第六話 ゴリラの自己紹介
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――――……
「……さ、先程は大変なご無礼を!申し訳ありませんでしたぁあぁぁぁっ!!」
「ぅえぇ!?」
お城の超豪華な客室に通されてお風呂の準備をしていたら、ドアの前に土下座で縮こまった巨漢のおじさんが居た。なにをいってるかわかr……。
って、このいきなり土下座したから顔が分からなかったけどこの鎧、さっき首チョンパ寸前だった騎士団長さんだ……。
「ちょっと、こんな部屋の前で困りますよ!?と、とりあえず顔を上げてください」
廊下でメイドさんたちが何事かとこっち見てるので早く立ち上がってもらいたい、切実に!
……で、結局何事なのかと言うと、先程僕に槍を向けた事の謝罪の続きだったらしい。生真面目な人である。
「我が祖国サンクトゥースを救いに来て下さった聖女様に刃を向けたご無礼、謝罪などでは済まないと思い、先程女王陛下に聖女様の警護を願い出ました。これより先、いかなる危険からもこのウォルンタース=アニムスが盾となり、お守りいたします」
「えぇ……あの場合、いきなり現れた怪しい仮面の闖入者に当然の反応だったと思いますし、それにうちには盾となる
僕の言葉にやっと頭をあげてくれたウォルンタースさん。どうもこの国の偉人は真面目な人が多いね。何となく偉い人って尊大な態度取る人が多い印象持ってたんだけど、女王様も騎士団長さんもすごく腰が低い良い人たちだ。
そんなウォルンタースさんなんだけど、何か様子が可怪しい。何かを聞きたそうな素振りをしてるような?なんだろう。もじもじする巨漢中年……怖いぞ!
「ウォルンタースさん、どうかしましたか?」
「あ、いや、その……ですね。気を悪くしないで欲しいのですが、聖女ナツメ様は何故そのような仮面をずっと被っておられるのですか?」
「!」
あー、
「えと、まずはこの仮面は女神様から授かったアーティファクトで、色々な効果を持っているのが理由の一つです」
「なるほど……理由の一つと申しますと他にも理由が?」
「うぅ……やっぱり気になりますか」
うぅ、緊張する。だけど、それなりに権力ありそうな人に予め見てもらっておけば、何かのときに味方になってくれるかもしれないしなあ。それにいきなり女王様に見せるのも気が引けるし。……はぁ、丁度いいか、ウォルンタースさんには味方になってもらおう。
「顔……です」
「顔?」
「僕の顔、恥ずかしいんですけど男みたいな顔をしてるんですよ。なので、あまり他人に見られたくないんですよ」
「なんと……そのような理由で、それはさぞお辛いでしょう。ですが、私はこの身を賭して聖女ナツメ様をお守りすると決めた身でございます。どうか私しか居ない場所ではそのようなことはお気になさらず窮屈な面はお外しください。」
「えぇ~……」
うーん、すごい真剣な顔をしてるなあ。多分すごく真面目でいい人なのだろうけど、流石に男顔聖女のデビューは緊張する。多分凄く驚くと思うし。おぉう、めっちゃみてる……。顔大きいなあ。
「うぅ、分かりました、どうせ食事のときにも見られちゃいますもんね。笑わないでくださいね?」
「もちろんです!」
意を決して仮面を外す。目の前で息を呑む声が聞こえたので見上げると、目を見開き固まるウォルンタースさんが見えた。あぁ、まあそうなるよね。僕は覚悟していたはずなのに、自分でも驚くほど気分が沈み、再び仮面を着け直す。これは自分で思っていた以上に相当ひどいなあ、何とか食事は部屋に運んでもらえるように頼んでみよう。胸が、ちょっと苦しいや。
「……変なもの見せてしまってすいませんでしたウォルンタースさん」
「ぅえ!?え?は、あ、ちがっ……!?」
僕は素早く仮面を着け直すと隠密を起動して風呂場に向かう。後ろでウォルンタースさんが何か騒いでいるけど何も耳に入らないや。僕ってこんなに傷つき易かったか?良く分からない。頭がまわらない。
……早くお風呂でスッキリしよう。
僕が隠密を展開しつつ風呂場と聞いていた施設の前まで来ると、左側にはこちらの世界の言葉で”男性”右には”女性”とある。
「驚いたな、何でか分からないけど文字が読めるようになってる……」
そう言えば言葉も普通に通じてたけど、あれって日本語じゃなかったね……この辺は女神様のサービスなのかな。よくよく思い出してみたら、彼らは別に日本語を話している訳でも無い。でも僕たちはそれを聞き取れるし、僕ら自身もその言語を自然に話していた。
扉を開けると中からは水を被る音などが聞こえてくる。どうやら先輩たちはもう既に入ってるみたいだ。僕も早く入っちゃおう。
―――― side 秀彦
いやぁ、何ていうか怒涛の展開だな。いきなり異世界転生もびびったが棗の
それにしても……。
「この風呂すげえなあ。まあ個人用では無いようだから広さは分かるんだけど、なんだろうねこのゴージャスな風呂は。大理石か?」
黒い大理石?なんかそんな感じの石で出来た風呂はまるで、えーと、あれだ?何ていうか、あれだよ、うん、ゴージャスってやつだな!うん。
そんな感じで一人、巨大大理石風呂を楽しんでいると扉の開く音が反響して聞こえてきた。
んぉ?誰か入ってきたな、よし、親睦を深める裸の付き合いってやつをやってみるとするか。先手必勝、俺の自己紹介を見よ!
