第3章 支配を目論むものの夢

謎の存在

第24話 夢世界の異変

 幸時に誘われ三人で遊ぶようになってしばらく経った頃、とある夜に三人のメッセージグループに幸時からのメッセージが入っていた。風呂から上がってほっと一息をついた時、ピロンッという音が鳴ってスマートフォンのライトがついた。


「何だろ? ……ん?」


 幸時のメッセージを確認した守晴は、書かれていた内容を読んで目を丸くした。


『二人に相談したいことがあるの……。良いかな』


 それは、文字だけでも不安げな心象が垣間見える気がするメッセージ。


「何があったんだ?」


 守晴が『どうした?』と送るのとほぼ同時に、巧からも『何かあった?』という返信が送られていた。それらに対し、数分後に幸時から返信が送られる。


『実は、夢世界でドラゴンに襲われる頻度が増えていて……。ここ数日は別のモンスターも現れて、わたしの画獣たちだけでいつまで対処出来るかわからない』

『……確か、俺が見た時はドラゴン一頭だったよな。それから増えているってことか』

『うん』

『でも……どうやったら桃瀬さんの夢世界に介入出来るんだ? 今まで、行きたいと思ってその人の夢世界に行ったことはあるのか、守晴?』


 巧に問われ、守晴はスマホの画面に触れる手を止めた。巧の言う通り、願ったからといって行きたい夢世界へ行けるとは思われない。そもそも、守晴は毎回の出会いは二度はないと考えていたため、二度目を願ったことがなかった。


『正直、行きたい夢世界へ行ったことはない。けど、そもそも願って行ったことはないからわからないな……』


 正直にそう告げると、巧が『お前らしいな』と返してくる。そして、思いがけないことを言った。


『じゃあ、今夜やってみようぜ。願って行けるのかどうかさ』

『は?』

『えっ』


 驚く守晴と幸時に、巧は『おんなじ反応か』と笑ったらしい。


『やったことないなら、やる価値はあるだろ? もし失敗したら、桃瀬さんはもう一日だけ頑張って欲しい。俺たち二人で、絶対助けるから』

『ああ、やってみよう。巧が言うなら、出来る気がする』

『わたしも、信じる』


 三人で意見が一致し、その夜に幸時の夢世界へ行けるよう全員が願うことになった。

 守晴はアプリを閉じた後、諸々のことを済ませるとベッドに入り込んだ。


 そして、現実から夢世界へと意識が飛ばされる。


「……まじか」


 眠りに落ちるまで、ひたすらに幸時の夢世界へ行くことが出来るよう考えていた。まさかそれが正しく作用するとは。

 守晴が立っていたのは、初めて幸時の夢世界へ行った時と同様の景色の中。見覚えのある花畑が見え、守晴はそちらへと足を向けた。


(このまま進んで行って、前は桃瀬さんに会えたんだよな)


 高台から坂を下り、花畑へと向かう。途中までは、前回と何も変わらなかった。


「巧は……いないか」


 今のところ、巧の姿はない。彼は守晴のように夢渡りの力を持つわけではないからか、自らの意思で来ることは出来ないのだろうか。

 そんなことを考えつつ、守晴はあともう少しで花畑へ入るという場所までやって来る。


「あっ。桃瀬さ……」


 幸時の後ろ姿が見えた。前回同様、花畑の中にいたらしい。彼女を呼ぼうとした守晴だが、その声は途中で転げ落ちた。


「え……」

「葛城くん、来てくれたんだね」


 守晴に気付いた幸時が、険しい顔で振り向く。しかし守晴を目にした途端、少しだけ肩の力を抜いた顔をした。


「よかった……」

「けど、巧はいない」

「……力がないと、無理なのかな。鈴原くんにもいて欲しかったけど」


 今は、それどころではない。幸時は上空を見上げ、眉をひそめた。


「葛城くん、見える? が、ドラゴンだよ」

「ああ、見えてる。……前は、あんなに大きくなかったよな?」


 白く濁った空の上、守晴たちの上を黒い影が横切る。黒く大きなそれは、二頭いた。

 雷のような音は、ドラゴンが喉を鳴らした音。羽ばたきで風邪が起こり、花々が大きく揺れる。


「毎回あいつらが現れては、わたしの画獣と戦っていくの。いつもギリギリ勝つけど、あれは向こうが手加減しているんじゃないかって思ってる」

「様子見してるってことか。……一体、何のために」


 尋ねたところで、その答えを知る者はいない。守晴は剣を握り、画獣を従えた幸時と共にドラゴンの急襲に備えた。


 ✿✿✿


 同じ頃、巧は何処かわからない場所にいた。


「何処だ、ここ?」


 開口一番のそれは、その言葉しか言いようがないからだ。上は白や灰色の混濁した何かが川のように流れており、下は黒くて何も見えない。

 真っ直ぐに進むべきなのか、曲がるべきかはたまた留まるべきか。迷いながらもしばらく歩いていた巧だが、一向に変わらない景色に飽いて立ち止まった。


(夢の中であることは間違いないんだ。俺は確かに眠気に襲われて寝たし、こんだけ歩いて疲れを感じないのはおかしいもんな。……さて)


 自分が何処にいるのかわからない。このまま朝を迎えて起きることが出来るのかも不明。八方塞がりだが、巧は何故か望みを絶たれたとは思っていなかった。


(たった一つで良い。きっかけが起これば、波紋が起これば、状況は変わる)


 願うのは、親友と親友の気になる人がいる夢世界へ行くこと。約束したのだから、約束は守らなければ。

 その時だった。ふわり、と風が吹いた気がした。


 ――巧。


「……おせーよ、守晴」


 かすかに聞こえた親友の声を頼りに、巧は出口へ向かって駆け出した。

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