第四話 仮面女子(呪
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数あるきらびやかな装備の中で異色を放つ仮面。これからの僕の大切な相棒。そう考えると、何だか装着感が良くなった気がするから不思議だ。
「二人共!僕も決めたよ!」
僕の声に振り向いた二人が一瞬驚いた後、露骨に顔を引き攣らせた。
「な、棗君?何で君はそんなホラー映画のおばけみたいな姿になっちゃってるのかな?」
「ん?だって僕の顔を隠せる装備はこれ位しか無かったんだよ。それにこの仮面、意外と性能も良いんですよ、色々便利な機能がついているんです」
僕が近づいて顔を近づけると、二人は躊躇いながら手を翳して隠者の仮面の性能を確かめる。
「耐呪と呪詛返しって、呪い対策に特化してるな。寧ろこの仮面が呪われてそうなんだが、お前一体何と戦うつもりなんだよ……」
「違うよ。もう一個の方、隠密、これ多分ひと目につかなくなるやつでしょ?」
「えぇ……君は殺し屋にでもなるつもりなのかい?」
なんだろう、二人の引き攣った顔が戻らない。なんだよぅ、そんなに変かな?この仮面。
「これでフードも被れば、ほら、性別とかそう言うの分かりにくくなったでしょ?」
仮面の上からフードを被って精一杯低い声をだす。何故か秀彦の引きつりが増したような……。
あれ?葵先輩、なんで俯いて震えてるのかな?心なしか剣呑なオーラが出ているような?
「き……」
「き?」
「
「ええ!?」
葵先輩が突然、”キャッカー”と奇声をあげながら襲いかかってきた。って、怖っ!顔怖っ!髪の毛振り乱してる上に、目にハイライトがないよ!これいつもの黒髪でやられたらチビってたかも。
「キャッカ、却下だよ棗くん!!その仮面をすぐに外しなさぁい!!」
「えぇ!?」
あの奇声は却下って言ってたのか。冗談じゃないよ、この仮面無かったら妖怪”顔面男子聖女”のお披露目じゃんっ!?うぉわ、先輩、腕力強っ!!斧と勇者の相乗効果なの?おい、秀彦、苦笑いしてないでこの暴徒鎮圧しろよ、お前
助けて女神様ー。
「……は!突然の奇声と暴挙に気を取られてボーっとしてました。どうやら決まったようですね。それではこれより王都サンクトゥスにお送りいたします。皆さんそのままの服装では困ると思いますので、服の方も無料サービスで差し上げちゃいますよ、これもちょっとした能力を付与してありますのでおたのしみに。それでは皆様良き旅を……座標指定、転送開始……あ、そうだ棗さんは女の子になったので髪の毛伸ばしてあげますね!」
ん?最後になんかいらんこと言ってなかったかな?女神様。
「ちょ、まって、棗君!すぐその仮面を捨てるんだ。そして私とキスをしよう!」
「ドサクサに紛れて何言ってるんですか!?この、この!」
「うふふふぅ、可愛い、可愛い!そんな可愛らしい女の子パンチ、今のパワーアップした私に通ると思うかね?このヤンチャな子猫ちゃんめ!……ふふ、ふふふ……ふ?く、ふふグフッ、同じところをピンポイントでグフッ、そこは肝臓の……ちょ、ちょっとまって……君は女の子になっても、ゴフッ、無駄にテクニカルだな!!」
「おい、そろそろ止めろよ姉貴、転送先で恥かくぞ?」
呆れる秀彦の声と共に僕らは光に包まれた。緩んだ先輩の腕から逃れた僕は、しっかりと仮面をかぶり直して、隠密を発動させる。これって発動させようと思えば思い浮かべるだけで発動するけど、OFFにもできるんだよね、便利。とりあえず発動できる物は全部発動させておこう。開幕で呪いかけられたりってのは無いと思うけどね……。
そんな事を考えていたらちょっとした浮遊感を感じて、何処かに着地する感触。やがて光は弱まり、周りの景色に色が付き始めた。
……――――
目を開けると、滑らかに磨き上げられた石造りの壁、赤い絨毯が目に飛び込んできた。採光用の窓枠には見事な装飾がなされ、高い天井を照らしている。周りを見渡せば中世ヨーロッパにあるような甲冑を着込んだ兵士が一定間隔に並び、無機質な兜がこちらに注目していた。
正直ちょっと怖い……けど、これ、僕のことは見てないっぽい?隠密先生早速お仕事してくれているのかな?
などと考えていたら、目の前の
「ようこそお出で下さいました勇者様、聖騎士様、お初にお目にかかります、私はこの国の女王セシリア=ジョゼア・ド・リヤル=サンクトゥースと申します。この度は突然のお呼びだてにお応え頂き、誠に有難うございます」
ふむふむ、これが鈴の鳴るような声というものなのか。声質の方も綺麗だけど、何より発音?なんていうか話し声そのものが心地よい。僕が女王様に見とれていると、先輩が前に出て軽い会釈をした。えぇ、先輩、何処でそんなかっこいい礼覚えたの?なんか凄い様になってるよ?
「お初にお目にかかります、私が勇☆者アオイ=タケハラでございます!」
なんか今の勇者、発音変じゃなかった?お、秀彦も挨拶するのかな?
