第六十三話 決戦 ジャイアント爺ちゃん!!

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 ――開戦。


 それを告げる一撃は、開幕の一撃としてはありえないほどの威力だった。斧は肉塊ジャイアント爺ちゃんを斬り裂き、そのまま勢いを止めずに石畳を粉砕する。立ち上る土煙と轟音は、人間が起こしたものとは思えないものだった。


「やったか?」


「いや、ナツメちゃん。流石にそれは無理じゃろ?」


 人間相手であれば助かることは決して無い一撃だと思うのだけど、アメ爺ちゃんはあれでも駄目なのだと言う。


 今日の先輩は、普段使っている聖遺物アーティファクトの斧ではなく、背中に背負った巨大な両手斧で戦っていた。小回りが効いて、色々な技を使える片手斧より、一撃を重視しての事らしい。言うだけあって大斧はものすごい質量をもって、肉を押しつぶしていた。

 まるで火山の噴火のように、至るところから血しぶきを上げるジャイアントじ……ジャイ爺だが、それだけの衝撃を受けていながら、全く意にも介さず先輩へと腕を振り下ろす。人型を保てないほどの衝撃を受けた為逆に腕のリーチは伸びており、腕というより見た目が痛々しい触手の様な状態になっていた。しかし、触れれば必殺。見た目がどれだけ痛々しくても、その驚異に変化はない。むしろ動きが読めずリーチが長いため、より危険度が増しているとも言える。


盾撃シールドバッシュ!」


 触腕の動きは、見た目によらず素早い反撃ではあったが、駆けつけた秀彦が先輩との間に立ちふさがり、その腕を盾でかちあげた。流石姉弟だけあって、二人のコンビネーションはすごい。決して甘くはない触腕の反撃は、尽く秀彦の盾によって阻まれていた。しかし、盾越しでも歪む表情と、わずかに押圧され後退する姿を見れば、それが並大抵の威力ではない事もわかる。


 触腕が秀彦を掠るたびに心臓が止まりそうになる。



「――なぁ、やっぱり斧じゃ潰れるだけで効果薄いんじゃねえか? こいつ全然元気なままだぜ?」


「な!? 秀彦、言って良いことと悪い事があるぞ! お前が斧を馬鹿にすると言うのなら、簡単に人殺しにもなるぞ私は!!」


「怖すぎだろうが!?」


 ――うん、なんか思ったより余裕ありそうだなあの二人。心配してドキドキして損した……


「それでは私が行きましょう!」


「お!?」


 二人の間から、新緑を思わせる髪を靡かせグレコ隊長の剣閃が煌めく。先輩の一撃と違い、ジャイ爺の動きを阻害する事はないが、吸い込まれるように綺麗に肉を切断していく。先輩の斧が剛の技なら、グレコさんは正に柔の剣。その鋭さは、先輩にすら劣るものではないように感じる。


「流石グレコさんだ。ウォルンタースのおっさんが言ってた通り、凄え技のキレだ。やっぱり斧を使うようなのは駄目だな」


「ぐぬぬっ! まだ言うか秀彦。その口に塩を詰めて縫い合わせるぞ!」


「だから怖えよっ!」


 また二人がギャースカ言いながら戦っているけど確かにグレコさんの剣技はすごい。二人がバカなことを言っている今も、ジャイ爺の体はどんどん斬り刻まれて削れていく。この分なら、コアを狙わなくても、肉が全部無くなってしまうのでは? そう感じるほどだった。


 ――しかし、グレコさんに斬り裂かれ、そのまま地面にずり落ちるかのように見えた肉塊は、筋繊維を触手のように伸ばし即座に断面同士を繋ぎ合わせて回復してしまった。切断面が綺麗だったせいか、傷が塞がる速度が早い。こいつ相手に、綺麗な斬撃はむしろ悪手のようだ。


