第十一話 気がつけばあの部屋
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「――まったく、無茶をしますねぇ」
「ん? あれ? 女神様?」
僕が目を覚ますと、そこは王城の一室でも治療院ではなく、嘗て一度だけ訪れたことのある真っ白なあの空間だった。そこにはあの時と同じく優しそう……ゆるそうな笑顔を浮かべたふくよかな女性、女神様が立っていた。
「やほー、お久しぶりね棗君。いえ、今は棗ちゃんかしら?」
「ど、どっちでもいいですよ」
「あら、そう? でも棗君。今は男の子に戻っちゃうと色々困っちゃうんじゃないかしら~?」
「べ、べべべべ別に困りませんよ!?」
「あら、まあそう言う事にしておきましょうかね。ウフフ」
相変わらずフワフワとした人(?)だな。これは夢……じゃないのか? どうやら目の前の女性はあのときの女神様で間違いなさそうだ。
「それで、僕はなんでここにいるんですか?」
「あらあら覚えてないのね。貴女、魔力……治癒術の場合は法力と呼ぶんだったわね。それを使い切って昏倒しちゃったのよ」
「え、殴られて意識失ったんじゃないんですね?」
「そうねぇ、その辺の事は貴女の大事なあの人に聞いたほうが良いわね?」
「そ、そそそそ、、そんな! 大事な人だなんて! ヒ、ヒデはそう言うんじゃなくて、その……そう! し、親友、親友だから!」
「うふふ、私は秀彦くんの事とは一言も言ってないわぁ?」
「う、うぐぅっ!?」
「うふふふ、貴女は素直で可愛いわね。でも、意識が戻ったなら早く戻ったほうがいいわね~? お話しているととても楽しいから、このままゆっくりお話したいのだけど、あまり長くここに居たら本当に死んでしまうかもしれないから~」
「サラリと恐ろしいこと言いますね!? か、帰りますよ。帰らせてください!!」
「あらら~、残念だわ。そんなに急いで帰るだなんて~「早くしてください!」あん、わかったわ~。それじゃ残念だけれど、目をつぶってちょうだいな~」
「は、はい!」
あぶないあぶない。危うく僕だけ魔王と会いもせずにリタイヤする所だった。流石にこんな所で死んでしまっては、何のためにあの世界に行ったのか分からなくなってしまう。
――女神様の言う通りに目を閉じると、何かに引っ張られるような感覚を感じる。どうやら無事、僕の体に引っ張られているようだ。女神様の気配や声も徐々に遠のいていくのを感じる。
「それじゃあまたね~。あ、いけない☆ 肝心の話をし忘れてたわ~。ごめんなさいね~。封印の|聖遺物(アーティファクト)なのだけど~」
「え?」
「あれ危ないから魔王軍には…… ……
「ちょぉっ!? 肝心の部分が聞こえなかったよ女神様!?」
なんか今、超重要な事言おうとしてなかった!? しかもなんでバイバイは聞こえる大きさで……
……――――
「――もう! そう言うのは先に言ってよ女神様ッッ!!」
「うおっ!?」
「……あ、あれ?」
大きな声に驚き見回すと、そこは既にあの白い空間ではなく。見慣れた僕の寝室だった。横には先程の野太い大声の主が倒れている。
「もう、ビックリしたよ! いきなり大声だすなよな秀彦!」
「それは俺のセリフだバカ! たく、やっと目を覚ましたと思えば今度は騒がしすぎるだろ」
どうやら秀彦は意識のない僕の看病をしてくれていたらしい。元気そうに見えるが、よく見ると目の下に隈などが見える。一体いつから見てくれていたのだろう。
「看病してくれてたんだ? 有難う秀彦……僕、気絶しちゃったんだね?」
「あぁ。そりゃあもう盛大にな。無謀な戦い方しやがって。見ていたこっちは寿命が縮んだぞ。あれからどの位経ったと思う?」
「ん……?」
そういえば外が明るい。あの時試合を始めたのが昼過ぎだった事を考えると……
「もしかして、丸一日くらい寝ちゃってた?」
「いや、違う」
「あれ?」
だとすると意外と早く目覚めた? 外はずいぶん明るく感じるけど、もしかして意外と夕方頃なのかな?
