第40話 臨時ニュース
ぼんやりと意識が浮上して、守晴は顔をしかめた。
(……朝、なのか?)
ぼんやりとそんなことを考えながら、守晴はうっすらと目を開ける。すると確かに窓から入って来るのであろう日光が眩しく、思わず顔をしかめた。
「……んっ」
ごろりと寝返りを打とうとして、手に違和感を感じる。明るさに慣れて来た目を開けて腕を上げてみれば、何かが手の甲に装着されていた。
(あ、点滴か)
そういえば、自分は道端で突然倒れたんだった。病院にいる理由を思い出し、守晴は頭を抱える。ナースコールをすべきか否か。
「……懐かしいな」
見回りなどに誰か来るだろう。そう結論付け、守晴は幼い頃の記憶を掘り起こしながら呟く。病院特有のにおいを嗅ぎ、様々な気持ちを思い出す。守晴の夢を渡ることの出来る能力は、病院から始まったのだから。
そんなことをつらつらと考えていた守晴の耳に、ガタンッという音が届く。何事かと音のした方を見れば、看護師が一人立っていた。彼女の足元には書類が数枚散らばり、どうやらあの音は書類が落ちた時の音だったとわかる。
「あの……大丈夫ですか?」
「あ……す、すみません。先生を呼んできますね」
看護師はそう言うと、踵を返した。ぎりぎり走っていない足運びで去るのを見送り、守晴は再びベッドに背中を預けた。
「……で、それからが忙しかった。医者に診察されてる間に母さんが呼ばれて、精密検査もあって問題なしって言われて帰宅したのが翌日だからな」
「退院出来てよかったな。守晴のお母さん、嬉し泣きしてたし」
「まあな。ほんと、久し振りに心配かけたよ」
退院して高校に行ったその日の放課後、並んで歩きながら守晴は巧に一部始終を語っていた。退院して帰宅したその日、守晴のスマホには巧と幸時からのメッセージが送信されていた。
「ちゃんと母さんには感謝は伝えたぞ。桃瀬さんに言われたから」
「かなり心配してたからな、守晴のお母さん」
「ちっさい時のことを思い出すんだと思う。すぐに熱出して、咳込んで体だるくなって入院してたから」
実際、守晴は母親に泣かれた。それでも自分は今元気だと伝えると、目を赤くして頷いてくれた。
「……にしても、突然だったよな。体が痛むとかだるいとかは?」
「起きた直後は流石にだるかったけど、もう平気だ。それより、αたちの動きが気になる」
守晴の言葉に、巧も頷く。αと顔を合わせてからまだ二日しか経っていないため仕方がないのかもしれないが、まだ大きな事件などは起こっていない。
(さっさと動き出すかと思ってたんだけどな)
幸時からも報告はない。スマホの通知を確かめて、守晴たちは何かあればすぐに連絡すると約束して別れた。
「ただいまーっと」
守晴は自室に着くと、鞄を置いてベッドにボスッと座った。息をつき、それから鞄を開けに立ち上がる。課題類を机の上に出し、さっさと明日の科目と入れ替えた。それらが終わると、今日は特に約束も何もないため、本でも読もうかと守晴は本棚に手を伸ばす。
「守晴、ご飯よー!」
「はぁい」
最近気に入っている小説の新刊を読んでいると、さっさと時間が過ぎてしまうらしい。守晴は母親に呼ばれ、居間へと向かった。
居間に行くと、テレビが付いている。そういえばここ何日かニュースも何も見ていなかったなと思った守晴の耳に、切迫したアナウンサーの声が入って来た。
『臨時ニュースです。今朝から今日午後六時にかけて、眠ったまま目を覚まさない人がいるという報告が、全国で数千件報告されています。医師会と政府は異常事態として、原因究明と解決のための委員会を設置しました』
「……は?」
守晴は思わず転げ落ちた声を拾うように、手を口元にあてた。何度か繰り返し伝えられるニュースの内容と画面のテロップを見比べ、目を瞬かせる。
(眠ったまま目を覚まさない? ……まさか!)
守晴はすぐに巧たちと連絡を取りたい気持ちを抑え、急いで夕食をかき込む。それからすぐに部屋へ戻ると、既に巧と幸時からメッセージが届いていた。
『守晴、桃瀬さん、ニュース見たか!?』
『見たよ。たくさんの人が眠ったままって、夢狩人の仕業……?』
『断定は出来ないけど、そうだろうな』
守晴が二人の会話を読むと、二人から『守晴』『葛城くん』というメッセージが飛んで来る。既読表示が付いたのだろう。
守晴は急いで指を動かし、画面をタップしていく。
『ごめん、飯食ってた。ニュース見たよ。夢狩人が関係してると見て間違いないと思う』
『飯は食えよ、入院してたんだし。……今夜、守晴は夢世界へ行くか?』
『行けるのなら。もし行けたら、二人を呼ぶよ。だから、きっと応えてくれ』
『当然だろ』
『わたしも、スタンバイしてるね』
巧と幸時の答えにほっとして、守晴は二人と更に情報交換を進める。三人の持っている情報は似通っていたが、巧がそこにSNSでの情報を加え、バラエティに富んだものになった。
『巧、何でもかんでも信じるなよ?』
『わかってる。けど夢世界を知ってるとさ、どっちが本当か嘘か、わからなくなるってことはないか?』
『わかるけど』
『わたしもわかる。現実で起こり得ないことが、普通に起こるのが夢世界だから』
『……そうだな』
今後も新たな情報が入ったら知らせ合うことを約束し、一旦連絡を切る。守晴はニュースアプリを時々覗きつつ、高校の課題を始めた。
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