「おっと、これは……」


「あっはっは! どうやら斧の優位性を証明してしまうだけの結果になったようだね!」


「何笑ってんだ、状況悪くなっただけだろうが! あと斧も効いてねえからな?」


 どうやらジャイ爺の筋肉は、ある程度の衝撃で吹き飛ばさない限り、即座にくっついてしまうほどの速度で回復するらしい。更に人型の様でいてそれに縛られない反撃は、思わぬ角度、スピードで繰り出される。これは対人戦に慣れた人間であればあるほど、戸惑う動きだろう。


 そして防具のない箇所を捉えられた場合、触れた箇所がすべて消化器のように肉を溶かし取り込んでしまうようで、うかつに近づけば一瞬で殺されかねない厄介な攻撃だった。その為、今この場にはたくさんの騎士がいるのだが、攻撃に参加できる人間は自然とごく少数に絞られてしまっていた。


 正面から斧を叩き込み、ジャイ爺の動きを怯ませる事の出来る先輩。攻撃の尽くを盾で弾き、更には自身も盾の杭で攻撃可能な秀彦。攻撃力の面では多少二人に劣るものの、鋭い剣技で確実に肉を斬っていくグレコ隊長。あとはこれと言って特徴的ではないけど、総合的に高いレベルで纏まった実力を持つリーデル団長。大体ジャイ爺に接近できているのはこの四人だ。他の騎士は遠くからの支援や、市民の保護などで活躍してもらったほうが良さそうだ。


 ちなみにカローナ殿下はこの戦いに参加しようとしたのだけど、流石に王兄殿下に万が一のことがあってはいけないので、コルテーゼさん達と避難をしてもらっている。本人は僕に良いところを見せると、やる気満々だったらしいけど、却下されてコルテーゼさんに引きずられていった。いずれ僕を傭兵で雇いたいって言ってたから実力を見せたかったみたいだね。でも今回は仕方ない。相手が正体不明すぎる。


 そんな事を考えている間にも攻防は続く。今は秀彦を盾にして、残りの全員がヒットアンドアウェイを繰り返すことで、安定した戦闘を継続できているみたいだ。余裕そうな会話をしているけど、見ているこっちはやっぱり不安でならない。


「――だんだん慣れてきたな。なんだかんだ弱くはねえけど。動きも見えてきたし、このくらいの反撃なら時間をかければ問題なくいけそうだな?」


「ふむ、確かに。トートたちが置いていったにしては手応えがないような気もするけどね。元々こいつは結界発動のための囮としての任務が最重要だったみたいだし、こんなものなのかもしれないね。ただし、最後まで何があるかは判らない。気を抜かずに淡々と目的を果たすべきだと思うよ」


「たしかにな……」


 今の所、ジャイ爺には効率的にダメージを与えられているようには見えないけれど、それでも危なげなく戦えているのは間違いない。あとは、何処かにあるだろうコアの場所を、偶然でも良いので発見することが出来れば。


「その時は僕が……ん?」


 その時、僕の背中に嫌な悪寒が走った。これは魔力的なものとか視覚的なものじゃない。まさに直感、何の根拠もない感覚だった。


 ……だけど。


「ヒデ、皆! そいつから離れて!!」


「ッ!?」


 直後、ジャイ爺の放つ雰囲気が一変した。具体的に何が変わったのかという事は判らないけど、明らかに何かが違う。すごくヤバイ気がする。雰囲気を変えたジャイ爺は、ゆっくりとした動作で腕を交差すると、それを頭上に掲げ、その口(?)から低いうめき声のようなものをを上げた。すると頭上に掲げた手が光り、そこから凄まじい魔力を爆発させた。


「なっ!?」


 刹那、辺りは日中より明るい光に包まれ、空気を震わせるような爆音とともに、僕らを強烈な衝撃が襲った。少し離れた位置に居た僕でさえ、体勢を保つ事すら出来ないほどの衝撃。僕の声に反応して距離をとっていたとは言え、至近距離で食らった先輩と秀彦が大きく吹き飛ばされるのが見えた。


「むぅ、イカン! アヤツめ儂の肉体と融合する事によって、内包された魔力も操れるようになったようじゃ。とはいえ、法術が使えるほどの知性がある訳ではないようじゃ。あの魔力爆発はかなり効率はわるい、ただひたすらに魔力を込めて爆発させたという所か……む、いかん!」


