第六十二話 作戦開始
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――トート達を追って何とか大聖堂地下から外に出ると、何やら肉塊が人の形に変わろうとしている場面に出くわした。不気味に隆起していく肉塊は、非常に気持が悪く、喉の奥から何かがこみ上げてきそうになったけど、今更そんな軟弱な気持ちで戦いの場には立っていない。こみ上げてきたものを飲み込み、蠢く肉塊を
しばらく眺めていると、肉塊はただ漠然と人の形をなしているだけでなく、僕らのよく知る人物の様な形に変化していることが分かってきた。
「ねぇお爺ちゃん……あれって」
「ううむ、なんともいえんが、超嫌な気分じゃのう」
どうやら
「……ねえ、おじいちゃん。ひょっとしてあっちに宿ったら生き返ったりするのかな?」
「えぇ~……流石にあんな気色悪いのに宿ったら、国から討伐されんかのう儂?」
確かに目の前で蠢く巨大お爺ちゃんは、ちょっと人間と呼ぶのは憚られる姿をしている。確かに原型がお爺ちゃんであることは連想されるんだけど、そもそも皮膚の色とかからしてグロイ。
……でも喋る杖ってのも、呪いの杖みたいで浄化されそうじゃない? その辺どうなるのか、この戦いが終わったら相談しないとね。
「うーむ、儂、とっても複雑な気分なんじゃが、呑気に構えていられる状況でもなさそうじゃ。取り敢えず皆のもとに向かうぞい!」
「うん、わかった!」
――――……
そんなこんなで皆に合流すると、全員が目を丸くして僕とお爺ちゃんを見つめてきた。まあ、心配も掛けちゃっただろうし、この状況もよく理解できないだろうね。よし、皆に状況説明しつつ紹介しよう。かくかくしかじか……
「――そんな訳で、こちらがツァールトお爺ちゃん改め、アメ爺ちゃんです!」
「フォフォフォ、元気な紹介ありがとうナツメちゃん! 少々スリムになったが、儂は生涯現役を貫くぞい! インテリジェンススタッフのアメ爺ちゃんじゃ。まあ生涯と言っても人生終わらされてしまったがの! フォッフォッフォ」
「「「……」」」
なんかみんな凄い顔をしている。特にリーデル団長……鉄面皮だったのに、随分表情豊かになられて。僕は今の団長のほうが良いと思いますよ? あと秀彦、そんな顔で僕を見るなよ。今の不謹慎極まりないジョークは僕のせいじゃないぞ! 逆に先輩は表情がなくなって、遠くを見るような目をしている。こちらも珍しい表情なのでちょっとびっくり。
「あー、ちょっと衝撃的すぎて、さすがの私も思考停止してしまった。――大体の事情は分かったけど。本人を目の前に言うのは憚られるけれど、取り敢えず教皇猊下は御崩御なされたという認識で間違いないのかな?」
「うむ、人間としては終わってしまったのう。まんまとアグノスに殺されてしまったわ! あやつめ、孫のように可愛がって育ててやったというに、まったく御孫力を習得出来てなかったようでの。後ろからブッスリとやられてしまったわい」
「……元気な死人だな」
「まぁ、元気が無いよりはずっといいじゃないか」
「そもそもあやつには御孫としての才能が無いのじゃ。まったくガッカリじゃわい!」
アメ爺ちゃんはまだまだ語りたがって居るみたいだけど、このままだと肉塊が動き出すまで喋っていそうなので取り敢えずストップを掛ける。
その横でリーデル団長は顔面蒼白になってしまっていたけど、どうか気を強く持って欲しい。ここは戦場だからね……
他の皆は杖になったお祖父ちゃんを即座に受け入れてくれたみたいだ。あまり深く物を考えない秀彦は兎も角、グレコ隊長や、先輩も順応が早かったのは意外だった。まあこんなに明るく元気に死んでる当人が、気にするなと言ったらそうなるかもね。本当に元気なお爺ちゃんだ。
「こりゃ、団長。そんな顔をするでないわ。見よ、今まさにこの大聖堂を脅威が襲っておるのじゃ。お主がそんなでどうする!」
「は、はっ! 申し訳有りません」
勢いよく杖に敬礼を取るリーデル団長。僕が持つ杖に向かって教会聖騎士団長が最敬礼をしているこの絵面、なんともシュールな気がする。
ぱっと見僕が敬礼されてるような風に見えているのでちょっと偉そうに胸を張ってみる。ふふんリーデル君、苦しゅうないぞ。
……なんか秀彦と先輩の視線が痛いのでやっぱりやめておこう。
「――と、取り敢えず戦いの話をしよう。アグノスとトートはこっちにも来たのかな?」
僕は辺りを見渡したけど、あの二人の影は見えない。もし居るならこんなに悠長に会話なんか出来ないから、居ない事は分かっていたんだけどね。
「ああ、何かすんなり帰っちまったぜ。この状況であんな奴らの相手するのはキツかったから正直たすかったがな」
秀彦が珍しく弱音とも取れることを言うが、確かにトート一人でも僕らが相手をするのはかなりキツイ。マウス君も先程の戦闘で疲れ果ててしまって、今は大聖堂の中で避難民の皆さんと一緒に眠っている。
