第21話 メッセージのやりとり
「へぇぇ? 土曜にあの桃瀬さんに会いに行ったのか……。俺も行きたかったんだけど」
「それはごめん。夢世界で会った話もしたかったから、一人の方が良いかと思ったんだよ」
「それはわかっているけどさ、俺も会って話したかったな」
週明けの放課後、帰りながら守晴は巧に文句を言われていた。休日にダメもとで公園に行き、幸時に会ってきたことを報告した途端、これである。
そろそろ巧の文句に応対することが面倒になって来た頃、守晴は巧に思いがけないことを言われた。ニヤニヤした顔で、巧が守晴の顔を覗き込む。
「……で、桃瀬さんに会ったからその顔なんだろ」
「何が?」
「気付いてないのか、そうだよな」
「だから、何なんだよ……」
守晴が顔をしかめると、巧は「言わね」と笑う。
「ちゃんと自分で気付いたら、その時教えてやるよ」
「はぁ? ――ったく、帰るぞ」
「ははっ。おう」
いつもの十字路で別れ、守晴は真っ直ぐに自宅へ向かう。
守晴の後ろ姿を見送り、巧が「面白れぇわ」と呟いていることには気付くはずもない。
「ちゃんと会ってみたいな。守晴があんな顔する、桃瀬さんって子に」
守晴本人は知らないだろう。幸時の話をする時、自分が優しい顔をしていることを。
今度、三人で遊ぼうと約束はしてある。その日が早く来れば良いと思いながら、巧も帰路についた。
✿✿✿
帰宅すると、守晴のスマホに幸時からのメッセージが届いていた。幸時のアイコンは向日葵の絵だ。初めて彼女と会った時に描いていたものだろうか。
ちなみに守晴のアイコンは、従兄弟の家にいるパピヨンの写真だ。きちんと使用許可は飼い主にとってある。
『学校お疲れ様。時間のある時、返信ください』
「桃瀬さんか。えっと……『今なら、一時間くらい時間ある』」
母に呼ばれるまで、一時間くらいだろうと踏んだ。以前夕食の支度を手伝え、働かざるもの食うべからずだと怒られて手伝ったことがあるが、その手際の悪さと危なっかしさゆえに今後の手伝いを禁じられたことがある。だから、呼ばれるまでは大人しく宿題をしているのが常だ。
今日もいつもと同じように過ごそうと思っていたところだ。問題集とノートを取り出しながら、そわそわと幸時の返信を待つ。
――ピコンッ。
数学の問題を数問解いた時、スマホがメッセージの受信を告げた。アプリを起動させると、幸時の送ったスタンプとメッセージが表示された。スタンプはウサギのイラストで「やったぁ!」と嬉しそうに笑っているものだ。
『ありがとう! 夢世界の話なんだけど、おじいちゃんたちに確認したら、征一さんは確かに父方の人だってわかったよ。若くして亡くなったんだって言ってた』
「そっか、確かめたんだな。――『そうだったのか。教えてくれてありがとう』」
それから少しの間、互いの近況報告のような雑談が続いた。三十分経った頃、幸時が『あのね』と話題を変える。
『来週の土曜日、葛城くんと鈴原くんって予定空いてる? よかったら、家も近いみたいだし遊びたいなって思ったんだけど……』
『行く。巧も連れて行く』
『本当? 返事は明日で良いよ! でも、会えたら嬉しいな』
即答した守晴に驚いたのか、心配そうな顔のウサギのスタンプと共にメッセージが送られて来る。その文面を見て、守晴は思わず机に突っ伏した。
「……かわ……こほんっ」
咳払いをして気を折り直すと、守晴は早速巧に向かってメッセージを送る。来週の土曜日空いているかという確認だけしたのだが、数分後の返信には、何故かニヤニヤ笑うアニメキャラのスタンプがついていた。
『おっけー空けとくわ』
「よし」
守晴は巧の返答を確かめ、その旨を幸時に伝える。すると『ありがとう』という文言と共に、メッセージが送られてきた。
『何処に行くかは今週末にも決めよう! 凄く楽しみにしてますって鈴原くんにも伝えてね』
「『了解』。……そっか、また会えるんだな」
スマホを閉じ、何となくその画面を撫でる。幸時の笑顔が見えた気がして、守晴は肩を竦めた。
それからの二十分で宿題の三分の二を終わらせ、食事等を終わらせて寝る支度まで済ませると、午後九時過ぎだった。明日の支度をし終わって何となくベッドに腰掛けた守晴は、スマホのライトが点滅していることに気付いた。
「誰だ……って、巧か」
メッセージアプリを開けば、巧の『例の桃瀬さんか?』というメッセージが届いていた。それに対し、守晴は『そうだよ』と返す。
『桃瀬さんが、誘ってくれたんだ。だから絶対来いよ』
『俺も会いたいもん、行くよ。でもさ、俺邪魔じゃね?』
『何でだよ。巧もいないと夢世界の話出来ないだろ?』
それまで立て続けに送り合っていたメッセージだが、この後数分巧から返信が来なかった。どうしたのかと思いつつベッドに転がった時、巧からのメッセージを受信した。
『お前……そういうとこだぞ』
『どういう意味だよ? まあ、良いけど。今週末に予定決めたいって言ってたから、桃瀬さんに巧のアカウント教えても良いか?』
全ての会話内容を自分経由で巧に送るのは、正直なかなか面倒くさい。守晴が正直に送ると、巧からは『オーケー』という猫のスタンプが送られてきた。
『今日はもう遅いから、明日にでも送っておいてよ。頼むぞ』
『わかってる』
明日も学校だ。守晴はスマホをベッドに枕近くに置き、布団をかぶって目を閉じた。
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