第十一話 良い魔女さん
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「先程は失礼いたしました。一応その……聖女をやっております、棗と申します」
意識を取り戻したシスターが僕を見て、再び変な声を上げて意識を失ったのを、無理やり回復魔法で介護して改めて挨拶をする。初めて使う回復魔法がこれと言うのもなんとも言えない気持ちになるけど、僕にも回復魔法が一応使えたことに安堵する。
何の前知識もなく行使した力だったけど、使おうと思ったら自然と頭の中に使い方が浮かんできて、すんなり使うことが出来た。他にも色々出来るみたいだから、取り敢えず使う機会が来るのが楽しみだ。
「ひ、あ、へ!?せ、聖女様……?呪術師様ではなく?」
「正真正銘聖女様です、シスター。あなた自身、今聖女様の奇跡を見られたでしょう」
――奇跡――
この世界に於ける回復魔法は聖職者が扱うものなので”魔”法とは呼ばないらしい。基本的には魔法と同じ様に魔力を使用して発動する事象ではあるらしいのだけど、回復魔法だけは個人が内包する魔力の他に、信心と功徳とか言うものにその効力が左右されるらしい。そのため、他属性の魔法とは異なり”奇跡”と呼ばれているのだとか。あと教会では魔力のことは法力と呼ぶのがマナーらしい……何だか紛らわしいね。
今回、僕が教会を訪れたのもこの功徳を積むのが目的で、この教会に隣接されてる孤児院に慰問するのが目的だったりする。子供は大好きだから楽しみすぎて、昨日は一日かけて秘密兵器を作ってたりもする。実はそのせいで結構寝不足なのだ。
「こ、これは聖女ナツメ様。あの……大変失礼いたしました。は、申し遅れました聖女様。私、この教会でシスターをしておりますリザと申します。」
「いえいえ、こちらこそ驚かせてしまった様ですいません。一応、聖女と言われております棗と申します」
「あ、はい。ご丁寧にどうもありがとうございますナツメ様。と、所で……あの……そのー」
深々とお辞儀をして謝意を見せたシスターだったが、チラチラとウォルンタースさんと僕に対して交互に視線を送る。
言いたいことは分かるけど僕は何も言わず知らん顔決め込むよ、この仮面の下はトップシークレットなのだ。こういうときはこの仮面はすごく便利だね、完璧なポーカーフェイスを決め込む事が出来るからね。
――む、ウォルンタースさんまでこっちをチラチラ見てるなあ。ウォルンタースさんは事情知ってるんだからそっとしておいて欲しいなぁ……もう。
「と、とりあえずシスター。自己紹介も済んだことだし、早速子供たちのもとに案内してくれるかね?」
「は、はい、こちらへどうぞ」
――――――……
僕たちが案内されたのは、教会横にある木造のこぢんまりとした建物だった。見た感じ少し古びているがしっかりした造りをしており、中からは子供達の声が溢れている。楽しそうだ。シスターは僕らにここで少し待つように指示をした後、一足先に建物に入っていった。
「はーい、みんなーしずかにしてー」
「あー、シスターだ、おはよぉございます!」
パンパンと手をたたきながらシスターが入ると、子どもたちが明るい声で挨拶をする。うん、元気が良くて可愛らしい。だけどしっかり躾もなされているんだね。孤児院と言うからもっと良くない環境を想像していたけど、ここマディス教会孤児院はとてもいい場所のようだ。
「今日はみんなの為にお城からお客さんがいらっしゃってます、みんな席についてくださーい」
「「「はーい!」」」
ずいぶんと教育が行き届いている。さすが教会ってことなのかな。みんな良い子ばかりで可愛い、早く紹介してくれないかな。そんな事を考えていたらシスターが入り口に向かって声かけてきた。
「それではまず、みんなも知っている騎士団長様、ウォルンタースさんでーす」
「やあ、皆。久しぶりだね、おじさんを覚えているかい?」
「ウオォォォオオォオォォオォォオオ!!」
ウォルンタースさんが紹介された瞬間に沸き起こる歓声、すごい!そうか、騎士団長様って子どもたちにとってみたらヒーローみたいなものなのかも。ウォルンタースさん凄い人気!さっき迄行儀よく静かにしていた子供達が一瞬で動物園状態だ。あぁ、髪の毛は止めてあげて、それは貴重なものなのだ!
