第42話 夢狩人の目的
守晴に呼ばれた時、巧と幸時はそれぞれの夢世界にいた。巧は高校の教室で、幸時は花畑の中で聞き慣れた声を聞いた気がした。
「――守晴」
「葛城くんが、呼んでる」
二人は互いの目の前にいたわけではない。それでも声のタイミングが同じだったのは、すべきことが同じだったからだろうか。
不意に、それぞれの前に扉が出現した。家の玄関に備わっているもののようなそれのドアノブを、二人は躊躇なく回して扉を押し開ける。その瞬間、光が二人を包み込んだ。
✿✿✿
「来るの待ったりしないから」
γのその言葉通り、守晴が仲間たちを呼び寄せようとした直後に鋭く飛ぶ矢が守晴のこめかみを襲った。ギリギリ回避したが、次も避けられるとは限らない。
(剣を……)
使い慣れた剣を想像すると、それが目の前に現れる。守晴はそれを手にし、高みの見物を決め込むβとγの動きを注視した。
「くっ」
ガキンッと金属音が鳴った。守晴が目の前に飛んで来た矢を躱し、バランスを崩したところで虎が襲い掛かって来る。守晴は何とか足を踏ん張り、剣の腹で虎の牙を受け止めた。
虎は己の体重をかけて守晴を押し倒してしまおうとしたが、守晴がそれを力づくで阻止した。守晴が虎を押し戻す自分を鮮やかに想像したからだ。夢世界では、想像力が強さを決める。
「……でも、背中ががら空きだ」
「!」
引き絞った弓から矢を放ったγは、しかし思い描いた結果とならずに目を見開く。真っ直ぐ守晴の背中の中心を穿つはずだった矢は、真っ二つに叩き斬られて地面に落下した。
バキッという思いがけない音を聞き、守晴が振り返る。するとそこには、使い慣れたであろう剣が握られている。
「――っ、はぁ、はぁ。間に合った」
「……巧」
「よお、守晴」
待たせたな。そう言って微笑んだ巧の顔色は若干悪く、守晴は「ああ、心配させたな」と苦笑いした。それを見て、巧はきょとんとする。
「何だよ?」
「いや……。心配かけたなって思ってさ」
「だと思うんなら、さっさと呼べ。桃瀬さんもそう思ってんじゃね?」
「えっ」
巧がくいっと後ろを親指で指す。守晴がそちらに目を向ければ、丁度しーちゃんに乗った幸時が虎を一頭相手に善戦しているところだった。
「桃瀬さん!」
「葛城くん、来たよ!」
笑顔を見せる幸時は、しーくんの注意喚起を受けてすぐに表情を改めた。キリッと虎に目を向ける姿は、さながら騎士のようでもある。
思わず幸時に見惚れる守晴を見て、巧は楽しそうにくくっと笑った。
「俺も、休んでられねぇな」
「グオォッ」
「――丁度!」
ナイスタイミングで現れた虎に、巧は振り返りざまに剣を振り抜く。ブンッと風を起こしたそれは虎の頬を叩き、ホームランを打った。
「っしゃ!」
「ありがとう、巧」
「お前だけに背負わせられないからな」
ニッと笑った巧と背合わせになり、守晴は再び剣を取る。もう独りではないと実感すると、体に力が湧く。
「これで、三対二だ。力不足なんて言わせない」
「ふん。オレたちだけで終わり? そんなわけないだろ」
守晴の言葉に、βは鼻で笑って応じた。βの言葉の意味がわかったのは、そのすぐ後のこと。
「β、γ」
「お、来たな」
「来たね。これで、三対三だ」
何処からか降り立ったのはαだ。二頭のドラゴンを従え、守晴を見つめる。そして不意に視線を外し、γに「ねえ」と尋ねた。
「これ、本気のやつ?」
「小手調べからの本気、かな。まずは彼らに、私たちの目的を教えなきゃいけないから」
「ふぅん? そっか、まだ言ってなかったか」
それなら、喋れる程度にね。そう言うが早いか、αはドラゴンに飛び乗ると舞い上がった。次いでβと虎たち、そしてγが戦闘態勢を整える。
守晴たちは自分たちが今いる場所から一番近くの相手、つまり守晴はα、巧はγ、幸時はβと対峙した。
「……守晴、お前一人でボクの相手をする気? ビックリなんだけど」
「そうだな。けど、負けるわけにはいかない」
ガゥとドラゴンが笑う。笑うと鋭い歯の間から炎が漏れ、熱波を放つ。
ドラゴンに甘く見られているなと思いつつ、守晴は愛剣を構えた。夢世界では、想像力が力になる。ならば、ドラゴン二頭と渡り合うことも可能なはずだ。
ちらりと視界の端に映ったのは、この夢世界の主であるはずの少年。眠らされたままの彼を救うこと、それがまずやるべきことだ。
「さあ、あの子を解放してもらおうか」
「あの子一人を起こしたところで、ボクらは止められないよ」
見て。αがパチンッと指を鳴らすと、夢世界の背景が一変した。何処かの公園が広がっていたはずが、突如として宇宙空間のようになる。何処までも広がっていそうなその中に、ぽつぽつと丸いものが点在していた。
「……あれは何だ?」
「葛城くん、あれは……一つ一つが夢世界だよ!」
「何だよ、それ」
幸時の言葉に、守晴は言葉を失う。
巧も唖然としていたが、我に返るとγを睨みつけた。
「おい、どういう意味だ? 無数に夢世界があるのはわかるけど、こうやって見せる意図は」
「見えているのは全て、我々夢狩人によって支配された夢世界だ。それぞれの主を眠りにつかせ、世界同士を繋いでいる」
「……現実で目覚めない人たちは、お前たちが眠らせているってことか」
「ある目的の為に」
淡々と何でもないことのように語るγに、守晴は「何故だ」と問うた。
「夢世界を支配し、主たちを眠らせて……お前たちは何をしようとしている!?」
「……夢世界を統治し、現実世界支配の足がかりにするんだよ。守晴」
「えっ……」
突然聞こえた第四の声。その声に呼ばれた守晴は、聞き覚えのある声の主に絶句した。
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〖完結迄予約投稿済み〗画獣夢晴~夢世界を渡る力を手に入れたおれは、想像力で現実世界を救いたい~ 長月そら葉 @so25r-a
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