「オ、俺はた、盾のヒデヒコ=タケハラだ、です!」
あがりすぎだよゴリラ。お前盾になっちゃってるぞ、無機物かよ。それじゃあ僕も……。
「僕は……」
ザワッ……
「ッッッ!?」
即座に周りの騎士が反応し、僕に槍を向ける。あ、これ知ってる、ハルバードってやつだ格好いい……と現実逃避してる場合じゃない!なんでいきなり槍向けられてるの僕!?
パニックになっていたら僕の前に影が差す。見上げると大きな背中が僕の目の前に立ちはだかっていた。
あ、秀彦が僕と騎士さんの間に入ってくれたんだね!うぅ、有難う秀彦、さっきはゴリラって言ってゴメンね。君は良いゴリラだ!
「お待ちなさい!お前たち即刻槍を引き、下がるのです、勇者様の前ですよ。申し訳ありません、貴方様は一体……?ここにいらっしゃったという事は貴方も勇者様のお仲間の方でございますか?」
「ひゃ、ひゃい……」
びっくりした、でも一応勇者のお仲間って分かってくれたんだね、殺されるかと思ったよ。
「しかし、此奴、いきなり現れましたぞ!面妖な仮面を被っておりますし!」
「私は下がれと言いましたよ、騎士団長」
力強く凛とした声が響き渡る、あんなにか細くて儚い印象なのに凄い。これが王様ってものなのなんだね、僕らとそんなに変わらない歳に見えるのに凄い迫力だ。
「失礼いたしました。勇者様方に刃を向けるなど、とんでもないご無礼を……えぇと……呪術師様でよろしいでしょうか?」
「あ、聖女デス……名前は棗と言いマス」
慌てて聖女様と言い直す女王様。うん、この姿で聖女はないよね。でも、この仮面とると更に酷いのでそこは許してほしい。さっきの凛とした姿もかっこよかったけど、ワタワタしてる姿も可愛い、どうやら良い人っぽい。あー騎士の人、土下座は止めてください、この仮面は確かに怪しいし、思った以上に隠密の性能が高かったみたいだしね。
「せ、聖女ナツメ様……ご無礼の段申し訳御座いません。全ては私の指示による物。部下たちに非はございません、つきましてはこの度の無礼、この私の首にて平にご容赦願いたく……」
そう言いながら騎士団長さんは腰の剣を抜いて首に添えようとしている。マテマテマテ!?
僕は慌てて騎士団長さんの手を握って、動きを制止した。
「わーわー、止めてください、首もらってもこまります!止めて止めて」
冗談じゃないよ、首なんかもらったって悪夢見るだけだよ!
「女王様もテキパキと断頭の準備するの止めてくださいね!?」
僕が怒っていない事と、騎士団長さんの謝罪を受け入れたことで、とりあえず騎士団長さんの首チョンパは回避されたみたいだ。勇者に無礼を働く事は、この国では相当重い罪にあたるのかもしれない。僕も振る舞いに気をつけないとだな。などと考えていたら、落ち着きを取り戻した女王様が僕らの前に戻ってきた。
「こちらへどうぞ、勇者様方」
女王様に促され、僕たちは応接間のような場所に通された。応接間の”よう”な場所と言ったのは、そこが僕の知る応接間とはかけ離れた豪華さだったからなんだけど。
腰が沈むような豪華なソファーに座ると、メイドさんが紅茶と茶菓子を用意してくれた。くっそ、仮面のせいで飲み食いが出来ない、後でお土産包んでもらったらセコイって言われるかしら……。あ、ゴリラ!このやろう、すごい勢いで食べるんじゃない。僕の分がなくなるだろう!
「ングング、食い物うめぇな異世界。んで、女王様達はなんで俺達が今日ここに現れるのが分かってたんだ?どう見ても偶然集まったって感じではないよな?」
おい、ゴリラ!女王様になんて口の聞き方してやがる!敬語を知らないのか森の賢人!あ、これはオランウータンか。と、言うか、口にものを入れたまま喋るな!!
ゲシゲシと机の下で足を踏みつけるけど、僕の体力は女の子になってしまっているためダメージが通らない。不思議そうな顔でこっちを見るな!仲間だと思われるだろ、仲間だけど!
「それは天啓の書と呼ばれるアーティファクトに女神様からのお言葉が現れたためでございます」
そう言って女王様が差し出した黒い石版には確かに文字が浮かび上がっていた。どうやらこれもあの女神様の
”やっほー、前に言ってた勇者様、召喚に応じてくれたわー。ちょっと手違いで一人じゃないんだけど、どの子も良い子よー。三日後の正午に謁見の間に飛ばすから、ちゃんとお迎えしてあげてね。勇者ちゃんと、聖騎士く (文字数限界)”
と、記されていた。
酷くフランクな天啓だな女神様、悪い意味で!しかも文字数足りてないから人数わかんないじゃないか。僕そのせいで串刺しになる所だったよ?迫る危機に対して、どうもあの女神様は緊張が足りない気がする……。
「文章に関しましては、女神マディスはその時代その時代に合わせて読みやすい文章を心がけていると教義に御座います」
「それにしてもこれは……」
「そう言う教義なので御座います」
「あ、はい……」
「コホン、それでは皆様には、我が国の置かれた状況のご説明をさせていただきます。宜しいでしょうか?」
雰囲気を真面目な感じに戻した女王様が話し始めた。その真剣な雰囲気に僕は息を呑んだけど、先輩は目をキラキラさせている。ゴリラは……出された茶菓子をモリモリ貪ってるね。やっぱり野生動物はお話を聞かない。
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