第三話 男顔のままなんですか……? 




「ふむ、クラスツリーを見た上での判断ですし、その意志を尊重いたしましょう。それでは棗さん、貴方は今から”聖女”です」


 今なにか、女神様とんでもない事言ったような?


「ぇ、え?えぇっ!?」


 思わず間抜けな声をあげた僕は、次の瞬間、まばゆい光に包まれていた。そしてゆっくりと光が収まると、僕の体には大きな変化が起こっていた。まず感じたのは胸部の違和感。何だろう、ちょっとだけ、ちょっとだけだけど、重さを感じる。


 ……ふにっ


 柔らか!?ま、まさか、こっちは!?


 ……スリッ


 無い!?僕の大事な、まだ使ったこともないあの子が無いよ!ツルツルだよ!?


「あ、ある……そして、無い……」


 狼狽える僕に、女神様は淡々と説明を続ける。


「聖女は回復と補助特化の職業なので、属性は聖、髪の色は本来は銀髪ですが、棗さんの就かれた職業の影響と、棗さんの清い無垢な心を写し、より白く染まったようですね。どうやら聖女の資質が恐ろしく高かったようです。こんな事は非常に稀ですよ、やりましたねっ。瞳の色は紫、これはアメジストの加護ですね」


 体を見下ろすと、そこには慎ましいながらもしっかりと存在を主張する双丘……所謂あれだね、おっぱいがある。んで、やっぱり無い、僕の……ない……。


「チ……」


「ち?」


「チェンジで!!」


 うわぁ、声が高い!!


 思わず叫んだ僕に目をまんまるにした女神様が絶望をプレゼントしてくれた。


「さ、流石に一度授けてしまったクラスを消すことは出来ませんよ?何故突然そんな事を」


「だって、二人は髪の毛の色変わっただけなのに、なんで僕だけ性別変わっちゃってるのさ!?」


「せ、聖女なのですから、男性のままでは可怪しいじゃないですか?それにクラスツリーにも書いてありますし」


「うう……」


 本当だ、良く見たら回復職の最上級に聖女って書いてある。しかもご丁寧に女性限定の文字が……。


「そ、そうだ、性転換したからには顔とかも変わってるんですよね!?」


「んー?棗君の髪の色と瞳の色は変わっているようだけど、顔はそのままだね。安心したまえ、いつものかわゆい棗君のままだよ!」


「本当だ……何も変わってねえぞ、ある意味すげえと思うが」


「!?」


 顔が変わってない!?何その悍ましい生き物!!


「やだ、やだ、やだぁ!!女神様、せめて性別だけでも、いや、顔だけでも何とかなりませんか?」


「え、えぇ……職を授けた時点で肉体と魂が異世界に行く準備を追えてしまってますので、ここから改変すると、それは最早人間ではないものになってしまいまして……その、そうなりますと……」


「そうなりますと?」


「魔王に近いといいますか、討伐対象となる上に元の世界に帰れなくなります……触手とか生えるかもですよ?」


「えぇ……」


「あ、でも地球の貴方は男の子として世界が認識してますので、地球に帰れば元に戻りますよ。あ、でも触手になってから地球に戻るのは流石に看過出来ませんが。その、ご免なさい、もうちょっとちゃんと確認を取るべきでしたね」


 うう、女神様も意地悪してる訳じゃないんですね。何か凄い恐縮しちゃってて見ていると罪悪感が……。


「棗君、何で悲しそうにしてるんだい?君はいつも通りとっても可愛いぞ?食べちゃいたいくらいだ!」


 うう、先輩は黙っててください。良いですよもう。顔がブサイクでも世界は救えます。暫く我慢すれば良いんでしょう?ゴリラは、あ、目をそらした。あいつ、笑うの我慢してやがるな……。肩が震えてやがる。


「分かりましたよぅ、男顔の聖女とかひっどい個性だけど我慢するよ……」


 先輩嬉しそうだなあ、この人は何考えてるのか良く分かんないなあ。て、言うか目が怖い、濁ってるしネットリしてる。これが女の人が感じる男の視線の不快感なんだね、相手も女性だけど……。


「それでは皆さんには私の加護が付いたアーティファクトを授けますよ~。この箱の中からお好きなものを2つお選びください。どれも素晴らしい逸品だと自負してますのよ~」


 なにやらドヤ顔の女神様がそう言うと、僕らの目の前に宝箱的な物が現れた。凄い、ここまで宝箱然とした箱って本当にあるんだね。胡散臭いほどお宝感がある。


 さて、この中から好きなもの選んでいいってことかな?あ、触るとそのアーティファクトの効果が表示されるんだ。本当にゲームみたいだね。


 あ、先輩もう決めてる……って両手に片手斧持ってブンブン振り回してるよ、何で斧、斧で行くかなあ。普通そこは剣と盾とかじゃないのか。あ、でも昔友達がやってた有名RPGは、勇者は鉄の斧装備してたし、その父親の勇者は覆面マントにパンツ一丁で武器は斧だったなー。あれ?斧って意外と勇者の定番なのかな?


