第十二話 紙芝居と魔女
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僕が紙芝居を取り出すと、珍しいものに気を取られたのか、子供達は僕の不気味な風貌よりそっちが気になりだしたらしい。よしよし、僕も全力で紙芝居を読むよ!!子供達がキラキラした目でこっちを見ている。かわいい……。
僕が紙芝居を読み始めると、子供達はのめり込むようにお話に集中し始めた。やっぱり娯楽が少ないからこういうのは珍しいんだろうな。継母にいじめられるシンデレラに感情移入して泣きそうになっている子もいる。こんなにリアクションがあると、製作者としても嬉しい限りだ。
「……そして置いてけぼりになったシンデレラが泣いていると」
「泣いていると?」
聞いてきた女の子も泣きそうな表情だ。
「そこに魔女が現れて魔法を使い、かぼちゃを馬車に、ネズミを白馬に変え、更にシンデレラの来ていたボロボロの服をドレスに変えたのです」
「えー、魔女すごい!!魔女のおねえちゃんもそれできるの!?」
さっき泣きそうだった女の子が、今は満面の笑みを浮かべている。
「どうかなぁ、ふふふー」
「ぜってぇできるよ!!だって魔女ねえちゃんの顔超怖いもん!紙芝居の魔女も仮面つけてるし、絶対姉ちゃんだよこれ!」
「うぐっ……」
顔が怖いはちょっと刺さる。だ、大丈夫、この子は僕の顔を見たわけじゃない。この仮面のことを言ってるんだ、落ち着けーおちつけー。
それにしても、流石は世界に名だたる名作。僕が作ったちょっと怪しい絵でも子供のハートを鷲掴みしたみたいだ!皆キラッキラした目をして食い入っていた。しかもさっき迄マイナスイメージだったこの仮面も、紙芝居に登場したせいで逆に大人気。計算通り!!!少し傷つくことを言われた気もするけどなっ!
話は佳境に入りいよいよ子供達の顔が輝いていく。……って何故かウォルンタースさんとリザさんも食い入ってる。やっぱり名作っていうのは世界をまたいでも良いものなんだなあ。
「……――そしてガラスの靴はシンデレラの為に誂えたかのようにピッタリでした」
「おぉー」
「こうしてシンデレラは王子様と結婚することが出来ました、めでたしめでたし」
「わー」
パチパチパチ
「すごい、すごいー。魔女お姉ちゃん面白かったー」
「むふふふ、楽しんでもらえて魔女姉ちゃんも嬉しいよ」
怪しげな仮面を着けてふんぞり返る少女を不気味がる子供はもう一人もおらず、これを見たウォルンタースは嘆息する。彼の、いや彼らの目的は、仮面を怖がる子供達を前に、仕方なくナツメ自身に仮面を取らせるのが目的だったのだが、まさかナツメがこんな所で意外な才能を見せつけるとは思っても見なかった。怪しい仮面を身に着けていながら、子供達に囲まれて笑う彼女の姿は意外なことに聖女然とした、楚々たる姿に見えた。
「……ですが、ナツメ様は見た目は恐ろしい方ですのに、声が本当にお綺麗ですねえ。しかもあの絵もご自分で描かれたのですよね?」
「うむ、私も驚いているよ。まさかこうもこちらの狙いを華麗に躱されるとは……」
「狙い、ですか?」
「――あ、いや、気にしないでくれ、こちらの話だ。それに予定とは違うが、これはこれで彼女の徳を積むのには役に立っている訳であるから何の問題もない。むしろ、彼女が聖女に足りる人物であると再認識させられたのだよ」
「はぁ……」
「ん?」
なんかリザさんとウォルンタースさんが難しい顔して話しているなー。どうしたんだろう?
――……あ、段取りとか飛ばして紙芝居なんか始めちゃったから色々都合が悪かったかな?異世界に来てご厄介になろうっていうのにいきなり迷惑かけちゃまずい、ここは日本人奥義、平謝りをしておこう。
「あ、あの、すいませんでした」
「え?え?」
「突然勝手なことをしてしまってご迷惑だったでしょうか?」
「あ、ああ、大丈夫ですよ、どうぞ頭をお上げください。それより珍しいものをありがとうございました。子供達も大喜びでございました、もちろん私も。あれは聖女ナツメ様が考えられた物なのですか?」
「いえ、あれは僕の故郷に古くから伝わる子供向けの娯楽ですね。紙芝居といいます」
「あらあら、ナツメ様のお国ではこのようなものが、ふむふむ……」
ニコリと微笑むリザさんの顔を見て僕も安心した。どうやら本当に迷惑ではなかったみたいだ。
すると後ろからドスッと小さいものが体に突っ込んできた。不意打ちを食らった僕はもんどりうって吹き飛ばされ、思いっきり地面に叩きつけられる。とても痛い……。ぶつかってきたものは小さかったけど勢いが凄くて思いっきり吹き飛ばされた。
「グフッ!!」
「魔女ねえちゃん、魔女ねえちゃん、今日はずっとここで遊んでくれるの?」
「つぎは鬼ごっこしようぜ」
「私はおままごとしたいのー」
次々倒れた僕の上に小さいのが乗っかって来るのを感じる。グェツ、また増えた。
「ちょ、ちょっとアンタ達!その方は聖女様で……ッ!?」
慌てるリザさんの声が聞こえる、上に乗ってるのは子供達か。小さい子供も沢山乗ったらそりゃ重いよね。
「うぐぅ、ちょっと皆、ちゃんと遊んであげるから上からはどいて……」
頭を振りながら起き上がる、まずい、軽く脳震盪になってる。子供パワー恐るべし。
「!!」
「……魔女ねーちゃん?」
ん?何だろ、皆が固まってる……?なんだ、何で皆僕の顔見てるんだ?
「……魔女おねえちゃん、綺麗」
ん?ん?何だろう?ウォルンタースさんが親指立ててる。リザさんは、なんかうつむいて震えてる……?何やらただ事ではない雰囲気のリザさんは、突然ガバっと僕の方に顔を向け、僕の顔をがっしりと掴む。
「メ……」
「め?」
「メッチャ美少女ヤンケェェェェェェェェェェェェ!?」
「ひえっ!?」
突然顔をあげたリザさんはものすごい形相で突然怪鳥のような声を張り上げた。
一体……何事!?
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