第22話 ショッピングモール

 守晴と幸時、そして巧が互いの連絡先を知った二週間後の土曜日。市内のショッピングモールの前、時計の下で守晴と巧は幸時を待っていた。

 勿論、幸時が遅れているわけではない。待ち合わせ時間まで後十分程。電車が遅延しているというメッセージが、数分前に送られてきていた。


「晴れてよかったな、守晴」

「そうだな」

「……緊張してるのか?」

「まあ……ちょっとだけな」


 ベンチに並んで座り、会話を交わす。もともと口数の多くない守晴を横目に、巧はフッと面白そうに笑った。


「緊張してやんの、可愛いなお前」

「可愛いとか言うな。柄じゃないことくらいわかってるよ」

「そうじゃなくてさ。……お、あれか?」

「ん?」


 巧が見る方に守晴も目を向ければ、ワンピース姿の女の子がこちらへ駆けて来るところだった。確かに桃瀬幸時だと思い、守晴はちらりと立ち上がっている巧を見上げる。


「よくわかったな」

「聞いてた特徴と一致したし、こっちに走って来てたからそうかなって思ってさ」

「そっか」


 確かに、守晴と巧は前日に幸時から服装を知らされていた。白っぽい生成りのワンピース、オレンジ色のスニーカー。そして、黒のショルダーバッグだ。


「お待たせしてごめんなさい!」

「待ってないよ、桃瀬さん。だろ、守晴?」

「全然。むしろ電車が遅延してたのに、よく間に合ったな」

「実は、余裕をもって二人を待とうと思っていたから、早く家を出ていたの。なのに、丁度良くなっちゃった」


 息を切らせて謝る幸時に、巧と守晴はそう言って謝る必要はないと伝えた。それから幸時が落ち着いた後、三人でショッピングモールへと向かう。

 土曜日のモールは家族連れやカップル、その他様々な人々が行き交っている。人混みの中、三人ははぐれないように互いの位置を確かめながら歩いていた。


「ここのフードコート、市内だと一番の店揃えって聞いたの。ショッピングモール自体も広いし、色んなお店があるみたいだから遊びに行くのに良いかなって思ったんだけど……」

「そういや、新しくなってから来てなかったな。守晴は?」

「おれもあんまり。じゃあ、昼はそのフードコートで食べよう」

「賛成」


 三人が最初に入ったのは、全国チェーンの百円均一ショップだった。ショッピングモールの中にあるということで、品揃えは桁違いである。

 文房具を見たいという幸時について行けば、ペンや画用紙やシール等がカラフルに売り場を彩っていた。


「今、こんなに種類あるんだな。……お、これ使いやすそう」

「桃瀬さんは何を買うつもりなんだ?」

「スケッチブックと、かわいいノートとかあったら欲しいなって思って。あと、シュシュとか」

「ノート……。あ、このケーキ柄とか良いんじゃないか?」


 守晴が見付けたのは、ショートケーキやモンブランなど、数種類のケーキがデフォルメされたイラストの描かれたノート。ポップで可愛らしいデザインだった。


「可愛い! じゃあ、それにする。選んでくれて、ありがとう。葛城くん」

「あ……ああ」


 ぱっと目を輝かせ、幸時は守晴が選んだノートを手に取った。それから巧に呼ばれ、スケッチブックを見に行く。

 一連の流れを見送り、守晴は少しこそばゆいような気持ちを抱いていた。

 百円均一ショップでの買い物を終えて歩いて行くと、男性物のファッションエリアに入る。折角だから、と守晴と巧はウインドーショッピングがてら服を見て行くことにした。


「――お、守晴これとか似合いそう」

「パーカーは好きだけど。それなら巧はこっちじゃないか?」

「それは持ってないパターンだな」


 なかなか男同士でショッピングをすることなどない。遊びに行く場所にショッピングモールを選んだことのない二人だったが、幸時を交え三人であーだこーだ言いながら歩き回る時間は楽しいものだった。


「――あ。ここだよ、フードコート」


 幸時が指差したのは、ショッピングモールの最上階にある広いフードコート。十店舗程の店が並び、おいしそうなにおいが充満していた。

 守晴たちは席を確保し、それぞれに昼食を買いに行く。そして十分後には全員が戻って来ていた。


「葛城くんは唐揚げ定食で、鈴原くんはハンバーガーのセットにしたんだね。どっちもおいしそう!」

「桃瀬さんはパンケーキ? でもサラダっぽい?」

「食事系のパンケーキなんだよ。甘いのとどっちにしようか迷ったんだけど、折角お昼ご飯だからこっちにしてみたの」


 食事を始めてしばらくは、食べることに集中する。しかし半分を過ぎてくると、雑談が交わされるようになっていく。


「……じゃあ、葛城くんはそんなに前から夢世界に?」

「ああ。幼い頃に夢の中である人に会ってから、頻繁に誰かの夢にお邪魔してる」

「それは流石に疲れたりしないのか?」

「おれもそう思うんだけど、体は眠っているらしいんだ。夢渡りが原因で寝不足になったことはないと思う」


 主に巧と幸時が守晴に質問を投げかける形で、会話が進む。更に幸時が自分の夢世界のことについて話をし、巧も守晴と共に歩いた夢世界の話を聞かせた。


 ✿✿✿


「――『夢世界』?」


 傍から見れば、ゲームの話をする学生だった。しかし、とある者たちにとって『夢世界』はリアルに存在する。


「……夢渡りをする者らしい。厄介な」

「たった一人だろう? 何も問題などない」

「あのお方のため、働くだけだ」


 三人の、一見すると親子に見える姿からは想像も出来ないような会話が続く。彼らもまた昼食中であるためか、その怪しさに気付く者は一人もいない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る