第2話 謎の少女AとA
漆黒のスーツを着て、俺は棺桶を覗く。
棺桶の中にはまだVが眠っている。
だが、Vの瞳は今後もう開くことはない。
それは、わかりきったことだ。
心臓の鼓動はとっくに止まっているし、今後動くこともない。
MERでも、死者蘇生技術はまだ開発していないらしく、Vを蘇生させる方法は存在していない。
俺が受けたのは、あくまでも、AIを移植するだけで、蘇生ではないのだ。
「なんで…!!!なんで…!!!!!」
俺は出しても出しても治らない涙をVの棺桶の前で流す。
ああ…なんで目が開かない…
一昨日まで…一昨日まで!!!!!
「ゆ、ユミーさん…そろそろ…」
すると、Dが俺の肩を掴んだ。
俺は、頬を濡らしながら、棺桶の中に入っているVから離れる。
「なんで俺は…!!!!なんで俺は…守れなかったんだ…!!!!!!守れただろ……!!!!!ぐあああ……!!!!!!!」
どうしても、自分という奴が気に食わない。
どうしても、俺という存在が生きていて欲しくない。
「くそぉ…!!!!!!!クソがぁぁぁぁ!!!!!!!!ぐっ…ああっ…………うわぁっ…!!!!!!!!!うわはああああああああ!!!!!!!!!」
子供のように、わがままを言うように泣く。
それでもVの命が帰ってくることはない。
なんで…
心でそう呟くだけ。
心の中の何かが壊れ始めた。
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涙が枯れた頃、俺は、銀の皿の上に並べられた白い石のように柔らかいものを木箱の中に敷き詰める。
焦げ臭い匂いと、喪失感に包まれた俺は、長い菜箸のようなものを使い、Vを小さな木箱に閉じ込める。
「ユミーさんは…いえ…なんでもないです…」
正面で本体の肉体で立つD。
そいつが、何かを言いかけたが、その言葉を飲み込むのを見て、俺は、黙ったままで居る。
Dは骨を俺に渡すと、俺はその骨を木箱の中に入れる。
多分、次が最後になるだろう…
Dはその、喉仏の骨を持ち上げると、「これで…最後です…」と言いながら、Vを渡した。
「最後に入れる喉仏はその人に一番近い人がいるんじゃないのか…?」
俺は目を赤くしながら、Dに質問するが、Dは、真顔を崩して苦しい顔をした。
「僕は…いえ…私は、姉ちゃんにあんまり会えることができなかったので…家族の私よりも…恋人のユミーさんの方がお似合いですよ…こんなことなら、話しておけばよかったですね…」
そういうと、喉仏を入れたお骨入れを、葬式屋の人たちに渡した。
「あーあ…なんで話さなかったんだろー…」
Dはその場に蹲る。
今気づいたが、Dはなぜかセーラー服を着ていた。
Dって女子…だったのか…?
だが、そんなことを聞く気にもなれず、俺は言葉を飲み込む。
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葬式も全て終わり、全員が帰った後、俺は、一人だけで、ある丘の上へと来ていた。
ここでは、中央区を見下ろせて、少し前に隆一に教わったスポットだった。
確かに綺麗だ。
でも…
「Vが居たらよかったのに…」
俺はそう考えると、すぐに、涙が溢れ出てきてしまう…
ずっと考えてしまう…
なんでよりにもよって殺されてしまうのが、Vなのか…
なぜ、 あんな思いをさせてしまうのか…
「あの女…」
その時、俺の中に、ナイフを持ち、そしてVに突き刺す女の姿が脳裏に浮かぶ。
結局…あの女はなんだったんだ…?
でも、あの女がVを殺した。
そう考えると、腑が煮えかえる…なんてレベルじゃ済まされないほどの恐ろしい殺意が生まれてくる…
「あの女…あの女が!!!!!!」
そうだ…Vにナイフを刺し、殺したあの女が!!!!あの女が悪いんだ!!!全て!!!!!
俺は、拳を握りめると、いつの間にか、血が流れていることに気づいた。
「あ…ッつ!!!!!ふぅ…調査をしなければな…」
あの女が何者なのか、全てを探るべく、動かなければ…!!!!
