第1話 始まり殺人
「いやー!今日も平和だなぁー」
ザーザーと雨が降る中、少しだけ足元の制服が濡れているが、そんな事も気にせず、雨の中香る隣のVの匂いに夢中になる。
良い匂い…
「そんなに…良い匂い…ですか?」
俺はそこでハッとさせられた。
俺の隣にいる彼女。
つまり恋人は心の声が読めることを…
V。
その歪で違和感しかない名前。
その名前をもつ彼女の能力は読心術。
文字通り、相手の心を読み取れる能力な訳だが、この能力は、決して自然発生した能力ではない。
研究所MERという場所で、Vは昔、脳を弄り回されていたらしく、第二次世界大戦時に設立された研究所によって俺らは能力を得たのだ。
ちなみに、俺は研究所MERによって生み出された超強力の!!!
生物兵器。
ある子供の体を媒体としてその子供の脳にAIをダウンロードする。
そしてできた兵器が、俺、ユミーというわけだ。
そして、俺にはVと同じように特別な異能力がある。
それは、DEADMOEDという戦闘モードだ。
この戦闘モードになると、一時的な身体能力、回復力を得られる。
「あッ……ああ。凄く良い匂いがするよ。なんというかさ、お淑やかな感じがするな!」
なんでもないと言おうと思ったが、Vの前では無駄なことに気づき、俺は少し「良い匂い」とか言う男子はキモいような気がしたが、正直な感想を口から言う。
別に考えてるだけでも、彼女…Vなら、わからないわけでもないだろうけど。
「あ…ありがとうございます…」
少しだけ耳を赤くすると、Vはショートヘアーの髪を指で巻き付けるようにしていじる。
「とっても可愛いな!!」
俺の可愛いという言葉に、頬を赤くする。
それまでに正直なその顔は、とても可愛げがあり、俺の心が弾んだ。
今日も良い日になりそうだ!
俺はそう思いながら、Vと結んだ手を意識して、学校へと向かう。
「へ〜ユミーも妻が居たとはね〜」
昼休み…
食堂の中で公売のバイトの終わった俺の相棒、フィクサーは食堂のど真ん中でまかないの焼きそばパンに齧り付いた。
「ま、まだ妻じゃねぇよ…!!まあ…未来には…な…」
俺は自分でもわかる程度に頬が熱くなっていたことを少し手で隠すように、顔を机に伏せた。
顔を伏せたせいで、やっぱり少し熱くなり、俺は、少しだけ我慢する。
「だいぶベタ惚れなんだね。僕はそんな時期…ないか。にしても、ユミーって研究で生まれたAI…だったんだよね?」
「まあな…もしかして…なんで感情があるの?とか聞くつもりか?」
「ええ…?いいや…そういうわけじゃなくてさ、AIでも恋ってするんだなーって」
俺は、伏せていた顔を上げて、その赤髪のフィクサーに眉を顰めた
「あのな!!俺はMERの最高傑作の生物兵器なんだぞ?感情くらい理解できて当然のスペックなんだよ!」
「へ〜そうなんだね〜」
フィクサーはどこか気にしていない様子で、焼きそばパンを食べ、ん〜!!!と声を漏らす。
「こいつ…!!」
全く…これだから最近の老害は…
フィクサーはこう見えても84のジジイ。
しかしながら、不老の薬を投与されることで、つい先日、永遠の寿命を手に入れた。
「はあ…お前なぁ…」
「きゃあああああ!!!!!!!」
と、俺がフィクサーに言葉を言いかけた瞬間、どこからともなく悲鳴が聞こえた。
「こんな悲鳴…ヒーローを呼んでいるとしか思えないな!!!」
俺は、そう思いつつ、その悲鳴の先…
校舎の外のグラウンドへと、向かった。
グラウンドには首から銀の輪っかのような物をチェーンで通し、首にかけ、そして、両手はポケットの中に入れて金髪姿の何人かの不良のようなものが堂々と立っていた。
そしてその不良の近くには、腰を地面につけた女子生徒とそしてそれを取り囲む、他の不良たち。
「おい!!!!」
俺はその不良たちに厳しい声で声を掛ける。
まるで他の不良が不良に喧嘩をするように、拳をパキっと鳴らしながら、俺は不良に近ずく。
「ああん??お前誰だ…?」
そう言いながら、腰をあえて低くした不良Aが俺を下から覗く。
「俺はユミーだ!まあ、悲鳴が聞こえたのでヒーローが来ただけだ。それだけさ。」
「じゃ、戦闘はこいつが全部やってくれるから。じゃ、あとはよろ〜」
そう言いながらフィクサーは、腰を地面につけた女子生徒の腕を引くと、すぐに校舎の中へと連れ込んでいった。
まさか…そんな恋があるわけないよな…
俺が首を横に振ると、「なんだお前?舐めてんのか?」と不良Aが語り変えた。
「え?いや?まさかぁ…ww」
と次の瞬間、その不良Aは俺に対して、拳を降りあげる。
そして、俺はそれに動じることなく、真正面からその拳に応じた。
「ぶファ!!!!!」
と、俺はわざと当たって、奇声を上げた。フリをした。
「や…やったな…!!!!!親父にも殴られたことないのに!!!!!」
ちなみに俺に親父は居ない。
「ッ!?」
そして、多分、その不良Aは気づいたのだろう。
俺が顔面に食らったにも関わらず、血どころか石の柱のようにびくとも動かなかったことに。
「何をしている。早くぶちのめせ。」
番長のような存在なのか、その不良が不良Aを咎めると、不良Aは、「い、今すぐにでも弱音を吐かせてやりますよ!!!!」と自信気に言い放った。
キーンコーンカーンコーン!
