第7話 人生ってシナリオは強制?
ここからチュートリアル第二ステージ。
レイモンド戦を入れると三回目のチュートリアル。
『魔法を使ってみよう』という字幕がゲームであれば画面に出ている筈だ。
「さっきのはキャラの配列をしてみよう…だったっけ」
「きゃら?意味の分からないこと言ってないで、アンタも戦いなさい」
「分かってるって。でも…」
森から飛び出してきたのは定番コウモりん五体とイノブータン三体だ。
イノブータンは突進というスキルを持っていて、結構ダメージが通るから、油断は禁物だ。
「んーでも、このチュートリアルの趣旨って…」
レイは先ずアルフレドの様子を見て、次に嫌われていると分かっているフィーネを見つめた。
顔を見たら睨まれるから、その少し下…、流石はメインヒロインの一人。
なんと麗しい曲線美だ。ドラステワゴンがVR化しなかったのが悔やまれる。
そして、その胸元がさっと隠された。
「こんな時にどこ見てるのよ‼」
「ち、違うって。俺が見てたのはフィーネを試す場所でいう意味で…、…あれ?」
「なな…、なんですって?あれ?じゃないのよ!ほんと、信じられないド屑ね。もう村の外だし、いつもみたいにはいかないんだから。私、さっきの戦いで何かを掴んだみたいなの。それをアンタに試したっていいのよ?」
「ひ…」
「おいおい、二人とも。戦う前に喧嘩は止めてくれ」
アルフレドは呆れて頭を抱えた。
レイの言い方は不味かったが、魔法剣士フィーネを試すチュートリアルというのは本当のこと。
アルフレドをチラッと見たのは、画面上ではフィーネがライトアップされている筈だからだ。
でも、俺はパーティになっちゃいけない。うー、だけど。フィーネが新たに覚えたのは
これ以上怒らせると、焼きイノブータンが出来る前に、焼きレイモンドが出来上がってしまう。
「じょ、冗談だって!戦うって‼行くぞ、モヤモヤ‼」
仕方ないから覚えたての魔法を使う。
因みに、レイモンド専用魔法モヤモヤの効果を、新島礼はゲームプレイで実感したことがない。
95%の確率で攻撃を受けるから、ターンの無駄遣いでしかない。
ただ…
「え…、これって俺がやったのか?目の前がちょっとモヤモヤしてる…」
大して効果がないとしても、れっきとした魔法である。
自分の意志で、少しだけモヤモヤな何かが生まれたんだから、新島礼目線では十分すぎる感動だった。
そして、こんな魔法でも喜んでくれる青年が近くにいる。
「お前、魔法が使えたのか‼…どんな魔法かよく分からないけど、凄いじゃないか」
「そ、それほどでも…」
う…、このアルフレドは本当に性格も良い。
レイモンドはマジで使えねぇ。こんな魔法使うかよ、なんて言ってた俺がプレイしてないことは確かだ。
って、それはさて置き。今しかできないことをやるべきだ。
ヒーローとヒロインと共闘できるのだ。
それに勇者アルフレドも応援してくれるから、倒れてもきっと助けてくれる。
「MP切れするまで使ってみる。モヤモヤ!モヤモヤ!モヤモヤ!」
「成程!連続して使うと見えてくるな。視認性を狂わす魔法。なかなか使えそうなだ」
「モヤモヤしてんじゃないわよ。私だって‼出でよ炎、焼きコウモリになっちゃえ、
レイがモヤモヤ、モヤモヤしている中、フィーネも対抗して覚えたての魔法を唱える。
そもそも、彼女がパイロを使うためのチュートリアルバトルだから、難なくコウモりんの一体が焼け落ちた。
「フィーネもやるな。俺もモヤモヤしていられないな」
モヤモヤではなく、うずうずしていたアルフレドも参加して、魔物討伐が始まる。
ちょっ…とだけ、立ち眩みが。今、何回魔法を唱えたっけ…。えっと…四回か
モヤモヤの消費MPは2。
レイモンドの最大MPはレベルが上がっている。
あ、そか。MPが0でも行動できるゲームだから、動けるのか。これ、自分のレベルを測るのに使えるかも。
他に必要なのことは……
「レイ!大丈夫か?」
「だ、大丈夫…。アルフレドたちはそっちを頼む!」
今回も飛ぶ魔物を押し付ける。
コウモりんの数が多いから、今回は時間が掛かりそうだった。
その間にレイは出来る限りのことを試したい。
「アルフレド、レイに甘すぎ。ぼーっとしてないで戦いなさい」
「分かってるって。思っていた以上にゲーム。思っていたよりもゲームじゃない。…あと、何を確かめるべきだ?」
「ちょっと!確かめるって」
「何でもない。ってか、そっちは大丈夫?」
「数が多いだけで問題ない。こんなに連携できるなんて、な」
ただ、このアルフレドの言葉に、レイの両肩が飛び跳ねた。
この世界で生きるための実験だけど、ちゃっかり正規ルートを辿っている。
その先には、あのイベントが待っている。
「と、とにかく飛んでるのは頼んだぞ」
レイが立ち向かうのは今回も飛んていない魔物。
イノブータンは勿論、雑魚敵だ。
でも、20%の確率で炸裂する突進スキルを持つ。
「痛恨の一撃」としてカウントされて、防御を突き抜ける厄介な攻撃だ。
「ブヒィィィ!」
「わっ!…って、何処に向かってんだ?いや、これって…」
一体目をどうにか躱す。二体目は難なく躱せた。
もしかして…
正規ルートを辿ってはならないと思った矢先の興味深い出来事だった。
5%で当たらないモヤモヤが一発目から発動した。
あり得なくはないが、連続となれば話が変わってくる。
モヤモヤを四度連発したのが効いてる?