「……三日だ」
「え?」
「何間抜けな声出してやがる。お前が決闘をしたのは三日前だ、み っ か ま え! ……ったく。城中大騒ぎだったぞ。コルテーゼさんなんかボロボロのお前を見て悲鳴を上げて失神したからな? とりあえず。お前が目を覚ましたら連れてくるようにセシルにも言われてるからな。覚悟はしておけよ?」
「うぇぇぇ……」
結構寝てたとは思ったけど、まさか三日も意識を失ってたとは……うぅ、心配かけた分たっぷり絞られるんだろうな。正直テュッセにボコボコにされるのより遥かに恐ろしい。セシルとコルテーゼさんのお説教は僕の事を本気で心配してくれるだけにすごく辛いのだよなあ。罪悪感と申し訳無さで胸が苦しい。
「遠い目してんじゃねえよ。自業自得だ。皆すげえ心配してたぞ。」
「わ、解ってるよぅ……」
「もちろん俺もだ。あんまり無茶するんじゃねえぞ」
「う、うん。ごめんなさい」
真面目な顔で僕を見つめる秀彦の目から、どれだけ僕のことを心配してくれていたのかが伝わり、不謹慎だとは思うんだけど少し嬉しくなってしまった。どうしよう、キヲツケないと顔が緩んでしまいそうだ。
「なぁにニヤニヤしてやがる。怒ってんだぞ俺は?」
「に、ニヤニヤしてないよ! ちゃんと反省してるし!」
「……たくっ、まあいいや。だけどお前。なんであそこまで意地になってたんだ?」
「ん?」
意地……まあ意地にはなってたかもしれない。
「理由は勿論エルフとの同盟を結びたかったからなんだけど。そのためにはああ言う事になるのも覚悟の上だったから……」
「だからあんなボコボコにされたってのか? いくらなんでもあそこまでやる事はなかったろ?」
「うーん、あとはなんとなく、テュッセに正面から挑む人って少ないのかなって? カツオにせよ、護衛の二人にせよ、少しテュッセと距離があるというか」
「そうか? アイツラなんだかんだ仲は良かったろ?」
「そうだね、皆テュッセの事を尊敬してたし、テュッセの事を好きだったと思うよ。でもそうじゃなくてさ。うーん、なんて言ったら良いのかな? そうだけどそうじゃないんだよ」
「……お前が何を言いたいのか俺にはまったくわからん」
ぐぬぬ、上手い表現ができない。うなれ僕の語彙力! 今こそ真の力を見せてくれ。
「あれだよ、多分テュッセは一番強いから皆を守らないといけないと思ってるんだよ」
「ふむ、そりゃそうだな?」
「それで、カツオたちもテュッセを守りたいって思ってるんだ」
「お互いを守り合う、結構なことじゃねえか?」
「だけどさ、テュッセはそれを必要としてない様に見えたんだよね」
「ほう?」
「テュッセのちからはきっと、頭一個も二個も抜けてるんだ。だからあの娘は他人の助けを必要としてない。傍若無人に見えるけど、それは一人で全員を守るっていうあの娘の決意みたいなものだと思ったんだ」
「それであいつが一人孤立してるように見えたから、ぶん殴って力を見せて、自分が守ってやるって言いたかったのか?」
「守ってやるとまでは言わないけどさ、背中ぐらいは任せてもらえるようにって思ったんだよ。テュッセは独りじゃないよって教えてあげたかったんだ。でもまあ、力及ばず負けちゃったけどね……」
あれだけ啖呵きって恥ずかしいけど、僕じゃテュッセの横に並べる友達にはなれなかった。こんなことなら先輩か秀彦に任せたほうが良かったかな? カッコつけて玉砕して……恥ずかしいなあ。
「……は? 何いってんだお前?」
僕が過去の行為を思い出して恥じていると、そんな僕の言葉に秀彦は変な声をあげる。
「お前……ひょっとして何も覚えてねえのか?」
「……?」
え、え?
僕、なんかしちゃいましたか??
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