第47話 守晴VSα
巧と幸時がそれぞれの相手と戦っていた時、守晴はαと彼の使役するドラゴン一頭と向き合っていた。
「――っ。はぁ、はぁ」
「お前もだけど、他の二人もなかなかやるね。ここまで追いすがってくる奴らがいるなんて、想定外」
「そりゃあどうも。けど、追いすがるだけじゃ終わらない。必ず彼を起こし、Σを追う」
「……それだけボロボロで、ボクを倒せるかな?」
無邪気に微笑み、αはドラゴンに顎で合図を送る。それを受け、ドラゴンはその巨体をブンッと振った。
「うわっ」
「さあ、まだまだ行くよ!」
ドラゴンの太く長い尾に殴打されかけ、守晴は後ろへ跳んで躱す。地面を転がり、立ち上がろうとして頭上を通り抜ける何かに気付き身を低くした。
「ちょこまかと」
「それはお互い様だろ」
チッと舌打ちするαに言い返し、守晴は剣の柄を両手で握ってドラゴンと対峙する。ドラゴンの雄叫びが風を生み出し髪を煽り、その眼光は鋭く身が竦みそうになる。
(でも、立ち止まれないから)
守晴は低い姿勢から滑り込むように走り込むと、短く変化させた剣の刃でドラゴンの腹を狙う。鋭い剣筋が光り、ドラゴンは悲鳴を上げた。
「次!」
「ドラゴン、落ち着け! ……何でそんなに」
「おれが深く斬ることをイメージしたからだ」
土まみれになった服をはたきながら、守晴は顔を青くするαに種明かしをする。種と言うまでもなく、この夢世界でのみ通じる常識の話だが。
「想像力、ただそれだけだ」
「……っ。ドラゴン二体を倒すとは、な」
「後は、お前だけだ」
再び長剣へと姿を変えた武器を構える守晴に対し、αは何かを考える素振りを見せる。
「……何を、考えている?」
「んー。お前さ、こっち側に来る気はないか?」
「は?」
「お、こっわ」
ドスの効いた声を出した守晴を、αはケラケラ笑って茶化す。オーバーリアクションの後、ジト目で睨まれていることに気付き、αは肩を竦める。
「そんな怖い顔するなよ。これでも、ボクはきみをかっているんだ」
「評価は有り難いけど、おれはお前たちの仲間になる気は一切ない」
「ま、そうだろうね」
カラッと認めたαは、何処からか取り出した自分の背丈ほどありそうな剣を掴む。そして、勢い良く守晴に向かって叩きつけた。
紙一重で身を退き躱し、守晴は第二打を予測して自ら打って出る。
「っつ!」
「流石に、読まれていたか!」
案の定、守晴はαの強打を受け止めた。ガンッという重い音と圧力に屈しそうになりながらも、地面を踏み締めて弾き返す。
当然止まる暇などなく、守晴とαの剣撃の叩きつけ合いは留まることを知らない。互いに相手を戦闘不能に追い込むため、急所を突こうとフェイントを仕掛けた。右かと思えば左、上かと思えば斜め。丁々発止の激戦は互いを消耗していき、やがてΣの施した空間の制約を超えた。
「あっ」
その小さな叫びは、αから発せられた。たった一言が、その後の全てを変えていく。
αの体が、ガクッとバランスを崩す。それだけに留まらず、αの体が目に見えて疲弊していくのだ。
「――何だ、これ?」
「疲れて来たってことだろ。……Σのイメージをようやく超えられたみたいだな」
「つっ! ふざけんな、あの方は、誰にも越えられはしない」
膝を地面につけ、立ち上がれなくなってもαの戦意は衰えない。それどころか燃え盛るそれを前にして、守晴はある疑問が頭に浮かんだ。
守晴自身も肩で息をして、限界が近い。その前にαを倒さなければならないことに加え、仲間の助力にもなりたかった。守晴は乱れる息を何とか話せるくらいに整え、αを見下ろす。
「α。お前は、一体何者なんだ?」
「……Σ様の、忠実なる
「そうかもしれないけど、それだけじゃない。お前たちは……本当に人間なのか?」
「……さあな」
αは、明確な答えを示さない。それこそが真実だと感じ、守晴は「今はわからないけど」と前置きをする。
「Σから、必ず聞き出す。お前たちの存在を、そして、おれを夢渡りの力を与える者に選んだ本当の理由を」
「……やれるもんなら、やってみろ。お前たちが追い付く前に、Σ様の願いが叶っているだろうから」
――キンッ。
守晴とαの刃がぶつかる。互いに戦意はあるが、徐々に明けつつある夢世界が二人を焦らせていた。
守晴の視線が、この夢世界の主へと向けられる。彼を起こすことが出来なければ、ここで戦っている意味が半減どころかほとんど意味がない。
「教えろ、α。彼を起こすにはどうしたら良い」
「敵に塩を送るような真似、ボクがすると思うか?」
「口を割らせるっ」
わななく腕と手を叱咤し、守晴は立ち上がったαとのタイマンを続行した。ほとんど条件が同じ二人のぶつかり合いは決着がつかず、一閃一閃が削り合いだ。
そして、何度目かわからないぶつかり合いの最中のこと。
「……っ。やられたか」
「えっ?」
αの呟きに守晴が反応した直後、彼の背後でパリンッというガラスの割れるような音が二つ聞こえた。思わず振り返ると、巧と幸時が顔を上げた時と重なった。
「巧、桃瀬さん……」
「守晴、こっちはやったぜ」
「うんっ」
「なら、後は……あっ!」
残ったのは、α一人。そう思った守晴が体の向きを元に戻すと、αは既にそこにいなかった。三人でキョロキョロと見回すと、少し離れた倉庫のような建物の屋根にαが立っている。
αは守晴たちに見付かったことを知ると、肩の高さまで上げた手を軽く振った。
「ボクは、Σ様を追う。βとγがいなくなった今、あの方を支えるのがボクの役目だから」
「あの子を解放してからにしろ!」
「……Σ様の術だ。そう簡単に破れるものではない。だけど」
天を仰ぎ、αは小さく息をつく。
「Σ様からの伝言だ。『ここまで私を追い詰めたご褒美に、彼を封印から解放してあげよう』だそうだ」
「解放?」
「あ、見て!」
幸時が声を上げ、何かを指差す。そちらに目を向けた守晴と巧は、繭か蛹に囚われた少年が地面に倒れているのを見付けた。いつの間にか、彼を捕えていたものは消えている。
「きみ!」
守晴たちは少年の傍に駆け寄り、息をしているかを確かめる。巧が口元に手の甲を近付けると、確かに規則正しい寝息をたてていた。小学校高学年くらいの男の子だ。
男の子の命に別状はなさそうだ。それがわかり、幸時がほっと肩の力を抜く。
「……よかった」
「ああ。……けど、今回は特別っていうことだよな」
αがいた場所を振り返るが、そこにはもう誰もいない。更に、夢世界の主が正しい眠りについたことで、夢世界の終わりがすぐ傍まで迫っていた。
「もう戻らないと」
「――っ。Σ、あいつを捕まえないと」
「今は、目覚めよう。それで、起きたら三人で集まるんだ」
「わかった」
「うん」
白濁とした霧に包まれ、守晴たちは現実世界へと戻った。
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