「よぉ、俺は秀彦、今日からここで世話になる事になったんだ!よろしくな!」
決まった!完璧なる自己紹介だ……
あ、しまった、初対面なんだから敬語使うべきだったか。ま、年上っぽかったら修正すればいいか。
「しってるよ、バカゴリラ。前くらい隠せよな、お前」
「な……!?」
――――――……
なんだ?風呂に入ったらでっかいゴリラが居ると思ったらやっぱりゴリラだった。
「よぉ、俺は秀彦、今日からここで世話になる事になったんだ!よろしくな!」
湯気でこっちが見えてないのかな?
て、言うか初対面に話しかけてるつもりなら敬語使えよ。うわ、全裸で仁王立ちしてる。すっごい頭悪そうだ。こう言うところが顔が整っていてもゴリラに見える所以なんだろうなあ。葵先輩も顔が整った変態だしなあ。この姉弟はやっぱりどこかが似てるよね。
「しってるよ、バカゴリラ。前くらい隠せよな、お前」
む、でっかいなこいつ……。ちょっと顔が熱くなったぞ……ん?なんでだ?
「な……!?」
秀彦は変な顔で硬直すると、こっちを上から下まで三往復ぐらい凝視してきた。なんなんだ、とりあえず僕はこの硬直全裸ゴリラを無視して体を洗う事にした。ふう、こっちのお風呂はどんな物かと心配してたけど、現代日本と比べても遜色ないどころか、作りは完全にこっちの勝利って感じだね。こんな広いお風呂に入れるなんて楽しみだ。
体を洗い終えて風呂に近づく。ゴリラの硬直は未だ解けてない。いつまで仁王立ちしてるんだ、その醜い物をしまえ、森の紳士。
「き……」
お、起動した?
「キャァァァァァァァッ!!!!」
絹を、いや、ゴムを引き裂くような野太い悲鳴!なんだなんだ!?
「なにしてんだよ、お前、わっぷ!?」
「何してんのはお前だバカ!」
戻ってきた秀彦は、手にした布で僕を簀巻きにしていく。おい、お前目をつぶってるから偶に僕の顔とか殴ってるぞ、やめろ!地味に痛い。
暫くグルグルと布を巻き付けた秀彦は、簀巻きにした僕を担ぐとそのまま何処かに走っていく。
「姉貴!姉貴ぃ!!痴女だ!
何だよ痴女って。
「ありゃりゃ。棗君。駄目じゃないか、こう言うのはこっそりやるのがマナーってもんだよ?壁の穴とかそういうのにロマンがあるんじゃないかね?堂々と全裸を晒しながら凝視するというのも、それはそれで私は好きだけどね」
「モガモガ……」
「姉貴、馬鹿なこと言ってないでこいつを引き取ってくれ」
「まっかせなさい」
なんだなんだ!?なんか僕を担いでる腕が細くなって柔らかい感触が……どうなってるんだこれ?
「さて、それでは私と一緒に珠のお肌を磨こうじゃないか棗君、ゲヘ、ゲヘヘ……じゅるり」
「モガモガ!?」
おい、秀彦?お前まさか僕を
おい、秀彦、ヒデ!?何で何も言ってくれないんだ……?
「モガモガーーーーー!!」
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