第25話 しーくんとしーちゃん
二頭のドラゴンがゆっくりと空で旋回し、守晴たちを品定めするように見回している。それらの視線にさらされながらも、守晴と幸時は飛び出すタイミングを見計らっていた。
「桃瀬さん、あいつらはいつもああいう感じ?」
「うん。でもいつもより長いかもしれない。葛城くんがいるからかな」
「……だとしたら、少しは動揺させられているってことか」
無理矢理ポジティブに考えることにして、守晴は剣を握り締めた。
幸時の傍で空を警戒する画獣の獅子たちは、真剣なまなざしでドラゴンたちを目で追っている。
そして、その時は唐突に来た。
――ギャースッ
――クオォォッ
二頭のドラゴンが急降下して、真っ直ぐに守晴たちに向かって来る。思わずぎょっとした守晴だが、隣の幸時の方が反応が早かった。
「獅子たち、お願い。迎え撃って!」
幸時の指示を受け、二頭の獅子が空を駆け出す。それぞれ一頭ずつ、各ドラゴンに突進するのだ。しかも体はドラゴンの半分もなかったが、空を駆ける毎に巨大化して同等の大きさに変化する。
「巨大化!?」
「あの子たちは、わたしの想像力だから。大きいのを想像すれば、具現化される」
「成程。夢世界だもんな」
だったら、と守晴も剣を握り直して狙いを定める。狙うのは、まず獅子と頭突きし合うドラゴンの方。
(イメージだ。風を起こして、それを斬撃に乗せる!)
ドラゴンはまだ獅子たちにかかり切りで、守晴たちにまで注意が向いていない。今が好機だ。守晴は「ハァッ!」という気迫と共に思い切り斬撃を放った。
ドッと風を裂く音を響かせ、斬撃は真っ直ぐにドラゴンの腹部を襲う。
――ギャッ
突然の衝撃に悲鳴を上げたドラゴンの首に、獅子が嚙みつく。体を振って振り落とそうとするドラゴンだが、獅子はしっかりと噛みついて離さない。
「いいよ! そのまま離さないで」
「――撃ち落とす」
空で自由に動き回られ続けるのは厄介だ。守晴がもう一撃加えようとした矢先、別方向から獅子の「ギャウッ」という悲鳴が聞こえた。
「うわっ!」
「危ないっ」
幸時の警告は間に合わず、守晴は体当たりして来たドラゴンとまともにぶつかって吹っ飛ばされた。地面に叩きつけられ、思い切り咳込む。現実世界ならば、骨が折れて打ち所が悪ければ二度と息をすることが出来ないだろう。
「ゴホッ。……っ、びっくりした」
「葛城くん、怪我は!?」
「夢世界だから、平気。けど」
立ち上がり、守晴は自分を突き飛ばしたドラゴンの所在を確かめる。既に獅子と攻防を繰り広げていたが、いつこちらを標的にするかは見当もつかない。
(倒すことは難しいだろうな。空を自由に飛ぶ相手に、こっちは不利だ。朝が来る前に、せめてここから追い出さないと)
呼吸を整え、守晴は再び剣を構える。今出来ることは、獅子たちと共闘してドラゴンたちを追い出すことだ。
「桃瀬さん、あいつらに指示を頼む」
「……わかった」
頷く幸時に笑いかけ、守晴は再び斬撃を放つ。今回はもう一頭の方、獅子により追い詰められているドラゴンを狙った。
しかし、同じ手を二度は食わない。
「くっ」
「もう一頭が!」
守晴の斬撃を別のドラゴンが尻尾で弾き、仲間を守る。その連携は見事で、しかも鮮やかなだ。
「あのドラゴン、さっき見ていなかったのに!」
「……誰か、指示役がいるのか?」
「今まで、見たことはないけど。でも、そう考えたら納得だね」
何処かに向かって「ガウ」と鳴くドラゴンを見て、守晴の推測は確信へと変わる。何処かにドラゴンたちを操る誰かがいるのだ。
「指示役を捜しながら、ドラゴンの相手をするしかないか」
「だったら……しーくん!」
「しーくん?」
幸時に呼ばれ、しーくんこと獅子の一頭がこちらへ降りてきた。その際、ドラゴンに火炎を吐きかけていくことを忘れない。獅子たちはそれぞれ、炎と水の力を使うことが出来るのだ。
「しーくんに乗って行って。上からの方が、探しやすいはずだから」
「いつの間に名前を……」
「炎がしーくん、水がしーちゃん。獅子だからね」
安直だけど。そう言って笑った幸時に急かされ、守晴は獅子のしーくんの背に飛び乗った。
「頼むな」
「グルルッ」
任せろ。そう言ったのか、しーくんは地面を蹴って飛び上がる。その時の衝撃さえ乗り越えてしまえば、あとはかなり安定感があった。
(こんな時に思うことじゃないけど……広い)
空の上から夢世界を見下ろしたことのなかった守晴は、その美しさと広さに圧倒された。何処から何処までが幸時の作ったものかはわからないが、ところどころにある花畑と森、そして泉や川が景観を彩っている。
「ガウ」
「ごめん、見惚れてる暇なんてなかったな」
しーくんに叱られ、守晴は気を取り直す。
今二人が向かっているのは、しーちゃんが一頭でドラゴン二頭を相手にしているただ中だ。
「しーくん、突っ込め!」
「ガウッ!」
たてがみが揺れ、しーくんが突撃する。その時、しーちゃんがドラゴンの尾に弾かれた。
「しーちゃん!」
幸時の悲鳴に、しーちゃんは地面に着くギリギリで体勢を整える。改めて浮上しようとするしーちゃんに襲いかかろうとするドラゴン。もう一頭は、しーくんと守晴を牽制していた。
あと一人いれば。守晴はここにいない親友を思い浮かべ、言っても仕方ないことだとわかっていながら空に向かって叫んだ。
「――っ! 何やってんだよ、巧。呼んでるんだから、さっさと来い!」
守晴の声が響き渡った直後、ざわりと幸時の傍の花畑が揺れた。
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