イノブータンの突撃が、0.95x0.95x0.95x0.95x0.2x100%になってる?
そこまで掛け算したら、突進が当たる確率は17%以下。
五回に一回が六回に一回以下。
イノブータンは三体。だったら三倍にして…、なんてのはどうでも良いことだ。
「俺って、さっき四回連続攻撃してない?もしかして…ってうわっ」
大事なことに気づいた瞬間、背中からドン!と衝撃が走る。
「ブヒ、ブルブルブル…」
「痛…。でも、これは通常攻撃だな」
三体目は突進スキルを使ってこなかった。
そうなると、四連モヤモヤも大したデバフにはならない。
ゲームだけどゲームじゃない?
ゲームじゃないけどゲーム?
次々に面白いことが起きるから、ゲーマーとして本気になってしまう。
「っていうか、イノブータン三体、俺だけを狙ってない?あぁ、そういうゲームだったっけ…」
腹が立つ顔をしてるせいでヘイトを買いやすいんです。レイモンドのムカつき顔は魔物にも通用する。一体、どんな顔してるんですかね、と公式自らがゲームショーで明かした隠し要素だ。
それで最初の二体がいきなり痛恨スキル?…シャレになってないんだけど‼
「俺ばかり狙って!そんなに俺の顔はムカつくってのかよ!」
「そうよ!性根がにじみ出てるんじゃない?」
「あぁ、そういうことか…、って、フィーネには聞いてない!」
「はぁ、仕方ないわね。アルフレド、私、アイツの援護に回るわ。流石に魔物の数が多いし」
この会話の流れで、フィーネは渋々レイが受け持つ前衛右側に移動した。
ただ、この流れは不味い。
「いや、いいって!」
「アンタの為じゃないの」
たかがチュートリアルでそんなに不味い?
勿論不味い。設定上、アルフレドは魔物討伐に何度も出かけていて、フィーネは彼を支える為に同じく鍛錬に励んでいた。
だが、レイモンドはそんな努力をしていない。それが初期ステータスにも表れている。
それだけじゃない。そもそも俺はレイモンド19歳分の記憶を引き継いでいない。
だから今、ヒーラーは落とせない。彼女が回復してくれると信じて、チュートリアルを命がけでやるべきなのだ。
「とにかく、俺は…。いや、待てよ」
このゲームのようでゲームでない。リアルのようでリアルじゃない世界なら…
「案外…使える!アルフレド、フィーネを守ってくれ!」
「も、勿論そのつもりだ。って、レイ‼」
パーティを抜ければ安全。
でも、世界が滅んでは意味がない。
「来いよ、イノブータンども。纏めて相手してやんよ」
「ブブヒィィィイイイイイ‼」
また、一人で暴走。
だけど、チュートリアルなんだから何でもやるべき。
そもそも、魔法を使ってみようは達成されたんだから、残りの時間は今後の予習に充てるべき。
「ちょっと。また、一人で」
ドラステワゴンは歩いていると突然敵と遭遇する。所謂ランダムエンカウント。
でも、チュートリアルを含め、イベントバトルは例外だ。
しかも、何が来るかは頭に入っている。
「俺は俺の為に戦っているから気にするな。ま、回復は頼みたいけど」
だからレイは突っ込む。チュートリアルで出現するイノブータンが引くほど。
そしてありえない発見をすることになる。
先ほどの机上の確率なんてなかったかのように、レイを捉え切れていない。
敵が纏まっていたお陰で範囲魔法を一箇所に集中できたからかもしれない。
驚き戸惑っているのかもしれない。
俺の知ってるゲームバランスじゃない。イージーモード…、なんてなかったし
一匹目は明後日の方向に突進して木に激突、そこで頸動脈辺りを斬ったら終わった。
二匹目は半ば混乱した様子で通常攻撃、牙で突いてきたが、動きが緩慢で簡単に打ち倒せた。