 アメ爺ちゃんの声に前をみると、吹き飛ばされた場所から起き上がろうとしている先輩と秀彦がまず目に入った。そして、より遠くに吹き飛ばされ、未だ起き上がることの出来ないグレコ隊長。


 そして、大きく吹き飛ばされかけたものの、近くにあった木にぶつかり、意識を失いながらも距離が取れなかったリーデル団長の姿が見えた。そして肉塊は当然、近くに居る獲物を機械的に標的とする……


「――リーデル団長、起きて!!」


 悲鳴に近い声が自然と出てしまった。しかし、僕の声にも全く反応しない団長に、無慈悲な肉塊の腕が振り下ろされた。


「させるかよぉ!!」


 動けない僕らが絶望したその瞬間。聞き慣れた声と共に、大柄な影がジャイ爺の前に立ちふさがり、手に持った槍斧でジャイ爺の腕を突き刺した。


「――キース!」


「へ、俺らだってカカシじゃねえんだぜ?」


「いけない、キース、逃げて!!」


 確かにキースが来てくれたおかげで、絶体絶命だったリーデル団長は助かった。だけど、ジャイ爺はキースが一人で抑え込めるような甘い魔物じゃない。出来ればすぐにも逃げて欲しい。申し訳ないけど、キースでは数秒ともたずに、あの腕に捉えられてしまう。そんなのは嫌だ!! しかし、突き刺さった戦斧が深く入ってしまった為に、キースの離脱が一瞬遅れてしまっている。思わず法術発動のための集中を解除して、キースのサポートをしようとした僕に、アメ爺ちゃんから怒声が飛ぶ。


「イカンぞ、ナツメちゃん。ここで動いては、皆の苦労が水の泡じゃ!!」  


「でも、あのままじゃキースが!!」


 動いたらすべて無駄になる、そうは言われても僕は友達を見捨てるなんて絶対イヤだ! でも、そんな僕の気持ちを理解しているかのように、キースは僕の方をみて首を横にふった。なんでお前がそんな顔するんだよ、嫌だよ……


 ――そして、ためらう僕の目の前で、肉塊はその腕を大きく振り上げた。


「くっそ~、やっぱ俺なんかじゃ、主役にはなれねぇか。カッコつかねえな……」


「――いいや、十分だぜ!」


「秀彦!!」


 もうだめだと思った時、肉塊の腕は大きく跳ね返され、宙を舞っていた。秀彦の盾撃シールドバッシュと、先輩の斧が間に合ったのだ。


 確かにキースが稼げた時間は一瞬だった。だけどその一瞬はとても重要な一瞬。時間にしてほんの数秒ではあったけど、その一瞬で秀彦と先輩はジャイ爺に肉薄することが出来た。キースが居なければリーデル団長は間違いなく死んでいた。これは値千金。キースは間違いなくこの戦況を大きく好転させたのだ。


 あとは任せろと言わんばかりに、秀彦が怯んだジャイ爺に杭を打ち込む。更に怯んだ肉塊に追撃として、先輩の大斧の一撃が襲いかかった。


「ま、主役にゃなれないかも知れねえが、リーデルさんの命救ったのは間違いなくあんただキース! 凄え男だなお前は!!」


「全く大したものだよ。あの魔力爆発の中、爆心地に向かって走るなんてね……あとは任せてくれたまえ。君は団長をつれて下がっていて欲しい」


 二人の言葉に頷くと、なんとかその場からリーデルさんを担いで離脱するキース。その元気な背中を見て心底ホッとした。目の前で友達を喪ってしまうのかと……心臓を握りつぶされるような気持ちを味わってしまった。こんなに怖かったのは生まれて初めての事だった。


だけど、みんな無事だった、あとは僕達が……


「……ナツメちゃんや、心優しいナツメちゃんには難しい事かもしれんがの。儂らには使命がある。どんな時でも目的を見失ってはいかんぞい。戦いとは時に非情なものじゃ。全員が目的の為に動かねば、より多くの犠牲を生むのだと肝に命じるんじゃ」


