1−2 天使の子
「この子はっ」
僕の顔は今,限界まで青ざめている。なんか,温度も低くなってきてる気もするし!(多分気のせい…)
僕の顔が青かったりするのは,川に流れている女の子を見つけたから。
いや,まさかの人⁉︎
財布とか,そういうものだと思ってたのに人って…(財布も結構やばいけど…)
いや…落ち着け…落ち着くんだヒカリ…
自分を落ち着けながら,僕は女の子に目をやった…
サラサラの紺色の髪。水に煽られている黒いスカート。驚くほど肌が白くて,まるでおとぎ話の白雪姫みたいな…とても綺麗な子。その子の服装は,ちょっと変わっていて,黒っぽい…いや。紺色のTシャツ,スカート。それから,真っ黒なマントを星型のブローチで止めている。
この町ではみない顔だな。
起きる気配もない…っていうか,いつからここに浮いているんだ?昨日はいなかったよね?いや。昨日の時点でいたなら,別の子が見つけてるはず。
ってことは,今日の朝か?
僕はとりあえず,その子を水から引きあげることにした。
女の子を持ち上げる。
「あれっ?」
その子の体が,めちゃくちゃ軽い。たまに買い物で持つ5キロのお米くらいだ。
なんでこんなに軽いんだ?
ドサっと平らな岩の上に下ろす。
その横に腰掛けた。
そしておんなのこの体を軽く揺さぶった。
「うぅん」
すると,女の子が声をあげた。
僕はじっと女の子を見つめる。
瞼がそっと開いていく。
澄んだ朝方色の目。つい見惚れてしまう。
女の子はゆっくりと起き上がる。
その子は濡れてしまった自分の髪の毛をギュッとしぼって頭の上で結んだ。
「あっ」
僕に気がついたのか,僕を見て瞳をパチクリ。
こちらをじっと見つめてから,口を開いた。
「あなたが…助けてくれたの?」
凛とした花みたいな綺麗で澄んだ声色。
よく通って,合唱とかで活躍してそうな声だ。
「え?あ…う,うん」
少し戸惑いながらも,質問に答えると,女の子はフワッと笑った。優しそうな,お花畑に生えている花みたいな笑顔。
これを見て,僕も少し緊張が解けた。
⭐︎⭐︎⭐︎
「僕は藤堂ヒカリ。12歳。君は?」
僕は女の子に自己紹介を促す。
女の子は頷いて僕と目を合わせた。
「ボクは…
女の子…黄花は僕の目を見てしゃべった。
こちらも黄花の目を見返す。嘘はついていないような純粋な目。
グッとひきこまれてしまいそうだ
天使っていうのは嘘ではないらしい。
黄花のこの目を見て,信じたい。けど,天使って…本当にいるのか?
それもなんで地上に…
「君…ヒカリが知らないだけで,天空にはみんなの希望を見る神様がいるんだよ」
黄花はそう言いながら,自分のネックレスを僕に見せてくる…
不思議な模様の入った石…なんだろう…何か,感じるものもあるけど…
その前に聞きたいのは…
「神様?」
1番気になったことを,おうむ返しで問い返した僕に,黄花は頷く。
そして山や川を指差した。
「あなたも信じているでしょう?山や,川の神のこと…そして,今日は何かがおかしいと…」
黄花の言葉に,僕は迷って迷ったけど頷いた。
確かに今日はおかしかった。
何かが荒れている…それも今も…
天気はとってもいいのに…
僕が頷いたのを見て,黄花はうつむきながら話した。
「今,さっき話した天空にいる希望の神様が,同じく天空にいる闇の神様に囚われてしまったんだ。このままじゃ,希望の神様は闇に染められて,この世界から全ての希望が絶望に変わってしまう」
「希望が…消える…!?」
黄花は頷く。
そうか…だから今日は,自然が騒いでいたのか…
この山や川から見える人々が,どんどん希望を失っていったから。
それに,希望の神様っていう仲間が捕まっちゃったんだもんな。だから山の神様も,川の神様も焦ってたんだ。
「希望を戻すには,何すればいいの?」
希望が消えてしまうなんて,そんなのごめんだ。
もう,みんなの笑顔が見えなくなってしまうなんて。
僕は可能性を信じて,黄花に問う。
すると,顔を下げていた黄花が顔をあげた。
そして僕の目をしっかりと見据えてくる。ウソをついたら直ぐにわかるような目で。
さっきなかった光が,黄花の目に輝いている。まるで,星みたいに。
少し前に見た,夜空を連想させる。
そうしてしばらく僕の目を見つめてきたあと,黄花は立ち上がった。
それにつられて,僕も立ち上がる。
ブワッ
その時,強い風が吹いて黄花の長い髪が靡いた。
強い風は,僕の不安を増やすように吹きつける。
「方法なら,ある。あなたが,ヒカリが,みんなにラッキーストーンで,希望を届けて,みんなの絶望を消せば,もとに戻る」
「僕が…⁉︎ ラッキーストーンで⁉︎」
僕はありったけの声で叫んだ…
ラッキーストーンって…パワーストーンのことかな?
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