「さあ、皆しずかにー。今日はもう一人、凄い方がいらっしゃってますよ!」
「キャーーー!」
騎士団長の登場にボルテージマックスになった子供達が、もはや悲鳴のような歓声を上げる。僕への期待値がすごい高い。誰だろうねーとか、女王様かな?色々な予想が聞こえる。
「それでは紹介致します。勇者様のお仲間で、聖女様をされていおります。ナツメ様です!!」
「ウォォ……キィャァァァァァァァァ!?」
あれ、僕が登場した途端、悲鳴のような歓声が、ただの悲鳴になってる?
「キャァァァァアアァァァ、コワイィィィ!!!」
「シスター、シスター怖いのがいるよぉ!?」
「み、皆、落ち着いて、あのお姉さんは聖女様だから怖くないのよ?」
「う、ウソだぁぁぁぁ、怖いよぉ!!」
う、そうか、この仮面……子供達にはインパクトがきつすぎるのかー。この仮面、性能は素晴らしいのだけど、デザインがとっても化物チックなんだよなあ。かと言ってこれを外して登場して、仮面じゃなく、素顔でも悲鳴上げられたら流石にショックが大きいしなー。
そ、そうだ……。
「やぁ、みんな。こーんにちはー!」
僕は大声とオーバーな動きで皆に挨拶をする。突然の大きな声とへんてこな挨拶の動きに呆気にとられた室内は静まり返り、全員の視線が僕に集中する。よしよし、こっちに注目しているね。
「ふふふ、僕は今日、皆とお友達になるために来た、良い魔女さんですよー」
「良い魔女さん?」
「そうだよー、今日は魔女さん。皆と仲良くするためにこんな物を持ってきましたー」
なるべく優しい声を出しながら僕は持ってきた秘密兵器を取り出す。これが今日の僕の秘密兵器!
「じゃじゃーん、紙芝居でーす!」
「かみしばいー?」
「なにそれー?」
ふっふっふ、恐怖一色だった子どもたちの目が、恐怖から好奇心へと変わっていくのが分かる。計画どーり!
この世界の娯楽は演劇や音楽や絵画など、思った以上に多岐にわたる。だけど、これらは所謂貴族の娯楽であって、一般市民にはあまり馴染みがないらしい。製紙技術や顔料も存在はしているが、これが一般市民に浸透しているかと言うと、まだそこまでの普及はしてない無いらしく、町中で行う紙芝居のような大衆向け、それも子供をターゲットとした娯楽は未だ未発達なんだって。
孤児院行きが決まった時、僕はメイドさんやウォルンタースさんに子供向け娯楽について聞いて、これだと思った。これなら僕でも作れるし、きっと子どもたちにも喜んでもらえると。そして、女王様にお願いして道具を揃えてもらって徹夜でこれを仕上げてきたのだった。だから今、僕の仮面のしたの顔にはクマがあるかもしれないので、今日だけは特に仮面を絶対に外すわけには行かなくなってるんだよね。クマのある顔面男聖女は中々のインパクトクリーチャーだ。
「それじゃあみんな、魔女さんの紙芝居のはじまりはじまーりー」
「わー(パチパチ)」
こうして恐ろしい風貌ながらも子供達のハートを掴んだ僕は、紙芝居”シンデレラ”を読み始めるのだった。ワクワクした子供達の顔がまぶしいぞ!水飴とか持ってくればよかったかもしれないね。でも、これでこの仮面を外さないでも、みんなと仲良く出来る道が見えてきたぞ!
――って、なんでウォルンタースさんはちょっと不満そうな顔をしてるのさ……。
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