「あ…やべ!!!昼休みあと5分じゃん!!!!手短に済ませるか…!!!」
次の瞬間、俺は赤い瞳を輝かせる。
「DEADMOEDフェーズ4!!!!」
俺は本来、普通の人間には使ってはいけないフェーズにまで一気に上げると、まず不良Aの鳩尾に向かって寸止めで殴る。
「ぐああああああ!!!!!!!!!」
ちなみに、速度は音速を超えているので、不良Aは20mほど吹っ飛んだ。
あ…やっべ
グラウンドには多くの観衆…
ちょっとやりすぎたかなぁ…
俺はめちゃくちゃな罪悪感に苛まれつつも、不良のボスっぽいやつの方向へと向いた。
「な…なんだと…!?」
「あー…ちょっとここら辺で引いてくれると俺的にはすごい助かるかなぁ…」
すると不良は敵意マシマシの瞳でこちらを睨むと、ポケットに手を突っ込む。
「あいつがヤられて…黙ってられるかよ!!!!!」
なんだこの良いやつっぽい不良…
不良はポケットから一つの透明な飴玉のような物を出すと、そのパッケージを破り、飴を指で摘む。
ん?あれ…
捨てたパッケージ。
そこには、MERと書かれた透明なパッケージがあった…
お前…まさか!!!!!
「おい!!!その飴…!!!どこで!!!!!」
「はぁん…!?これ、そんなに高価な物なのかぁ!?じゃあ、やるしかねぇなぁ!!!!!」
「こんな餓鬼に託しやがって!!!!!」
俺は、拳を振り上げた。
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「って…誰もいない…」
私…Vは教室へと入ると、その誰も居ないその部屋に不信感を覚えた。
もうすでに授業が始まる5分前は切っている。
なので、本当は誰か一人は居ないといけないと思うんだけど…
「な、なんで誰もいないんですか…」
本当に不思議なくらい…
というか、教科が他の教科にでもすり替わっているのか…
「ほんと…誰も居ないね〜」
と、教室の中に、私以外の声が響いた。
「え…?」
私はその声の出た元へと視線を向けると、そこにはキラキラと輝くような瞳を私に向け、にっこり笑顔を作ったその美少女。
「ど、どちら様ですか…?」
「私…?私はねー!まあ、いうとしたら〜…神様?」
その美少女は自分の指を頬に当てながら、何かを思い出すようにしてその言葉を捻った。
しかし、その神様という単語…
その意味が、私にはわからなかった…
「か、神様…?」
「そう。神様!」
聞き返しても、多分、答える気がないのか、ただ単に答えを返すだけ。
これ…答えてくれないやつですね…
「は、はぁ…そうですか…それよりも…クラスのみんなって___」
「私、神様になりたいって言ったでしょ?それにはさ、どうしても…こうするしかないんだよね〜」
次の瞬間、腹部に鉄の刃が刺さった。
「え…?」
そして、私の口から吐き出される大量の血液。
お腹から体全体へと走る激痛。
位置的に、小腸辺りが多分傷ついている。
なんで…?どうして…?
私は必死にこの目の前の少女の心を読もうとしたが…
そこには何もなかった。
まるで植物のように遺志など無いように、何も考えずに行動している。
「ま…って……」
私は力が抜け、その場に倒れ込んだ。
そして、少女は私に刺さったナイフを握ると、そのナイフを、斜めにして、右肩に向かって傾きをつけながら、肌を切り裂く。
「がは!!!!!!」
噴水のように吹き上がる血。
教室の床を鮮血で染め上げると、その少女は、「んふふ!」と笑った。
「な…んで…!!!」
私は息を絶え絶えにしてその言葉を吐き出す。
痛い…
痛い…痛い…痛い…痛い痛い痛い痛い!!!!!!!
どんどんと体に染みる激痛は、悶えたいほどに苦しい。
しかし、もうそんなことをする時間までもない。
「それでなぁ…Vがこう言ったんだよ!!ユミーさんはそういうところがかっこいいのに〜ってな!」
とここで階段の方から上がってくるユミーさんの声がした…
「ゆ…みー…さん…!!」
私は必死にその名前を呼ぶと、何かに気付いたのかユミーさんは急いで、教室の扉を開けた。
「え…は…!?ぶ、V!!!!!!!」
「あれれ…?まあまあ強い能力だったはずだったんだけど…まあ良いや…!」
そういうと、女は「じゃあね〜」と言いながら、光の粒子へと変わった。
その光の粒子は、数秒も経たない内に、消えていく。
そして残ったのは、大きな傷を負い、教室の真ん中で倒れるVだけ。
俺は、Vに駆け寄った。
が、しかし
「ユミー………さ……ん…す………き…………」という言葉を残して、目の光を失う。
「おい…!!!冗談だよな…………!!!ぐぁ…………待ってくれよ…………待って…………まだ……何もできてねぇじゃねぇか…………!!!!!V………ぐぁぁ…V!!!!!!!クソがぁ…!!!!!!があああああああ!!!!!!!!!!」
肌の冷たくなったVを抱き抱えながら、涙を流す、離せばすぐに落ちてしまう。
だから、俺は…ずっと掴んでいたかった…
それだけなのに…
どうして…!!!!!
すぐ側で、幸せが崩れる。
なぜこんなことにならないと行けないのか
さっきまであんなに楽しく話してたのに…
まだ、二人だけでデートもしてない…
まだ…まだ…!!!!!
遅かった。
「うあああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
誰もいない教室…廊下にはフィクサーが居たが、俺の鳴き声が校舎の中に響き渡った。
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