどうだ!!!!!こ、殺されたくなけりゃあ、そのナイフを捨てやがれ!!!!」


俺は、立ち止まり、「クソォ〜」と言うと、ナイフを、手から離した…


「ははは…」

そして、ナイフの柄を、膝で蹴り、男の手元へと突き刺す…


「ぐあ!?!?い、痛でぇ!?!?」


そして、男がナイフを離したタイミングを見逃さず、俺は男の手放したナイフを蹴っぽり、そして、男と羽矢を引き離す。


「俺の能力その2!!!DEADMOED!!!!!フェーズ1!!!」


デッドモード。

それは俺の身体能力を向上させる能力だ。

ちなみに発動中は、目が赤く光るようになる。


「オラァ!!!!!!」


拳をその男の鳩尾に喰らわせる。

拳の強さはフェース1の時は、大体10t程だと聞いている。


そのため、もちろん…


「ぐはぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


男は血飛沫を口から吐き出し、そして10m程飛んで行った後、地面に叩きつけられ、それがトドメになったようで、息絶えた。


「羽矢…大丈夫か?」


俺は、そんな死体なども気にせずに、腰を地面につけた羽矢に向かって手を差し伸べる。


「あ…う、うん…だ…大丈夫だよ…!!!あ、ありがとうね!!!!」


「ん?なんか赤くなってるけど…本当に大丈夫か?」


羽矢はよほど怖かったのか、少し言葉をカタコトにしながら、「え?う、うん!!!本当の本当に大丈夫だよ!!!」と答えた。


「ちょっと…胸は大丈夫じゃなさそうだけど…」


「ん?何か言ったか?」

俺は死体の持ち物を確認していると、後ろから何か、聞こえたので、俺は聞き返すと…「ううん…な、なんでもない」と答える羽矢に「そうか…」と言い返す。


死体のポケットの中には…なんだこれ?紙?


ポケットの中…その中には白い髪の少女の姿。

こ、これって…は、羽矢!?


「な、なあ…これって…」


「え?こ、これ…私の写真!?も、もうこんなところまで…」


「こ、こんな所まで…?て、てか…羽矢…お前って一体何者なんだ…?」


俺は、死体から立ち上がり、羽矢の目を見ながら問いかける…


「わ、私は………ご、ごめんなさい…それが…よく分からなくて…」


「よく分からない…?」


「そう…その…なぜか少し前から記憶がなくて…その…私の名前と…それと、ちょっとばかりの事だったら覚えてるんだけど………」


羽矢は、目を少し下へと動かすと、もじもじしながら言った。

「そ、そうなのか…じゃ、じゃあネロとかの知識は…?ど、どこから?」


「そ、それが…このノートに…」


「え?ノート?」


羽矢は服のポケットからノートを一冊出した。


「これ…なの…」


俺はそのノートを受け取ると、その表紙を見る。


表紙には、「メモ ver.6と書かれている。」

ページを開くと、そこには羽矢のつけている時計の使い方や、羽矢が腰につけている小さな銃の使い方。

ネロの能力や、性格などが記載されていた。


「ネ、ネロの能力って…火の弾を出して周りを焼け野原にする能力…それで起眞市を!!!!!あ、あいつ…!!!!」


「それと…これ…」


「し、死者蘇生…しかし、死者に自我が戻ることは無い…か…」


「そう…どうやら死者を蘇生する際にね…心臓は動くんだけど…植物状態のようになってて…そこに、この能力…」


羽矢は、そう言いながらノートに指さす。

「せ、精神反転…?」


「そうです…精神を入れる…つまり、自我の無い人に精神を入れ込み、他の人の精神をその体に入れることによって心を宿す…そういう感じ…」


「は…?じゃ、じゃあ…Vの精神は…?すでに消滅しているってことか…?せ、洗脳…じゃなかったってことかよ…?」


「違う!!!!Vちゃんの精神はどこかに存在してる!!!!絶対にどこかに!!!!!!」


「ど、何処かって…そんな…なんでそんなあやふやなんだよ…」


「あ、あやふやじゃないよ!!!!!絶対にどこかに存在してるって!!!!わかるもん!!!!!!!」


「お、お前は…Vに会ったことあるのかよ…」


俺がそう言うと、羽矢は、少し視点を下げる。

「い、いや…無いけど…で、でも!!!!絶対にいるもん!!!わかるもん!!!!!」


「なんで…?」


「その…なんというか…感じるんだよ…Vちゃんの精神はまだ生きてるって…何処かで感じるの…」


「そ、そんなこと…信じられねぇよ…」


しかし、俺はそう言いながら、次のページを捲ると、そこには、ノートの一行目に。

「Vは生きている」とだけ書かれたページにたどり着いた。


「は…な、なにこれ…」


俺は不意に溢れ出た。


「ね?」と言った風に、羽矢は俺を覗き込む。


俺はノートを勢いよく閉じ、「こ、こんなノートに何が頼れる!!!」と大きな声で言う。


「でも、ユミー。このノート見て、口が笑ってるよ?」


「え?」

俺は顔を触ってみると、ちょっとだけ、口が曲がっている…


「は…はは…まさかね…」

俺はそういうと、路地から出るために明るい方へと向かっていく。


「え?ど、何処いくの?」


「い、いや…ホテルだよ…行くんだろ?」

俺がそう言うと、羽矢は、「あ、そっか」とつぶやいて、俺の背中を追い始める。


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