第七話 男顔面女体クリーチャー




「それで、なんで棗君は頭部だけミイラみたいになってるんだね?」


「……フシュー」


 友達だと思っていたゴリラに酷い扱いを受けた僕は、事もあろうに女湯に放り込まれてしまっている。やっぱり仲良くなったと思っても野生動物と真に心を通わせることは出来ないらしい。性転換で傷ついている友人の気持ちも蔑ろにするゴリラには二度と心を許さない!ちょっとオッパイがついて、あるべきパオーンがなくなったぐらいで何なんだよ。顔は男のまま変わってないんだから湯船に入ったら前と変わらないだろうに。本当にあったま来たぞ。


 そんな訳で、僕は今先輩と一緒にお風呂に入っている。顔面男女体というクリーチャーになった僕は、先輩の裸を見るわけにもいかないのでさっきのタオルを顔全体に巻いた状態でお風呂に入っている。息苦しい……。でもこの布を取るわけにはいかない。なにせこの湯船には……。


「あの、聖女ナツメ様。そのような格好ではお辛いでしょう。何故頑なにそのような格好を成されるのですか?」


「……フシュー」


 そう、何故か女王様も入っているのだ。先輩だけならまだしも、女王様と一緒にお風呂とか罪深いからね、目隠ししつつ顔も隠せる僕のこの格好は理にかなってると言える、うん。


「私は騎士団長を硬直させるほどの醜女でございますので、女王様の前でこの素顔を晒すわけにはいかないのです」


「棗君、騎士団長に顔を見せたのかい?」


「……うん」


 さっきの光景が頭に浮かんできて少し胸がズキリと痛む。分かっていた事ではあるけど、面と向かってああ言うリアクションがあると辛いよね。


「まぁ……騎士団長がそんなご無礼を……?申し訳ありません棗様、今すぐ彼の者の首を討ってまいります」


「わー、わー、止めてください、悪気があってのことではないんだと思います。お咎めは無しの方向で」


 女王様おっとりとした美人なのに結構すぐ騎士団長の首を刎ねようとするなぁ……それだけ勇者は重要って事なんだろうか?怖い、怖い。迂闊なこと言えないね。そう言えば日本でも皇族の方々は迂闊なこと喋れないって聞いた事あるもんなあ。気をつけ無いと何時か僕の一言で誰かの首が飛びそうで怖い。


 そんな事を考えていたら、先輩が変なことを言い始めた。


「素顔をみた騎士団長が変なリアクションね……うーん、どうも棗君は自分のことを大きく勘違いしてるんじゃないかい?」


「……え?」


「それにだね、棗君。私はオフロスキーな一日本人として、君のその蛮行を看過することは出来ないんだよ、これを機に君は色んな事を知るべきだと思うな」


「……え!?」


「そうりゃ!!」


「うひゃ!?」


 笑顔で接近してきた先輩に突然頭のタオルをひっぱられる。


 痛い!!首がもげるよ!?


「ぬ、これはなかなかしぶとい……」


「っほ……」


 流石に湿ったタオルを強引に引き剥がすのは無理と諦めてくれたみたいだ、危うく首の骨へし折られるかと思ったけどね!危ない危ない……。ちょっとだけタオルがズレたせいで少しだけ前が見えるようになった、これなら逃げられるかな?


「あの、あの、アオイ様。あまり御無体を働かれるのはナツメ様があまりにも可哀想なのではないでしょうか?」


「いえいえ、女王様これは絶対に必要な事なんですよ」


 何が必要なことなの!?意味がわからないけど身の危険を感じた僕は、慌てて湯船から立ち上がる。


 ……うう、立ち眩みが……そりゃ頭にタオル巻いて入浴して、更に勢いよく立ち上がったらこうなるかって……ええ!?