 秀彦は……あ、良かった。盾と鎧を選んでる。見た目はゴリラだけど真面目なんだよね秀彦って。なんで葵先輩はあんなにフリーダムなんだろうなぁ。……フリーダムな姉に振り回されているからこうなったのかな?


 変な考察から秀彦の人格形成の謎に気がついてしまってホロリと涙が出そうになる。お前苦労してるんだな、見た目は森の紳士ゴリラだけど。


「なんで先輩は斧二刀流にしたの?それぞれの効果が違ってたりするの?」


「ん、愚問だよ棗くん。私はこのパーティの火力の要だからね、色々考えた結果この装備に落ち着いたんだよ。因みに、こっちの斧は力と体力が上がる効果があるんだよ、どうだい凄く強いだろ?」


「ふむふむ、確かにシンプルに強いですね。それでもう一つはどんな斧なんですか?」


「よく聞いてくれたね!こっちの斧はなんと力と体力がオゥフッ!?棗君、突然のレバーブロウは女の子にしちゃ駄目なんだぞぅ?」


 口からキラキラしたもの垂らしている先輩。良かったですね、体力マシマシになってるからダメージが少なそうじゃないですか……。


「うわぁ、棗くんがチベットスナギツネのような目で見つめてくるよ!?そんなに見つめられたらドキドキしちゃうじゃないかぁ、ハァハァ……」


 もう放っておこう、この人はきっと何を選んでも禄なことにはならないに違いない。勇者になって体力が有り余ってるらしい。こんな人物に力を与えて良いものなんだろうか……。


「んで、棗。お前は何を選ぶんだ?全然手を付けてねえみてぇじゃねえか?」


 横から秀彦が話しかけてきたけど、なにか様子が可怪しい。


「何だよ、秀彦。なんで目をそらして喋るんだよ」


「え、だってなー、お前」


 秀彦は僕の不幸を笑わないようにとでも思っているのか、僕の事をを見ようともしない。良いやつだとは思うけど、その扱いは結構傷つくぞ、おい、こっちを見ろ。


「ま、まあゆっくり選べよ。回復職は絶対に崩れちゃいけないパーティの要だからな、自分の安全を一番に考えろよ?間違っても両手に斧とかするなよ」


「ふむー……」


 改めて箱の中を見てみると、中には杖やローブ、指輪や、何だこれは……サークレット?ふぬ、横文字よくわかんないけど王冠とかそう言うノリかな?こんな女の子が喜びそうなデザインの髪飾りはいらないな。……このローブはいいね、デザインもシンプルなのに要所要所キレイな装飾があって……って、言ってるそばから装飾とかで選ぶんじゃないよ!女子か!あ、女子だ!!


 ――――――――――

 ”守護のローブ”


 耐毒(完全遮断)

 耐病(中)

 耐刃(小)

 耐炎(強)


  スキル


 空調制御

 

 このローブを身に着けている人物はいかなる気温下に於いても快適に過ごすことができる。但し、あくまで気温であって、炎の中に飛び込んだりする事が出来るわけではない。


 ――――――――――


 自分でツッコミを入れて凹みつつもこのローブは候補に入れておこう。効果は体力の自動回復と耐毒耐病か、健康的だ。あとフードが付いてる。これはプラスだね。男顔の聖女というおぞましいクリーチャーを誤魔化すのにサークレットで飾るとかじゃ意味がないからなあ、もっと根本から隠してしまわないとね。


「と……これは!!!」


 数ある綺羅びやかな装備の中、箱の底から、まさに僕にうってつけの物が現れた。他の装備とは違い、全く絢爛豪華という雰囲気ではないけど、これは良いかもしれない。


 ――――――――――


 ”隠者の仮面”


 耐呪(強)

 呪詛返し(強)

 警戒

 隠密 


  スキル 


 口寄せ


 死者との会話ができる。


 ――――――――――


 能力はなんというか……聖女らしくはないけど、素晴らしい。顔を隠せるだけでなくこの能力。


 ”隠密”


 顔を隠した上にこれを発動すれば誰も僕なんか見ないはずだ。よし、これにしようそうしよう、デザインは……のっぺりしたシンプルな白い面に、赤い血のようなもので呪文?文字と、あと大きな目が描いてある。個性的なデザインだね!


 ……て、怖ぁっ!!


 これ絶対聖遺物アーティファクトじゃないよ、絶対呪物だよ!異物混入だよ。

 でも、僕にはこれしか無い。僕は勇気を振り絞って、この禍々しい仮面を装着してみた。外せなくなったりしないよね?


 ……おお、凄い!穴がないのに周りがよく見える。むしろ裸眼よりよく見える。良いね良いね、これとローブで決定しちゃおう。


「二人共!僕も決めたよ!」


 仮面を着けて振り返ると、折角お披露目したのに、二人の顔はひきつっていた……いいじゃん男顔聖女よりマシだろ?


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