「確率とか、乱数調整ってレベルじゃない。どっちかというとリアルより。ある意味、ちょっとキツ…、痛ってぇ‼‼」
だが、三体目は違った。
いや、イノブターンの動きが違っていたというよりは、レイの動きが止まっていた。
さっきのスラドンとの戦いと違って、狂暴なイノシシにしか見えない魔物との戦いだから、命を奪ったという実感がある。
血が噴き出る様に怖気付いてしまった。
そして、そこを狙われた。相手だって命がけなのだ。
その『痛恨の一撃』が横っ腹に突き刺さる。
「何しやがる、こん畜生がよ‼」
反射的にぶん殴ろうとしたが、レイモンドの一張羅改め、レイの一張羅のせいで最後のイノブータンには当たらない。
くそ、焦ったか!今のでHPの半分以上持っていかれた筈だ。
リアルとゲームを混同したからのミス。
ただ、これも発見の一つに繋がる。
新島礼であれば死んでいたかもしれない。
死なないにしても、背骨が折れて肋骨が刺さり、内臓が損傷して、再起不能に陥っていた。
これがHPの概念。死ぬ直前まで動けるってことか。
「ゲームだったことに感謝…だな。18歳以上推奨だから、甘く見ない方がいいけど」
そんな中、頼りになる仲間の声が戦場に響き渡った。
「フィーネ、レイの回復を頼む。」
「分かったわ。一人で突っ込みすぎよ、レイ。ほら、ケイミル‼」
三回目の癒しの魔法。レイの体から緑色の光が灯った。
痛みが消えるどころか、歪んだ肋骨さえもミシミシと音を立てながら整復されていく。
そしてやっぱり…
「めっちゃ気持ちいいぜ、フィーネ。やっぱ、お前は最高だな」
レイのサムズアップにフィーネはプイッと顔を背けた。
それでレイはショックを受ける。
反射的に気持ち悪いことを言ってしまった。…いやいや、そんなことはない。俺は嫌われていた方が良いんだ。
「てやぁ‼」
その奥でアルフレドがチュートリアルモンスターの最後の一体、レイが取り逃したイノブータンを仕留めていた。
「フィーネ、レイは無事か?」
「気持ち悪いくらいに無事ね」
「そうか。レイ、頼むから一人で突っ走らないでくれ。心臓に悪い」
「あ、あぁ…」
悪い、アルフレド。
このまま行けば俺は死ぬ。捻じ曲げて未来を変えなければ殺される。
こうやって自分の意志で色々試さないといけないんだ。
俺はこのゲームを知り尽くしてる。バグが存在してることも知ってる。
だから…
「レイ?いつまで私の手を握ってるのかしら?」
「な…。つい無意識に…」
ゲームであってゲームでない。
仲間であって、仲間じゃない。
こんな感じで単独行動を取っていれば、と考えていた時。
フィーネの回復で蘇ってきた脳みそが、余計なことを思い出してしまう。
『仲間が傷ついた時は、回復魔法を使いましょう』
そう。今回はフィーネキャラのお試しチュートリアル。
「…そういうこと…か。ゲームの流れには逆らえな…って、冷たっ‼」
「何を言っているのか知らないけど、全身血まみれだから洗ってあげるわ。水魔法もMPを消費するんだから、冷たくても我慢して」
頭から冷や水を掛けられて、頭に昇った血も降りてくる。
いや、まだ始まったばかりだ。
もっと先をイメージしろ。離脱のタイミングはいくらでもある筈だ。
「ありがとう、フィーネ。えっと…、確かにこの先に小休憩できるとこがある。だから、フィーネも一緒にそこで休憩…」
パン‼
「痛っ!」
「もう、村長権限は使えないんだからね‼一緒に休憩しようとか、ほんっと気持ち悪い‼」
そしてどうやら、小休憩ポイントの概念は常識ではないらしい。
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