Episode2 瓦礫のフレーム

前編

目を開けると、視界に広がる蒼。

いい天気だけど、もう見飽きてしまった。

起きた瞬間から、食事中、学校に行くときも、学校で授業を受けているときも、崩れた瓦礫ガレキをフレームにして広がる空。

屋根もないため、雨が降れば、髪も服も、何もかもびしょぬれになる。

夜は、星が広がる日もあれば、月明かりだけの日も、真っ暗な日もある。

こんな日が、かれこれもう随分続いている。

普段の何気ない日常が、一瞬で、こんな風に変わってしまった。


友だちと歩いて学校に行っていたあの日は、よく晴れていた。

雲も、薄く、きれいに広がっていて、真っ青な空の中で、真っ白な太陽が、輝いていた。

突然だった。

太陽の白が、突然強くなって、何もかもを消し飛ばした。

近くのマヤさん家の窓ガラスは割れ、ヨウさん家の塀は熱で溶け、その上を歩いていた地域ネコのネオは、爆風で吹き飛ばされた。

平穏だった日常は、一瞬にして、崩れ去った。

私と友達は、ちょうど、塀と塀の間を通っていたから、爆風で吹き飛ばされることも、熱線を直に浴びることもなかった。

けれど、そのあとは地獄だった。

街のあちこちが燃えていて、後ろから火の手が迫り、

逃げようと大通りを歩けば、皮膚が焼けただれて、髪もちりちりになった、ほぼ死にかけのご近所さんたちが、

「みず…。みず…。」

と、ゾンビのように徘徊していた。

いつも穏やかで、青い空を映していた川は、人の血と、死体で、赤黒く染まっていた。

幼い私たちが目にしたのは、"地獄絵図"を無理やり現実世界へ引っ張り出してきたような光景だった。

生きる気力もなくなるような、悲惨な光景。

顔はわからなくても、なんとなくだれかわかるほど、仲の良かった人たちの、残酷な姿。

白を基調とした、きれいな街が、炎と血と煙で塗りつぶされていく。

恐ろしさに声も出ず、友達の手を引っ張って、ただ、走るしかなかった。

どこに行ったらいいのか分からなかったから、下を向いて、いつも通っていた学校へ。

道中、何度も何度も、グチョ、と、何かを踏み潰した。

脚が、人の内臓と、細かく飛び散ったガラスとで、自分のか、他人のかもわからないが、とにかく血で染まった。

「ごめんね。うちはもう無理みたい。」

いつの間にか、自分の手に、友の手は握られていなかった。

息が切れて苦しかった。

煙を吸い込んだせいで、肺が痛かった。

友を置いて行ってしまった、という後悔で、胸が潰れそうだった。

涙は、火の海へ溶けていった。


死ぬ気でたどり着いた学校は、廃墟と化していた。

それでも、学校にたどり着いたという安心感で、疲れと痛みが襲ってきた。

そのときに初めて、頭から血が流れていたこと、熱線は浴びていなかったはずなのに、腕と脚にやけどを負っていることに気が付いた。

意識が朦朧としていて、このままではまずいと思い、恐る恐る、歪んでしまった戸を開けた。

すると、複数のうめき声が聞こえた。

奥へ進むと、酷いやけどを負った人や、全身にガラスが刺さった人、皮膚がただれて、布のようにちぎれている人、とにかく、もうすぐ死んでしまいそうな人々が、ところ狭しと寝ころんでいた。

その中で、せわしなくけが人たちの手当てをしている、二人の女性を見つけた。

私と、私が手を放してしまった友の、担任だった。

そのうちの一人が、私を見つけて、声をかけてきた。

生きていてくれてよかった、よくここまで来てくれたわ、と、こちらへ駆け寄ってきた。

もう一人は、友はどうしたの、一緒にいたんじゃないの、と、聞いてきた。

私は正直に、ここに来るまでのことを話した。

友の担任は、その話を聞きながら、泣き崩れた。

私は、謝った。

友の手を、もっと強く握っていたら、もっと友のことをしっかり見ていたら。

そんな後悔ばかりが押し寄せてくる。

でも、感傷に浸っていられる暇もないほど、次々とけが人が運び込まれてくる。

私は、担任たちと共に、けが人の手当てに努めた。

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