「さぁ、覚悟したまえ棗君……大丈夫、初めて使うけど、なんかこれは上手に使いこなせる気がするんだ」


「もごー!?」


「ア、アオイ様!?」


 先輩は何処から取り出したのか、その両手にアーティファクトの斧を携え、こちらに寄ってきた。やばいやばい目が本気だ。なんか斧を舐めながら笑ってるよ。怖っ!?僕は慌てて頭部に巻いたタオルを自分で外そうとしたけど、それより早く何かが眼前を通過したような気配を感じた。


「うん、思ったとおりに振れる、これなら行けそうだ。棗君動いちゃダメだよ?」


 ぺろりと斧を舐めながら接近する先輩。


「ストップ!先輩。自分で外しますから!」


「む、そうかい?それなら私もこんな物は仕舞うとしよう」


 にっこり笑って斧をなにもない空間にしまう先輩。畜生、全部計算ずくの行動か~。あー、もう女王様があたふたしてるよ、可哀想に。て、言うかその空間に物しまう能力はなんなんだ。僕知らないぞ、それ。


 シュルシュルとタオルを解くと、ひんやりと外気が顔に触れて気持ちがいい。心地よさにため息を付いて

目を開けると、そこには仁王立ちでドヤ顔きめてる全裸の先輩と、目を丸くして固まってる女王様が居た。あぁ、やっぱりそうなるよね。銀髪男顔の聖女なんて不気味なもの突然目の前に出されたらそうなるよね。……うぅ、分かっていてもやっぱり傷つくなあ。


僕は解いたタオルで顔を半分隠してお風呂から上がることにした。


「そ、それじゃあ僕は上がるね、女王様、変なもの見せてすいませんでした」


「え、あ?ちょ、お待ち下さいナツメ様!?」


「ブヘッ!?」


 いきなり腰のあたりを掴まれて足を滑らせた僕は、頭からお湯の中に突っ込んだ、濡れたタオルのせいで呼吸が……あ、ダメだこれ……死ぬ。


「ちょ、セシリア!?棗君白目向いてるよ?」


「あ、あわわ、私なんてことを、ナツメ様!ナツメ様ー!?」


「ゴボボゴボボ……」


 慌てる女王様の声を聞きながら僕は意識を手放してしまった。




 ……――――――




 ……見慣れない天井だ。


 あれ、ここって僕の部屋じゃないな?僕の部屋もゴージャスだったけどこの部屋はもっと凄いな……。


 起き上がった僕の肩からサラサラと銀髪が流れ落ちる。


 ああ、そうか、そう言えば今はファンタジーな世界に居るんだったね。


「ナツメ様……お目覚めになられましたか?」


「女王様……?」


 ふと声の方向を見ると心配そうな表情を浮かべた女王様が座っていた。あー、なんか思い出したぞ、お風呂で窒息して意識失ったんだったね。僕は上体だけ起こすととりあえず自分の格好を見る。薄いシルクのような素材で造られたヒラヒラとしたワンピースっぽい寝間着……ネグリジェ?っていうのかな、そう言う服を着せられていた。薄桃色のそれを見下ろすと、自分の姿が悍ましいことになっていそうで不安になる。


「ナツメ様、先程は申し訳ありませんでした」


 女王様は僕が起きたのに気がつくと、それはもう深ぁーく頭を下げて謝罪をしてきた。


「あ、いや、こちらも変なもの見せてしまったのでお互い様ですよ」


 僕の言葉に女王様の顔が少しこわばるのがわかった。ああ、そんな顔はしないでほしいな。


「変なものだなんてとんでもない!」


 慌てて否定してくれるのは嬉しいけど、流石に男の顔そのままの僕の今の姿は想像するだに滑稽なのは分かってる。優しい人達にこれ以上迷惑をかけないためにも、僕は隠者の仮面を着けて暮らすべきだろうね。


「あの、ナツメ様、先程の事なのですが……ナツメ様、何をされているのですか?」


「いや、僕の仮面何処に行ったかなと思いまして……仮面仮面……」


「ダ……」


「だ?」


「ダメデスゥゥゥゥッ!!」


「ほげぇっ!?」


 仮面を探す僕に女王様はいつぞやの先輩のような奇声をあげて飛びついてきた。


 なんだなんだ?こういうの流行ってるのかな???



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