「――と、いうことはじゃ。残りの問題はあの肉塊だけと言うことじゃな?」
「うーん、呼び名がないと不便だね。でっかいお爺ちゃんだからジャイアント爺ちゃんってところかな?」
「それはやめてくれんかの?」
それにしてもあの肉塊、先輩と秀彦とグレコ隊長。さらには教会騎士団全員で戦っても倒せなかったらしい。ダメージらしいダメージを与えても即座に回復してしまう肉塊……。その上、深く斬り込むと、今度は肉を触手のようにして、体内に取り込もうとしてくる。ものすごく厄介な相手みたいだ。
「アメ爺ちゃんは、あれが何だか解る?」
「取り敢えず私達が戦った感触では、あれはアンデッドなのではないかと思うんだけどね?」
「……ふーむ、ナツメちゃんや。儂を掲げて
「え、うん。えーとそれじゃあ。
僕の法力が杖を伝って法術となり迸る。いつもより少ない法力ですんなり発動したそれは、その消費量とは裏腹に、普段の僕が詠唱付きで放った
「なんで? 僕こんな威力で放ってない……」
「ふぉふぉ、これがアメ爺ちゃんの教皇の力じゃ! 儂が触媒になる事によって、本職ではない聖女の
アメ爺ちゃんに促されて
「……ふむ、一応の効果はありか。死の魔力は感じるが、どうやらあれはアンデッドではないのう」
「え、
「うむ、一応死肉を使っているのでそういう側面はあるがの。
「ふむ、死肉で動くゴーレムと言った所なのかな? アンデッドとは何がちがうんだい?」
僕が意味がわからず混乱していると、先輩がうまく質問をしてくれた。よし、これに乗って分かったふりをしながら相槌を打っておこう。
「うむ、恐らくトート=モルテの魔力で、無理やり死肉を集めて作ったのじゃうが、その身はアンデッドと生者の中間のような奇妙なバランスで成り立っているようじゃ。動物的な意味での生命活動は行っておらんが、さりとて死肉というわけでもない」
「私達がいくら攻撃しても再生するあの治癒能力は?」
「構成する肉は、中心となるゴーレムコアに集まっているだけの物じゃ。
ふむふむ、なるほどね、解らない……
「では棗君の
お、僕の出番? さり気なく一歩前にでる。
「いや、あれを倒すのであれば表面を多少焼いても意味がない。コアを露出させて叩くしか無いのじゃ」
む、どうやら僕の出番ではなさそう? 目立たないようにちょっと下がる。
「コアの位置はわかりますか? ――あと棗君、今は真面目な話してるから大人しくしててね?」
「……あう」
先輩に注意されてしまった。昔からこの人が真面目にやってる時は、ちゃんといい子にしないといけないのだ。僕は大人しくアメ爺ちゃんの台座としての職務を全うしよう……僕は台座、僕は台座。お話の邪魔はいたしません。
「うーむ、はっきりとは難しいが、大体の場所が判れば、露出させる手段はあるぞい。そこはナツメちゃんと儂に任せるが良い。勇者様方はとにかくあの肉に攻撃を加えてくだされ」
「了解、行くよ秀彦!」
「おう!」
「教会聖騎士団も続け!!」
「「「はっ!!」」」
皆が武器を構えた。よくわかんなかったけど戦闘だね? それなら僕もお役に立つよ!!
「あ、ナツメちゃんはストップじゃ!」
「ふぇぇっ!?」
僕も参加しようとしたところでアメ爺ちゃんがストップをかけてきた。なんで? 僕もみんなのサポートしてお役に立ちたいんだけど?
「ナツメちゃんには別のお仕事じゃ。そのためにタイミングを図る必要があるからの。とてもではないがさっきの様な曲芸じみたフォローはできん。皆には通常の
「う、うん」
どういう訳か分からないけど、アメ爺ちゃんが言うならきっと意味があるんだろう。僕は言われた通りの強化を施し、
それでも強化術の発動が戦闘開始の合図になったらしい。皆はいよいよ人型と化した
「すまんのう、今は意味がわからんかも知れないが儂を信じておくれ。とっておきの作戦があるのじゃ。」
「うん。アメ爺ちゃんが考え無しにこんな事言うとは思ってないから信じるよ。僕は何をすればいいの?」
「うむ、うむ、ナツメちゃんは素直で良い子じゃのう。耳を貸しておくれ……」
別に小声でやる必要は感じないけど、僕とアメ爺ちゃんは秘密の作戦会議を開始した。アメ爺ちゃんの作戦は、正直耳を疑うような内容だったけど、確かにこれを行うなら他の術に気を割いている場合ではないのかも知れない。ていうか、そんな事が僕に本当に出来るのかな?
「と、言う内容じゃ。わかったかの? タイミングを見誤っちゃだめじゃぞ?」
「う、うん」
作戦遂行のために僕は集中しつつその
――――……
「――それじゃあ始めようか」
先輩の斧が
「……ところでナツメちゃんや。頭の中であれの事なんと呼んでおるのかの?」
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