それは、俺がユミーだからなのか、それとも、電脳特殊捜査隊第六課だからなのか…それはわからない…
でも!!!!
今すぐ、俺はあの女を調べ…そして復讐する…そうしなければいけない気がした。
「そうと決まれば早速調査を…」
と、俺が踵を返すと、座っていたベンチの後ろ、そこに、ショートヘアーの闇のように黒い黒上の少女が居た。
その少女は笑顔で、そこに立っていて、俺に優しい目を向けている。
その顔には見覚えがある。
俺の愛した人の笑顔。
俺の救えなかった笑顔。
「な、なんでここに…」
不意に言葉が漏れた。
「それはもう…ユミーさんに会いたくて…」
その声は、完全に俺の愛した人…Vそのものだった…
でも…何か違う…
「お、お前…誰だ?」
そして不意にでたその言葉…
しかし、Vは…いや、Vっぽそうな少女は、瞳を大きく開けた。
どうやら図星のようだ。
「わかるんだね…私が違うことくらい…」
Vの見た目をした少女はそう呟くが、少女は何も説明する気がないのか、「正解!」と呟きながら、俺に近寄ってくる。
そして両手を広げると、俺の体を包むように抱きしめてくれた。
「でも、この匂い…覚えているでしょ?」
「え…?た、確かに…」
Vのような女が纏うその空気。
そこには甘い香りがしていた。
それは、優しく抱擁する匂い。
いつも嗅いでいて、昔からの付き合いの匂いだった。
でも…
「な、なんか違うな…」
やはり違う…
なんで、だろうか、こいつには…
こいつには…少し…見覚えがあるような…
この、憎しみに溢れるような感情は…
「あ、危ない!!!!!」
次の瞬間、俺の耳に届いたのは、別の少女の声。
そして、抱かれていた俺は急にその少女から引き剥がされる。
ゴオオオオオオオオオオン!!!!!!!!
そして、丘の下。
その麓の町が一瞬にして火の渦に飲み込まれた。
次に瞳の中に映ったのは、火の海となり、地獄絵図となった起眞市の姿。
夕日と、そして、見える範囲全てが火に包まれた町。
その目に映ったのは全て赤色に染まっていた。
そして、Vの顔を貼り付けた女と、銀色の髪の女子。
その二人が睨み合っていた。
「え?は?何これ?」
俺が、汗を額から垂らして呟くと、Vみたいな少女は「あーあ。」とつぶやいて、ニヤリと笑う。
「まあ、いいや、ここから始めれば」
すると、糸でつられているのかと勘違いするように、ふわりとその少女は10mほど浮き上がる。
「あなたは絶対に神なんてなれない!!!!
俺とVのような少女を引き剥がした銀髪の少女が、Vのような少女を睨んだ。
俺は訳もわからず、「お、お前らなんなんだ!?」と叫ぶ。
「あなたに止められるの?
「やるしかないんですよ!!!!希望が0に等しくても!!!!!」
そう言うと、刃矢と呼ばれた銀髪の少女は、セーラー服のような物の中から拳銃を取り出した。
「は!?ど、どう言うことだよ!!!!」
そして、バンバン!!!!と弾丸を放つ。
俺の質問にお構いなしに。
何発もなる銃声の背後で、「きゃああああああ!!!!!」という悲鳴がそこらじゅうから聞こえた。
そして、町の一部から大きな爆発が起こる。
まるでこれから第三次世界大戦が始まるかのようにその町は赤く染まっていた。
「いだっ!!!!!」
すると、俺へと銀髪の少女が、投げ出された。
「ぐはっ!!!!」
「ま、まじで…!!お前らなんなんだよ!!!!起眞市をこんなにしやがって!!!!」
俺が銀髪の少女に問うが、少女は、「仕方ない…」と呟くと、俺の手を握った。
「は!?」
「あなた、ユミーさんだよね!?」
「は…?そうだけど…」
「それじゃあ、これしかないですね…」
「は!?ど、ういう___」
「ディメンショントランスファー!!!!!!」
次の瞬間、俺はインターネットに入り込むときのように光を纏った。
すると、あの地獄が目の前から消え去った…
「ふーん…逃げちゃったな〜まあ、良いけどね!さてと…始めようかな!新たな世界を!」
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