「……お爺ちゃん」


「確かにあれは危険な存在じゃ、どうやら儂の法力も、出鱈目な方法ではあるが使えるようじゃしのう。じゃが、今は信じるのじゃ。彼らは強い、そう簡単に殺されはせんよ」


「……うん」


 そうだね、秀彦も先輩も、それに今駆けつけたグレコさんもとても強い。僕なんかが心配するのは烏滸がましいよね。僕がすべきなのは、ジャイ爺のコアが見えた瞬間を見逃さない事。それが見えた瞬間に、法術を確実に成功させる事。


「先程教えた術は法術とは呼べぬ様な代物じゃ。法術に適正の高いナツメちゃんでも制御は難しい。しかもこの術は、本来なら生き物相手では微弱な魔法抵抗で防がれてしまうようなものなんじゃ。たとえ魔法抵抗が殆どないフレッシュゴーレム相手でも、気が乱れておっては成功せんぞい」


「――はい!」


 言われて気を引き締める。そしてジャイ爺を見据えて精神を研ぎ澄ましていく。僕は皆を信じて、只管に法力を練り上げていくことにした。


 そうしている間にも、戦闘は激しさを増していた。先輩の額を触腕が掠め、少量とは言え血が流れる。前面で攻撃を受ける秀彦はみるみる傷を負い、表情も苦しそうなものに変わっていく。グレコ隊長はうまく攻撃を躱しているいるけれど、あの細身で一撃を受けてしまったらただでは済まないのだろう。


「……みんな、がんばって」


 杖を握る手に力が込もる。皆の姿を見ているだけで、不安でどうにかなってしまいそうだ。だけど、目だけは逸らさない。


 先輩の斧が唸り、秀彦の盾が触腕の一撃を防ぎ、グレコ隊長の剣が肉を斬り裂く。全員が必死の形相で己の仕事をこなしている。皆とっくに限界を超えていた。

 しかしジャイ爺の動きは全く鈍る事もなく、只管に触腕を伸ばし、皆を取り込もうとする。なまじ、見た目がお爺ちゃんに似ているだけに、その異様さが際立っていて吐き気を感じる。命を何処までも冒涜した存在だ……。


 戦いは拮抗し、変化の乏しくなった、しかしギリギリの攻防が続く。やがて業を煮やしたのか、ジャイ爺が再び両腕を頭上に掲げた。


 ……まずい、あれは!?


「二回もやらせっか! 盾撃シールドバッシュ!」


「ギィッ!?」


 再び魔力を放とうとしたジャイ爺だったけど、その予備動作を即座に見抜いた秀彦の盾に上半身をかち上げられ、集めていた魔力を霧散させながら仰け反った。

 そこで立ち止まらずに更に一歩踏み込んだ秀彦は、頭上に上げた盾を振り下ろし、ジャイ爺の顔に叩き込んだ状態で杭を放った。


 勢いよく射出された杭がジャイ爺の頭部を半壊させつつ、そのまま石畳に突き刺さった。縫い付けられた頭部を中心に、ジャイ爺が脱出をしようと体をくねらせる。


「うぉぉ、一応儂と同じ姿をしてるだけに中々直視したくない光景だのう……」


 アメ爺ちゃんがドン引きしているけど、頭部を地面に縫い付けられた状態のジャイ爺はうまく動くことができなくなってしまったようで、体の殆どを無防備に晒してしまっていた。


「ヒデ、よくやった! あとはおねえちゃんにおまかせ!! 双強撃デュアルスマッシュ!!」


 両手斧から聖遺物の斧二刀流に切り替えた先輩の技がジャイ爺の胸部と腹部を同時に切り裂いていく。内臓の類はないものの、おびただしい血が吹き出し、斧に吹き飛ばされた肉が辺りに飛び散った。その時、アメ爺ちゃんがわずかに震え、大声をあげた!


「……ッ!! 見えたぞナツメちゃん、コアは肉塊の右脇腹付近じゃ!」


 アメ爺ちゃんの言葉にジャイ爺の右脇腹を見たけど僕にはよくわからない。でも、アメ爺ちゃんがいうならきっとそこにコアはあるはず! ならば僕がすべき事は唯一つ。僕は練りに練った法力を、アメ爺ちゃんに流し込んでいく。


「汝が痛み、救いたるは癒やしにあらず。受け入れよ、受け入れよ、死は救済なり。裂傷進行聖呪ウンデフィルフェ


 ――法術の逆転発動。


 禁術として秘匿された、ウェニーおばあちゃんの秘奥の心得とおなじく、ツァールトお爺ちゃんの奥義とも呼べる法術。治癒法術を逆転させて発動するそれは、教皇の法力をもってしても、生への執着がある生き物にはレジストされてしまうほど成功が困難な術。しかし、即座に体を回復してしまう、このフレッシュゴレーム相手には、この上なく効果的な一撃。


 スライムや、一部の人工生命などの命への執着の少ない生物にのみ、発動させることが可能な奥義。一度発動すればどうなるのかというと……


「う、うげぇ……」


 あまりにグロテスクな光景に、自分で仕掛けた事なのに吐き気がこみ上げてきた。


 ジャイ爺の右脇腹の傷がまるでそこからめくれ上がるかのように傷を広げていく。まるで熟した果実を割るかのようにめくれ上りその傷口をみるみる広げていく。


 引き裂かれた肉からは勢い良く血が吹き出し、回復呪文で傷が塞がる光景の逆再生のように傷口が広がっていく。これがお爺ちゃんの秘策。回復力の強い魔物であればあるほど有効な攻撃手段。但し、傷口がコアに達して居なければ、いずれ僕の魔力が尽きて再び回復されてしまうけど、傷がコアに達しているのなら、問答無用でコアをむき出しに出来る。


 余波で顔面の傷も広がってえらい事になっているけれど、右脇腹から吹き出す血の奥に、光り輝くものが見えた。この一瞬で僕の魔力は大部分が消費されてしまった。法術の反転というのは、理に反しているので発動そのものが術者に大きな負担となるらしい。


「先輩それを砕いて!!」


「よし、なんともひどい絵面だけど、これで終わりにしよう双強撃デュアルスマッシュ!」


 先輩の一撃は、正確にフレッシュゴーレムのコアを捉えた。ガラスの割れるような甲高い音が響き、それは粉々に砕け散っていった。


「よし、これで肉塊は制御を失うはずじゃ!!


 アメ爺ちゃんの言う通り、ジャイ爺の体はみるみる崩壊を開始し、人の形を保てなくなって行く。声にもならない声をあげ、肉塊はただの肉塊へと還っていった。


「……おわったのか?」


「取り敢えずは、そうみたいだ……ね。まあ、幹部の二人には逃げられてしまったし、聖都も少なくない被害を受けてしまったから、終わりというのはしっくりこないけどね」


 戦闘が終わった安心感から、誰からともなく皆が地面にへたり込んだ。しかし、その顔には達成感や勝利の余韻はなく。皆一様にうかない表情をしている。


「犠牲になった人もいるしね……」


 僕は手に持っていたアメ爺ちゃんをギュッと握った。今回の襲撃は、避難が迅速に行われたおかげで、人的被害はさほど出ていない。それでも決してゼロではなかった。お爺ちゃんもそうだし、騎士団のうちの何人かは森で帰らぬ人にもなっている。


 お祖父ちゃんを目の前でむざむざ殺させてしまったことを、僕は一生忘れられないだろう……


「棗君……」


「そうじゃのう、犠牲になった騎士たちの家族には儂からも侘びと保証をするとしよう。壊れてしまった都市も立て直せばなんとかなるわい。今回は負けてしまったが次回はあのアグノスめをギャフンと言わせなくてはならんな!! カカカッ!」


「……なんで犠牲者が一番元気なのさ」


 ジャイ爺の驚異は退けることができたけど、今回僕たちは何一つできなかった。目の前の小さい勝利に僕たちは全員苦い後味を感じていた。


 アメ爺ちゃんだけはずっと元気だったけど……


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